第27話
翌日、悟があのまま入院してしまったと聞いた龍介達は、日曜というのもあり、朝から4人揃って見舞いに行った。
悟は面会謝絶の状態で、母親と父親が暗い顔で、4人に昨日、悟を運んだりしたお礼を言いに、わざわざ出てきてくれた。
「大分悪いんですか…。」
龍介が聞くと、母親は涙ぐみながら話し始めた。
「そうなの…。なんだか分からないんだけど、何もしていないのに、身体中に次から次へと痣みたいなのが出来て、内出血して行ってるんですって…。
原因も分からないし、点滴しても、弱って行く一方で、手の施しようが無いって…。」
「そんな…!佐々木君死んじゃうんですか!?」
朱雀が言ったのを龍介が口を抑えて止めると、朱雀は龍介に抱きついて泣き出した。
「覚悟して下さいって言われたわ…。本当にもう何がなんだか…。あんなに元気だったのに…。」
龍介達は言葉も無く、お見舞いに持って来た花束と漫画を渡し、病院を出た。
「きいっちゃん…。あっちでなんかあったんじゃねえのか…。」
龍介が朱雀の背中をさすりながら聞くと、亀一は考えながら答えた。
「ー人の命を助けた訳じゃねんだが…。
向こうの佐々木が大村達にカツアゲされてて、佐々木は情けない事するな、金なんか渡すな、お母さんや先生に言って、自分も毅然としてろ、頑張れって言ったんだ…。それがまずかったのかな…。」
「うーん…。聞いてたメカニズムとはちょっと違うが…。もしかして、それに寄って、誰か助かったりしたのかもしれねえな…。ちょっと向こうに行って、調べてみるか…。」
「どうやって?」
「きいっちゃんが作ったパラレルワールド装置は、行きたい日付けとかも選べるのか?」
「ああ、それは出来ない。タイムマシン機能は付いてねえからな…。今現在の向こうにしか行けない。」
「ーう~ん、じゃあ、こういうのは?こうだったらどうこうって可能性の世界なんだよな?て事は、佐々木が行かなかったらの世界もある?」
「理論的には出来てる筈だ。昨日行った世界からメモリを少しずらしたところに世界が存在して居れば、ランプが光る様になってる。昨日行った世界のメモリしか昨日は存在してない様だった。」
「じゃあ、ちょっとやってみてくれ。」
そういう訳で、4人で大急ぎで基地に戻り、メモリをずらしてみた。
すると、右回転に1目盛ずらすと、ランプが光った。
「出来てるな…。」
亀一が言うと、龍介が立ち上がった。
「よし。行こう。」
こっちの悟が、大村達に虐められていたという公園には誰も居らず、龍介達は悟の家に行ってみた。
しかし、4人揃って、真っ青になり、固まってしまった。
なんとお通夜の準備をしている。
誰の葬儀なのか聞きたい所だったが、昨日の事がどんな影響を残しているのか分からないので、下手にこっちの人と話すのも憚られ、龍介はそっと家の裏に回った。
丁度庭に面した和室には、真っ白い布団に誰か寝かされ、顔に布が掛かっているのが見えた。
悟の母親と父親が、その誰かの側に、疲れ切った顔で座っている。
そして聞こえた声に耳を疑った。
「どうして死んじゃったの、悟ー!なんで言ってくれなかったのー!」
母親がそう言って泣き崩れたからだ。
悟の父は目を真っ赤にして、握った拳を震わせて、母を抱きかかえながら言った。
「お父さん、あいつら絶対に許さないからな…。少年法なんてクソくらえだ…。実名公表して、親も一緒に社会的に抹殺してやるからな!」
ー少年法…?つまり、佐々木は大村達に殺されちまったのか…!?
龍介が戻り、見聞きした事を話すと、亀一も寅彦も龍介が思った事に同意した。
「ちょっと…、調べてみるか…。寅、こっちでネットは使えそう?」
龍介が聞くと、寅彦はハッとなって我に返った。
日頃、あまり動じない寅彦だが、今回は流石にどうしたらいいのか途方に暮れた状態になってしまったらしい。
「あ、そうだよな。ちょっとやってみよう。」
しかし、やり始めて、直ぐに唸りだした。
「どうした?」
「ネットのシステムが全然違う…。携帯の電波やwifiも俺たちの世界とは全く違う…。わかりやすく言うと、周波数が違うって言やあいいのかな。兎に角、全く歯が立たない。外国の方が未だマシ。正しく、次元が違う。」
龍介が微笑みながら寅彦の肩を叩いて労った。
「そっか。寅がお手上げじゃ誰でも無理だな…。ありがと。じゃあ…。夕刊て何時に販売店に来るんだろう?」
「4時位には配ってるから、準備含めて、2時か3時には来てんじゃねえか?」
亀一が言うと、龍介は腕時計を見て言った。
「今12時だから…。一回戻って、2時位にまたここ来て、販売店の前で張ってよう。」
龍介達は1回自分達の世界に戻り、コンビニで昼食を買ったが、なかなか進まない。
皆、悟が心配で苦しくて堪らなかった。
こういう時、龍介はとどまるより、行動する事にしている。
「念の為、昨日きいっちゃん達が行った方の佐々木がどうなったかも調べておこう。」
3人も動いていた方がまだ気分がマシらしく、直ぐに動いた。
昨日行った方の世界では、悟は元気に父親とキャッチボールなんかしていた。
試しに大村の家に行くと、母親と父親の怒鳴り声や叩いた様な音や何処かにぶつかる様な音がし、大村の泣き叫ぶ声も聞こえてきた。
龍介が状況を整理する。
「この感じだと、こっちの佐々木は、うちの佐々木のアドバイス通りお母さんや先生に話した事で、大村達に金を持って行く事もせず、死なずに済んで、大村も悪さがばれて、親にしこたま怒られてると…。
だけど、うちの佐々木がアドバイスしなかったら、こっちの佐々木は金を持っていったのか、あるいは持って行けなかったかで、大村達に暴力を振るわれた挙句、殺されてしまったって感じかな。」
「だな…。新聞見るまでもねえか?」
寅彦が言うと、龍介は司令官の顔になった。
「念の為裏は取ろう。戻ったら二手に分かれる。
寅と朱雀は、新聞で事実を確認してきてくれ。
俺ときいっちゃんはその上で、どうすりゃうちの佐々木を救えるか策を練って動いてる。
うちの佐々木は死にかけちまってる。早く片付けないと、あいつ本当に死んじまう。」
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