第15話
丁度、1回目のタイムトラベルの龍介達が到着したが、龍太郎は細かく設定したらしく、龍太郎号は林の木が密集している中なので、少し隠れれば気が付かれずに済む。
「おお、気絶してんなあ。30年前の技術だな。」
「そうなのか…。」
「ん?」
龍介を見て、大人2人は声を押し殺して笑い出した。
「なんなの、龍。なんで胴着?昭和っつったって、和服の人なんかもう珍しい時代なのよ?」
「わ、分かってるけど、時間が無かったんだよ。」
「可愛いとこあるんだな。お宅の龍介君は。」
「そうなのよ。まだまだ子供っぽい所が時々見えるのが、なんともね。」
このお年頃の男の子で、可愛いと言われて喜ぶのは、朱雀位のものだ。
龍介はブスっとしていたが、不思議な気もした。
龍太郎はあまり家に居ないくせに、龍介をよく分かっている。
さっきの龍太郎のセリフは、竜朗にもよく言われる事だ。
「お、動きだした。尾けてみようか。」
龍太郎がそう言って、そろそろと気付かれない様に後を尾けて、また笑い出す大人達。
「なんだ、朱雀は動かなくてもいいのか。」
丁度朱雀がサトちゃんにまたがって、ご機嫌な所を目撃してしまった。
「そうなんだよ。金使えねえから、動かせねえんだぞって言っても、乗るって言ってさあ…。恥ずかしかった…。」
「そんな顔してんね。」
暫くして、龍介達と悟が別れた。
悟は暫くおもちゃ屋の前をウロウロし、ポケットの中の聖徳太子の一万円札2枚を見ては考えている。
「我が子ながら、よく昭和の金持ってくるのなんか思い付いたよな。」
「おじさん、もしかして佐々木にこの時代のプラモとかの話したんじゃないんですか。」
「ーああ…。したかもしれない。スーパーカーブームとか…。でも、スーパーカーブームは、随分前の話なんだけど、昭和ってだけで一緒にしちゃったのかな…。」
「かもしれませんね。」
「そうだね…。あ、店入りそう!じゃ、俺行ってくる!」
悟の父が駆け出し、悟の前に立った。
悟は凄まじく驚いて、声も出ない。
それはそうだ。
居たとしても、高校生の筈の父が、悟の知っている父の姿で目の前に立っているのだから。
「悟。あのプラモ、買わないでくれ。」
「お、お父さん…。どうして…?」
「悟がこのプラモ買ってしまった事で、歴史が変わっちゃったんだ。
これは、本当は龍介君のお父さんが買う筈だった。
買い物帰りにお父さんとばったり会って、それ、欲しかったけど買えなかったんだって話をしたら、じゃあ一緒に作ろうと言ってくれてね。
お父さん、夢中になって作って、車の設計やりたいって思ったんだ。
そしたら龍介君のお父さんが完成品を僕にくれて、設計士になれよって励ましてくれてさ。
お父さん一生懸命頑張って設計士になったんだ。
でも、それを悟が買っちゃったが為に、お父さんは設計士じゃなくて、家電メーカーの営業って職業になってた。
それと同時に、悟の存在も消えてしまったんだ。
お父さんは覚えてたけど、他の人は誰も悟の事なんか覚えてない。
覚えてないっていうか、知りもしない状態になっちゃった。
そんな中で、龍介君は悟の事覚えていてくれて、悟の事物凄く心配して、方々駆け回って探してくれたりしたんだ。
お父さんは詳しい事は分からないんだけど、歴史を変えてしまった人は、存在も消されてしまうし、タイムトラベルも無かった事になり、タイムマシンも消えちゃうんだって。
悟や歴史を元に戻す方法は、悟にこのプラモを買わせない様にする事だけだ。
だから、龍介君のお父さんが仕事休んで、タイムマシンを作り直してくれて、ここに来たんだ。
長岡君と加来君も後から思い出して、タイムマシンを作るのを強力してくれた。
悟、そのプラモは諦めて買わないで帰って来てくれないか。」
「そうだったんだ…。そんな風になっちゃうんだ…。ごめんなさい…。うん。買わないよ。」
「うん。じゃあ、誰にも見られない内に林に戻っていようか。」
「うん。」
龍介親子は先に林に戻っていた。
悟は龍介親子と合流すると、2人に頭を下げた。
「本当にごめんなさい。凄いご迷惑おかけしました。加納、あの…。」
と言いかけて、龍介の、こめかみに青筋、不敵な笑みという、最上級にお怒りの時の顔を見て、言葉に詰まる。
「ほ、本当にごめん…。長岡の言う事聞かなくて…。」
