第91話教皇とバトルします。中編
「ぐ、ぐおおおおおっ!」
ギタンの傷口が少しずつ塞がっていく。
ほう、体内に熱を発生させ、それで毒を分解したか。
だが余程の力技だったのだろう。体力は減っているようだし、傷口も完全に治ってはいない。
「……なるほど、確かに毒に対しては完全な対策はしていませんでしたよ。ですがそのような攻撃は二度と喰らいません」
ギタンの身体に輝く文様が浮かび上がる。
何だありゃ。虫の甲殻のように見える。
「高い魔力耐性を誇るアークビートルの甲殻で身体を覆いました。これで毒も通りませんよ」
アークビートルの甲殻は軽く丈夫で、鎧にも使われると聞いたことがある。
だが希少な魔物で中々手に入らないらしいが……それをあんなにあっさり生み出すとは。
「もしかして、他の魔物の部位も生み出せるのか!?」
「当然です。ゴッドマンティスの鎌にシルバーコングの毛皮、他にもありとあらゆる魔物の力を使えるのですよ」
「ゴッドマンティスにシルバーコング!? 大陸深部に住む希少種じゃないか!?」
驚き目を見開く俺を見て、ギタンが嗤う。
「くくっ、驚いているようですね。観念するならば楽に殺して差し上げますよ」
「ハッ、たかが魔物の力が使えるくれぇで何を偉ぶってやがるんでぇ! ロイド様、やっちまってくだせぇ!」
声を上げるグリモ。だが俺は舌を巻いていた。
あらゆる魔物の部位を構成出来るだと? あまりに凄まじい能力である。
「……恐れ入ったな。俺にはこいつを殺せそうにない」
「ロイド様っ!? どうしたんですかいそんな弱気になるなんてっ!」
「いや、実際とんでもない能力だよ。魔物の素材は物によってはかなり入手が困難だ。魔剣製作や魔道具を使える物も多く、量も必要だしな。だがそんなものを自在に生み出せるなんて、とてもじゃないが俺にはこいつを殺せないよ。……もったいなくて」
「へ……?」
俺の言葉に全員の目が点になる。
あれ? 一体どうしたのだろうか。
俺、何か変なこと言ったかな?
「は……はははっ! さ、流石はロイド様だぜっ! じゃあ生捕りだ! そいつから素材を剥ぎまくってやりましょうぜ!」
「えぇ、そして神聖魔術にて悪しき心を浄化し、配下に加えましょう」
「おおっ! なるほど、それはいい考えだ」
魔物と人を合成した挙句、それを咎めた者を口封じのために殺そうとするなど、明らかに邪な心によるものだ。
王子たるもの悪を憎んで人を憎まず、道を踏み違えた者は正しき道に導かねばならない。
……奴の身体を一旦吹き飛ばし、再生の瞬間に重量物を埋め込んで一生動きを封じるという手も考えたが、それよりも改心してもらった方が楽だよな。
「く、くくく……もったいなくて殺せない、ですか……笑わせてくれる。ならばやってみるがいい!」
「言われるまでもない」
既に術式は構築してある。
浄化系統神聖魔術『極光』。
最上位に位置する浄化の光を魔力集中にて一点に束ね、放つ。
ぎらりと眩い閃光がギタンの胴体を貫いた。
「やったぜ! 直撃だ!」
「い、いや! 効いていない! 向かってきますよ!?」
光を受け、白い煙が上げながらもギタンは構うことなく突っ込んでくる。
「愚かな! 神聖魔術の使い手たる私が、その対策していないはずがないでしょう!」
まぁそりゃそうか。
精神操作魔術への対策は比較的容易だしな。
精神系統魔術『心天蓋』。
物理衝撃に対する防御力は全くないが、その代わりにあらゆる精神操作を防ぐ効果を持つ。もちろん俺も常時展開している。
元々精神操作魔術自体が脆弱な術式で構成されており、不意打ちのような形でしか決まらないのだが、これがあるとまさに鉄壁。
