第83話どうやら黒幕がいるようです

「……はっ! こ、ここはどこかね!? 私は一体……?」


 神父は起きあがり、辺りを見渡す。


「オンッ!」

「うおっ! ……キミはあの時のワンコか? おおよしよし、こら、そんなにペロペロと舐め回すな。ははは」


 シロが神父の膝に飛び乗ると、顔を舐め回している。

 どうやら無事、元に戻ったようだな。


「大丈夫でしたか? 神父様はさっきまで魔物に憑依されていたんですよ」

「む……ロイド君が助けてくれたのか。……すまない、どうやら迷惑をかけたようだ」

「いえ、俺も色々都合が良かったですし」


 結果的にレイスも捕えられたし、色々実験も出来たしな。

 神父にも貸しを作れて万々歳である。


「ん? 何か言ったかね?」

「いいえ何でも。それより取り憑かれていた時の事を憶えていますか? 出来るだけ詳細に教えてくれると嬉しいのですがっ!」

「い、いきなり目を輝かせてどうしたのかね!? ……期待に応えられなくて残念だが憶えていないよ。眠っていたような感覚だな」

「なんだぁ……そうですか」


 取り憑かれていた時の事は憶えていないのか。つまらぬ。

 がっくりと肩を落とし、ため息を吐いた。


「と、ともあれありがとうロイド君。礼を言わせて欲しい」

「私も礼を言わせて下さいっ! 本当にありがとうございました。ロイド君は命の恩人です」


 そう言って頭を下げる神父とイーシャ。


「気にしないで下さい。それよりこいつの処遇ですが……」


 俺はパタパタと手を振りながら、結界に閉じ込めていたレイスを見やる。


「さて、洗いざらい吐いてもらおうかな」

「ぐっ……俺が何故神父に取り憑いたかを聞きたいってのかよ……?」

「それもだが……さっきの攻撃を受けた感覚を知りたいんだけど」


 陰と陽の『気』や神聖魔術、それを人体越しに受けた感覚。

 どんなものだったか、気になるのが人情ってものだろう。


「いえ、それを聞きたいのはロイド様だけだと思いやすぜ……」

「えー、そんな事ないだろ」

「いや……うん、何でもないです……」


 何故かグリモに呆れられてしまった。不条理である。


「……訳のわからぬ事を……だが無駄だ。俺は何も喋らぬ。主を裏切るような真似は出来ないからな!」

「主……先刻のグールも死に際に何か言いかけていましたね。やはり黒幕がいるという事ですか?」

「ふふ……想像に任せるとしよう……ぐふっ!」


 そう言って、レイスは砂が崩れるように消滅してしまった。


「ありゃ、消えちゃった」

「精神体ってーのは敗北を認めた瞬間に大きく弱体化しやす。ダメージもかなり受けてたし、消滅しちまったんでしょう」

「そうなのか。色々聞きそびれてしまったな。残念」


 折角、貴重な体験談を聞くチャンスだったのに。


「自害したようですね。黒幕を聞く機会を逃してしまいましたか……」

「うん、一体誰が教会に魔物を送り込んだんだろう?」

「ふむー、神父さんは何か憶えてないか?」


 タオの問いに神父は顎に手を当て考え込む。


「……いや、ここ数日の事は何も覚えていないのだ。私よりもむしろイーシャに聞いた方がいいだろう。何か気づいたことはあったかね?」

「そう、ですね……そういえば聖餐会の翌日辺りから、神父様の様子が少しおかしかったような気がします」

「ふむ……言われてみれば確かにその辺りから記憶がぼんやりしているな」

「という事は聖餐式の参加者の中に、神父様に悪霊を取り憑かせた人物が……!」


 神父の言葉に、全員が息を呑む。


「聖餐会に参加するのは誰でも可能なのですか?」

「えぇ、信徒であれば……ただ参加者の名簿は残っております。他には教会関係者も何人かいらっしゃってました」

「という事はその中に黒幕がいるのでしょうか。彼らの中には資産家も多数いる。怪しげな実験を行っていても不思議ではありません」

「ボクが調べるよ! 隠密行動は得意だからね。魔物を街に放つような奴を放ってはおけない!」

「それじゃ、アタシは冒険者ギルドで情報を集めるね。何かわかったら報告するよ」


 何だかわからないうちに話が進んでいるが、犯人探しにはいまいち興味が持てないんだよな。

 とりあえず全部わかったら呼んでくれ。

 ボスには色々聞きたいこともあるしな。


 翌日、イーシャに呼び出された俺たちは教会に来ていた。

 どうやら先日助けた礼をしたいという事らしい。


「ようこそ来てくださいましたロイド君。それにタオさん、レンちゃん、シルファさんも、先日は本当にありがとうございました」

「気になさらないでもよかったのですが」

「そうは参りません! 皆さんには命を助けていただいたのですから。きちんと礼をしなければ!」


 イーシャは鼻息を荒くしている。

 そこまで気にしなくていいんだがなぁ。


「まぁまぁ、アタシは嬉しいよ。貰えるものは病気以外は貰う主義ね。で、何してくれるの? 楽しみにしていいあるか?」

「もちろん! 実はこの近くにいいパンケーキの店がありまして。是非ご馳走させていただきたいんです」

「パンケーキ!」


 俺は思わず声を上げた。

 パンケーキは俺の好物の一つである。

 たまにシルファが作ってくれているのだが、甘いものは食べすぎると良くないと制限されているのだ。

 糖分は頭にいいんだぞ。


「あら、ロイド君はパンケーキがお好きなのですか? それはよかったです」

「うん、甘いもの大好きなんだ。いいよねシルファ」

「もちろん構いませんとも。私としても、プロの作る物を食べさせてもらえればレパートリーも増えるというものです。ありがたく頂戴します」


 シルファも乗り気だ。

 あのパンケーキがもっと美味くなるかもしれないと思うと楽しみだ。


「パンケーキ……って何?」


 そんな中、きょとんと目を丸くするレン。

 貧しい暮らしだったレンは食べたことがないようだ。


「レンはパンケーキ知らないか。甘くてふわふわでとっても美味しい点心おかしよ」

「へぇー、楽しみ!」


 タオの話に食いついている。

 聞いてたら俺までよだれが出てきたぞ。

 イーシャはその様子を見てクスクス笑う。


「ふふっ、それでは早速参りましょうか。あ、お金は神父様から沢山いただいてますので、遠慮なく食べて下さいね! では行きましょう!」


 イーシャを先頭に、俺たちはパンケーキ屋へと向かうのだった。

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