「全くだあ…。散々駆けずり回り、心配した俺も身にもなってみろ…。死んじまったのかと思ったぜ!」
「ご、ごめん…。」
悟は後退り、龍介は指をポキポキ鳴らしながら迫る。
「ぜってえ許さねえ!てめえ半殺しだ!」
ダッと悟に飛びつこうとする龍介から逃げ、2人は林の中をグルグルと、運動会の時の龍太郎と柏木の様に追いかけっこを始めた。
勝負がついた頃、第1回タイムトラベルの龍介達が林に入って来たので、悟を残し、龍介は引っ込んだ。
朱雀が悟の頭に近い所にある、おでこの大きなたんこぶを見つけた。
「佐々木君、どうしたの?それ…。」
「ちょっと…。野良犬に追いかけられて転んだ…。」
野良犬という表現に受ける大人2人と、憮然として肩をいからす龍介。
5人が無事に帰ると、龍太郎は時間設定で止まった。
「うーん…。なんか嫌な予感がするが、来た時間に戻らないとマズイんだよな…。まあ、仕方ねえか…。」
ブツブツいいながらパソコンを操作。
「出発日時の2008年8月15日午後10時32分と…。よし。では帰ろう。」
気絶しない龍太郎のタイムマシンで、龍介は光の渦の中に人が居るのが見えた。
「父さん…。人が居る…。なんで渦の中に居るの…。」
「ー多分、あの人達は命令で歴史を変える様な事しちまったアメリカ兵だ…。
生きては居るが、この光の渦の中に居るって事は、時間は永遠に止まっちまってんだろうな。
気が狂いそうな世界だろう…。」
「助けてあげられないの?」
「この光の渦はね、超光速スピードで進んでるって事なんだ。それが時間を飛び越える為に必要な事でね。
難しい理論は省くけど、俺たちは、流星よりも早く進んでる。
そこから飛び降りて、あの人達を助けようとしたら、死ぬのは必至だ。
助けるには、一人一人に悟君にしたのと同じ事をしなくちゃならない。」
「ー誰がしてるんだろう…。歴史を変えた人にそういう処分て…。」
「うーん…。誰なんだろうね…。強いて言うなら、摂理かな…。」
「摂理?」
「うん。人間が手を出しちゃいけない所に手を出すと、必ず何かしらの不具合や問題が生じる。
誰でもない何かが、均衡を保とうとしてる。
それがよく言う自然の摂理ってやつなのかなとね。」
「難し過ぎて分からない…。」
「だよな。俺もよく分かんねえもん。」
加納家の庭に無事到着すると、家族の他に亀一や寅彦、悟まで待っていた。
覚えている人は、全ての事を覚えているらしい。
「良かったあ!お帰り!」
口々に言い、おでこにたんこぶの出来た悟が龍介の前に立った。
「こっち帰ってきたら、消えてる間の事思い出したよ。
気持ち悪くて寂しい所だった…。お腹も減らないし、喉も乾かない。時間が経過してない光の渦の中…。
人は居るけど、話も出来ないんだ。時間が流れてないから…。凄く怖くて寂しかった。
加納、覚えててくれて、助け出してくれて、本当に有難う…。」
龍介はカラッと笑った。
「まあ、これに懲りて、きいっちゃんの言う事は聞くように。」
「はい…。ていうか、仲間除名じゃないの?」
「1回位なら許してやる。反省もしてる様だし。だが次は無え。きいっちゃん達は?」
「いいよ。」
悟も笑った所で、しずかが引きつった笑みで龍太郎に話しかけた。
「龍太郎さん…。」
「ん?」
「私よく分からないんだけど、今回の事件、無かった事になったじゃない?」
「まあそうだね…ああ!?」
何かに気付いて、真っ青になる龍太郎。
「まさか欠勤の届け、してない事になっちまったのか!?」
「その様で、東原准将から『明日出勤したら覚悟しとけ。』とお電話が…。」
「うわああ!俺、無断欠勤!?」
「そういう事になっちゃったみたい…。」
「ぬおおおおおー!」
頭を抱える龍太郎に、一際嬉しそうな竜朗が言った。
「ざまあみろだな。絞られて来い。」
「お、お父さん、東原准将とは高校の同期でしょ?間に入っていただけませんか…。」
「やなこったい。さあ、飯にしようぜ。今日はビーフカレーだ。佐々木んちはどうする?」
「あ、取り敢えず帰ります。僕ももしかしたら無断欠勤になってるかもしれないので…。」
「ん。じゃ、気を付けてな。」
悟の父は竜朗やしずかにも礼を言い、龍太郎と龍介にもきちんと頭を下げて帰って行った。
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