第58話

今回もまた地球温暖化に寄る突然変異の人間を襲う巨大魚と、亀一のテンションが下がる仕事だったが、内容は寅彦の気晴らしにはもってこいだった。


魚の巣を発見したら、あとは爆弾を設置して、ドッカーンである。


事情を聞いた真行寺が、寅彦にスイッチも押させてくれ、寅彦もご満悦でストレス解消出来た様だ。


「しかし、突然変異体って、みんな人間襲うな。なんでなんでしょうね、真行寺さん。」


亀一が聞くと、真行寺は運転しながらバックミラー越しに亀一を見つめて答えた。


「至極原始的な動機だと思うぜ?」


「ーあ…。弱肉強食ですか。」


「そう。地球がヤバくなって来てる。

自分達の種は守らなきゃならない。

そのために巨大化したり、凶暴化したりして、邪魔者を消して、存続を図る。

動物達の側からしたら、人間てのは1番邪魔だろう。

縄張りは荒らす。自分達の食物は取っちまう。住処も破壊する。」


「なるほど…。地球にだけでなく、動物にも復讐されてるんですね。」


「そういう事だと思うな。」


「ああ、なんか分かったら、突然変異体も大分大丈夫になってきた。」


「そりゃ良かった。」


真行寺が嬉しそうに笑った時、寅彦の携帯が鳴った。


「電話?珍しい。鸞だ。」


途端にニヤニヤと全員に見つめられ、寅彦は仏頂面になって電話に出た。


「ごめんなさい。今大丈夫?」


「おう。どした。」


「今日のお昼に日本に帰って来たんだけど、あの…。」


「ん?」


「ごめんなさい、寅彦君…。私どうしよう…。」


電話口で泣き出す鸞。


ただならぬ様子に、3人もニヤニヤしていられなくなった。


「どうした?言ってみな?」


「ごめんなさい…。

うちのお父さんが、寅彦君のお母さんを誘拐しちゃったみたいなの…。

寅彦君のお父さんが、さっき慌てた様子でいらして、加奈来てませんかって仰って…。

お爺様が来てないがって言うと、うちのお父さんから、加奈は返して貰うってメールが来て、駅の近くに、壊されたお母さんの携帯が落ちてたって…。

どうしよう…。ごめんなさい…。」


電話口に耳をくっ付けて聞いていた龍介と亀一が心配そうに見ている前で、寅彦はどういう訳か、クスっと笑った。


「鸞、俺、ほっとしてる。」


「え…。」


「加奈ちゃん、やっぱ組長が好きだったんだ。ずっと。

しずかちゃんがいくら慰めてくれても、やっぱりそれが可哀想で仕方なかった。

組長もさ。

だから、これで良かったんだよ。」


「でも…。」


「組長のところに行った方がいいって、俺もこの数日ずっと考えてた。

でも、加奈ちゃんの性格だと、後先考えずに組長のところに行くなんて出来ない。

組長が強引にでも連れてってくれなきゃさ。

だからこれでいい。ほっとしたんだ。本当に。」


「寅彦君…。」


どうもいつものように、頭で考えただけの結論を言っているわけでは無い様だ。


「かっこいいね、寅。」


龍介が頭を乱暴に撫でると、笑いながら龍介を睨んだ。

電話を終え、心配している真行寺に言うと、真行寺も言った。


「うん。かっこいいな、寅。いい息子だ。」


そして、何故か突然、真っ青になった。


「ーマズイ…。マズイぞ…。つまりは京極のデカブツに、この一件がばれてるってこったろ…。」


京極のデカブツ…。

確かに京極組長は背は大きいが、心配になる程痩せている。

デカブツ扱いはそぐわないし、ばれてるも何も、京極組長は当事者だ。


「グランパ…。デカブツって何?」


「恭彦のクソ親父で、俺の同期のあの大男、総身に知恵も回り兼ねの代表選手みてえな野郎だ。

寅、鸞ちゃんに電話して、あのバカ何してるか確かめろ。」


真行寺に早口で指示され、急いで電話する。


「ーお祖父さんはちょっと出てくると言って、出掛けたそうですが…。」


「パスポートは!?」


暫く待って、パスポートを探しに行った鸞の答えを伝える。


「パスポート、無いそうです。」


「やっぱりいい~!!!

龍介、竜朗に連絡だ!

ああ、いや、佳吾か!?

んああああ~!両方だあ!」


「どしたの、グランパ…。」


「後で説明する!いいから早くうううう~!!!」


何がなんだかサッパリ分からないが、竜朗に電話で伝えると、真行寺と同じ様な反応をした上、謎の言葉を発した。


「あれをやられたら日本の恥だあああ~!

加来も休暇取っちまって雲隠れだ!

加来と一緒と考えると、足取りはまず掴めねえ!」


「なんで?」


「情報官てのは、情報も操作出来っからだよ!

痕跡消すのなんか朝飯前だ!

おまけに加来は寅の親父だぞ!

あんな薄ぼんやりした容姿からは、想像もつかねえエキスパートなんだよ!」


「はあ…。それはそうだろうけど…。」


「ちょっと待ってな!吉行と相談して折り返す!」


龍介達は、お祖父さん達が何をそんなに慌てているのかサッパリ分からないまま、猛スピードで家に向かう真行寺の車に揺られていた。


直ぐに、龍介の携帯に佳吾から電話が入る。


「龍介君、スピーカーにして、義兄さんにも聞こえるようにしてくれ。

京極君はフランスに、急ぎでは無いが仕事を残してる。

彼の性格だと、仕事を放り出す事は考えにくいので、恐らくフランスに戻ったのではないかと。

ただ、加奈さんも加来君と同レベルの情報官だ。

元局長の動向を掴んで、路線変更も考えられる。

以上だ。」


聞き終えるなり、真行寺の指示が飛ぶ。


「寅!京極と加奈ちゃんの足取りを追え!」


「あ、は、はい。空港の監視カメラ当たってみます。」


「ん!」


「グランパ…。いい加減説明してくんない…?」


「そうだな。竜朗の方も今ちょっと立て込んでるから、俺と君達で、アレを阻止するしかない。話す。」


またアレだが、このアレもなかなか驚くべき内容だった。

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