第48話
出来たからと、ダイニングに呼ばれたので、行ってみると、そこには、大きなテーブル一杯に、素敵なフランスの家庭料理が並んでいた。
「凄えー!」
見た目も美しく、テーブルセッティングまでされた、その素晴らしい料理に、男3人の目がキランキランと輝く。
「全部鸞ちゃんが?」
龍介が聞くと、鸞の代わりに瑠璃が答えた。
「そうなの!すっごい手際良くて、5つくらい同時進行で作るから、習ってたつもりなんだけど、何がなんだか分からなくなっちゃった!」
「凄いね、鸞ちゃん。」
「いえいえ。しずか叔母様も、お料理上手だし、きいっちゃんと寅のお母様もお料理上手だって聞いてるから…。お口に合うといいのだけど。」
いただきまーすと元気良く挨拶をして、一口。
瑠璃は手放しで絶賛するが、男3人は驚いた顔をしている。
「やっぱり、お口に合わなかった…?」
珍しく自信なさげに言う鸞に気付いた龍介が、慌てて首を横に振った。
「違う違う!凄え美味いんだ。美味いんだけど…。」
すると、阿吽の呼吸の様に、寅彦が続けた。
「うちの加奈ちゃんのと、全く同じ味がすんだよ…。」
加奈と京極の間には何かあったらしい事だけ掴んでいる亀一は、考え込んでしまっていたが、矢張り慌てて付け足した。
「そうなんだよ、鸞ちゃん。会ってもねえ人の料理と同じ味ってのが、びっくりして…。でも、ほんと美味い。プロの料理人みてえだ。」
龍介は、亀一の頭の中にある事など知る由も無いので、明るく言う。
「うん、ほんと凄え美味い。
きっと、加奈ちゃんのと似てるのは、本場の味って、こうだからなんだな。」
そうすると、寅彦も考え直した様で、ニヤリと、いつものニヒルな笑みを浮かべた。
「そうなんだな。ほんと凄え美味い。」
「寅、幸せ者だな。」
龍介の何気ない一言に、寅彦真っ赤。
しかし、今度は鸞が首を傾げた。
「このレシピね…、お父さんの言う通りに味を変えて行ったら、こうなったのよ…。
寅のお母様とうちのお父さんて、知り合いなのかしら…。」
「加奈ちゃんは、俺たち妊娠する前は外務省勤めだったって言ってたけど?」
すると、鸞は突然青ざめた。
「ま、まさか、うちのお父さん、すっごいプレイボーイだったって話だけど、寅のお母様を弄んで捨てたんじゃ!?」
鸞以外の4人が、口に入れていた鶏肉のフリカッセを吹きそうになって、すんでの所で、ゴクリと飲み込んだ。
「そ、そら、京極さんのルックスなら、モテるだろうけど、弄んでって事は無いんじゃねえの…?」
寅彦がなんとか言うと、亀一も同意する。
「弄んで、捨てた人の料理を、娘に再現させるってのは、考えづらいぞ。」
龍介にとっては非常に難しい議題になってきたが、一応口を挟んでみる。
「も、もしかしたら、同じ職場の友達関係で、飯食わせて貰った事あって、あまりに美味かったから、その味が忘れられないって事だってあるかもしれねえじゃん…?」
また怒られるかと思ったが、何故か、寅彦より先に亀一が同意した。
「その線も考えられるな。兎も角、鸞ちゃんが気にする様な事じゃないし、この料理はとても美味い。という訳で、美味しく集中して頂こう。」
なんだか妙に大人発言の亀一。
丸で、龍介の様である。
そこに、寅彦は、口にはしなかったが、形容し難い疑念を抱いた。
ーなんだ、きいっちゃんのくせに、追求しないなんて…。もしかして、加奈ちゃんと京極さんの過去について、なんか知ってんのか…?。
何かは知らないが、それはあまり良くない事そうだというのは、優子の態度で分かっている。
亀一は、親友寅彦の幸せに水をさすような事はしたくないので、追求もしなければ、追求させもしなかったのだった。
失恋は人を大人にするのかもしれない?
かも…な所は、亀一だという事で…。
美味しく楽しく頂いた後は、男3人で後片付けを引き受けていた。
龍介の食器の洗い方はとても雑なので、亀一が流してるんだか、洗い直してるんだかという状態。
それを寅彦が綺麗に拭いて、食器棚に入れて行く。
「食器の趣味まで、加奈ちゃんと同じだな…。」
改めて食器棚を見ると、加来家と錯覚してしまいそうに、同じ様な食器が並んでいる。
「フランスの食器って、2社位しかねえって聞いた事あるぜ?。フランス製に拘ると、自ずと似ちまうんじゃねえの?」
龍介の何気ない一言に、心の中でいいねをする亀一。
「そうだ。うんうん。」
すると、寅彦より先に、龍介の方が怪訝な目で亀一を見た。
「ーきいっちゃん、随分とあり得ねえ位大人だな。あまりにいつもと違って、なんも追求しねえから、かえって気になるぜ。」
「俺も。なんか知ってんじゃねえの?きいっちゃん。」
寅彦にまで言われ、真っ青になる亀一。
彼は恐ろしいまでに隠し事というのが出来ない。
どうしようかと思っていた所に、いいタイミングで、瑠璃が顔を出した。
「鸞ちゃんが、フランスの双六みたいなのして遊びましょって。鵞鳥ゲームって言うんですって。流石フランスな素敵な見た目なの。
どう?終わった?」
「終わったぜ!なんていいタイミングだ、唐沢!」
「ーは…?」
龍介と寅彦は苦笑しつつ顔を見合わせた。
「何か気イ使ってくれているようだから、そっとしておこうか、寅。」
「だな。」
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