第11話 大きな貢献を期待しているよ


「さて、出たり入ったりで悪いけど、もう一度冒険者ギルドに戻るぞ」



「はい。いよいよ大型クエストに挑戦されるのですね。


 F級なのにSS級クエストを華麗にクリア。また俺なにかやっちゃいました?やれやれ、この程度大したことではない。俺はなるべく失礼のない話し方でそう言った。このことは内密にな。ビュッビュッ!


 ということですね」



「違う。


 併設している図書室で調べたいことがあるんだよ。


 新聞のバックナンバーがあるはずだから」




 サラ達の村を出た頃から少し気になってることがある。


 大急ぎというわけではないが、せっかく今ギルドに登録したのだ。


 また出直すよりは今調べてしまおう。




 —-と、ギルドに入ってみると、なにやら盛況だった。一箇所に人集りができている。




「ほらっ邪魔だ邪魔だ!領主様のご用事は済んだんだ!道を開けろ冒険者ども!」



「君、そんな言い方は良くないよ。彼らは我が街の大事な人的資産だ。いつ " も大変な貢献をしてくれている。


 冒険者諸君。なにか活動する上で要望があれば、いつでも言って来てくれたまえ。


 ギルド長経由でも、我が屋敷に直接連絡をくれても構わない。


 だがすまない、今日はこの後大事な用事があるのだ。


 少し道を開けては、くれないか」



 人集りの中心からそんな穏やかな声が響くと、冒険者達の輪が静かに動く。 丁度俺たちのいる入り口の方が開いた。



 中にいた人物と不意に目が合った。



 知っている人だ。


 というか、超有名人だった。



 黒服のSPを抱えるその方は、ラディック・カストール伯爵。


 この 冒険者の街ベルダインを統治する領主だ。


 押しも押されぬ上級貴族様って奴だ。



「随分とハンサムな方ですねえ」



 ムゥが小声で俺に言う。


 素直に同意する。



 俺より更に10歳くらい年上のはずなんだけど、肌のハリというか目の輝きというか、若々しさが全然違う。



 っても若者と見間違えるってことはなく、経験を積んだ落ち着きや知性を感じさせる佇まいだ。


 ナイスミドルってのはああいうのを言うんだろうな。


 なんか気後れしちゃうぜ。




「おいそこの!カストール伯に道を開けろ!」



「よしなさい。おや、君はケビン君かな?」



「へっ?」



 カストール伯が俺を知ってる?


 アレストと組んでた時も、俺だけ謁見させ てもらってないんですけど。



「ははは、君の事は聞き及んでいるよ。


 この街の冒険者の事は一通り私の耳 に入ることになっている。 ーーアルデオ村では大変な活躍だったそうじゃないか」



 アルデオ村。


 ああサラやエドがいた村だな。



 こんなニュースまでご存知なのか。


 流石は”冒険貴族”カストール家の現当主。


 俺らみたいな下々の民にも理解がおありだ。




「今後とも頑張ってくれたまえ。


 ベルダインは君を歓迎する。大きな貢献を期待しているよ」



「ハっ......へへへ。サーセン」




 握手を求めてくれるカストール伯に、裏返った変な声で対応してしまった。


 いかん、これじゃ完全に社会不適合者だ。


 こういう時に人生経験の浅さが出るね。


 年甲斐もない。死にたい!




 ちょっと失笑を買ってしまっ感もあるが、あくまで紳士的にカストール伯は振舞って下さった。


 穏やかな微笑みをたたえて去っていった。




「大変な方の登場でしたね。


 領主ともあろうお方が、冒険者ギルドになんのご用だったのでしょう」



「カストール家の人々は”冒険貴族”なんて呼ばれてて、皆んな若い頃には 必ず冒険者として活動する変わったしきたりがあるんだ。


 冒険者の街ベルダインの領主だからそうしているのか、そんな彼らが統治 しているからこの街の冒険者稼業が盛んなのか。


 卵と鶏どっちが先かはわかんないけど。



 中でも今のラディック様は筋金入りで、15年前に当主に就任するまでは、Bランクの召喚術士としてバリバリ活動してた本格派らしい。


 いまでもギルドとは親交があるんだろう」



「それはそれは」



 そう言うとムゥは、カストール伯の後ろ姿と俺を交互に何度も視線を往復 させた。


 何が言いたいのかな?(無言の圧力)




「同じおっさん、同じ召喚術士でこうも違うものですか」



「口に出したら戦争だろうが!」



 今のは言わないで欲しかったなー!



「片や貴族様のお嗜みでBランク。片や専業冒険者でCランク」



「もうその辺にしてくれ!いいから行くぞ!図書室は二階だ!」



 ムゥの顔を見ずにスサスサ階段を登る。泣いてないよ!



 ーー




 司書に新聞のバックナンバーを出してもらうよう依頼し、何気なく図書室全体を見渡す。


 昔は冒険者なんてごろつき同然で、ちゃんと調べ物をする奴なんて少数派だった。



 だから図書室はいつもガラガラで、俺もそこでアドバンテージが取れてた。




 でも今は結構賑わってるなー。


 みんな真面目に調べてるよ〜。



 やべえな、 昔の感覚だとマジで置いてかれるぞこれ。




「ご主人様、面白そうな本を見つけて参りました」



 ムゥが持ってきたのは、『30代から読む部下のコーチング術』という本だった。



「失礼しました、人の上に立たないご主人様には無縁の本でしたね。


 ではこちらはいかがでしょう。『もう揉めない!嫁姑問題の解決法!』です。


 失礼、 こちらも独り者のご主人様には無縁でした。


 ではこちらを。『絶対得する3 0代からの資産運用法!』。


 ハハハ!今日の食費にも事欠くご主人様には無縁でしたね!」



「やるってんならトコトンやるぞ表に出ろ!」



 調子に乗るのもいい加減にしろよこの野郎!俺だって怒るときゃ怒るんだ からな!



「お2人とも。図書室ではお静かに」



「「あ、すみません」」




 司書さんに怒られてしまった。


 結局ムゥには小遣いを渡して下の食堂で待っててもらうことにした。恥ずかしい....。


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