術者の間に相当のレベル差があっても、これを張られている相手に精神操作を当てるのは不可能である。
「しかも奴は五つの脳を持ち、高速での術式展開を可能としていやがる! ちくしょう、反則だぜ!」
「いくらロイド様と言えど、この結界を突破して神聖魔術を当てるのは流石に厳しいでしょうか……!」
確かに、こちらが結界を解除するより先に向こうが結界を再構築する方が早いだろう。
少なくとも現在の条件では。
「だったら奴の脳を破壊すればいい」
術式構築速度が今の五分の一になれば、奴の結界より俺の神聖魔術の方が強いはずだ。
破壊し、再生する前に全力の神聖魔術を叩き込んでやる。
「何をごちゃごちゃと!」
先刻の間に、ギタンは鋭い爪を生やしていた。
黒く歪な形の爪だ。この自信、なにかあるな。
「ルーンウルフの爪ですぜ! こいつの爪は術式を切り裂き、魔術による防御を無効化する! 魔力障壁で受けるのは危険でさ!」
「なら……『光武』」
光の剣を生み出し、それで弾き飛ばす。
実体化した光の剣なら、術式破壊の影響は受けない。
更に刃を滑らせての刺突。
「ラングラス流双剣術――乱れ竜角」
それに合わせてシルファの動きをトレースし、乱撃を繰り出す。
「中々の速度ですがその程度、神魔生物である私には通じませんよ!」
だがギタンはそれを全て打ち落としていく。
むぅ、捌き切るのはキツいか。
後方に大きく飛んで魔力を集めていく。
大規模魔術でさっさと吹き飛ばす。
二重詠唱――
「おっと、あなたの魔術は非常に危険だ。故に封じさせてもらいましょう」
俺が構えたのを見て取ったギタンは、そう言って地面を切り裂いた。
何をするつもりだ。
しかも自分も落ちている。
俺は疑問を感じながらも、着地した。
どどどどど! と破片で土煙が上がる中、周りから戸惑うような声が聞こえた。
「な、なんだ一体!? 何が起こっている!」
「わからん! 天井が崩れて……」
「ひいっ! ば、化け物よぉっ!」
土煙が晴れ、辺りを見渡すと周りには信徒たちがいた。
皆、俺たちを見て恐れ慄いている。
「祈りの間です。こんな時間でも神に祈りを捧げる者たちが沢山いるのですよ。どうです? 周りにこれだけ人がいれば、大規模魔術も使えぬでしょう」
勝ち誇ったように笑うギタン。
だが俺は構わず詠唱を再開する。
「き、貴様何を……!? この者たちがどうなっても構わないのですかっ!?」
「■■■、■■■――」
呪文束による高速二重詠唱。
戸惑うギタンに放つのは、土と水の二重合成魔術『氷烈嵐牙』。
魔力集中にて放たれた冷気の渦が、ギタンを飲み込む。
「効果範囲の狭い『氷烈嵐牙』を放つと同時に周囲に結界を展開した。これなら巻き添えにはならない」
「ロイド様ァ! 今何人か凍りそうになってやしたぜ!」
「このジリエルが防いでおきました! このジリエルが!」
……ちょっと漏れていたらしい。まぁミスは誰にでもあるよな。うん。
ジリエルのフォローに感謝しつつ、ギタンを見やると魔力障壁でガードしていた。
二重詠唱でも防がれるか……やはりかなり高レベルの魔術師のようだ。
しかもあの再生力。並みの魔術では倒せない。
「そうだ、口ならもう一つあるじゃないか」
ジリエルの宿るこの左手のひらに付いた口を使えば、三重詠唱が可能となる。
これを魔力集中で撃てば、奴の魔力障壁を破り、致命的なダメージを与えられるはずだ。
三重合成魔術、二重合成よりもさらにタイミングがシビアだが、
「やってみる価値はある……か!」
そう呟くと、俺は両手のひらの口を開き身構えるのだった。
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