第67話神聖魔術を覚えます
朝食が終わり、俺は早速部屋に籠ってレンから教わった魔力集中の練習を始めていた。
他の魔力孔を閉ざし、手のひら一か所だけ開放。
広げた手のひらから一筋の魔力が伸びていく。
「うおっ! すげぇぜロイド様! あの娘っ子に教わった技、もう出来てるじゃねぇっすか!」
「……いや、思ったより漏れてしまう。魔力集中か。中々難しいな」
一見成立している見えるが、全身の魔力孔を閉じ切れてないのでそこから魔力が漏れ出てしまっている。
魔術書を読み込めばできる術式制御とは違い、この手の細かな魔力制御は費やした時間と集中力が物を言う。
物心ついた時からこの能力に触れてきたレンたちならともかく、俺はどちらかというと座学……術式の勉強ばかりしていたからな。
そして当然ながら、魔力集中はその前段階である魔力遮断より数段難しい。
ものにするには結構時間がかかりそうだな。
魔力集中を解くと、どっと疲れが出た。
「ふぅ、結構疲れるな。だがこの魔力集中を上手く使えば、一人大規模魔術とかも出来るかもな」
数人がかりで、しかも儀式を交えなければ使えない大規模魔術。
これを使えば戦略級の威力を持つ攻撃魔術や、神霊クラスの召喚獣を呼び出すことも可能だ。
魔力集中を魔術に応用できれば、きっともっと面白いことが出来るようになるだろう。うん。
そんな事を考えているとグリモがブツブツ言い始める。
「ロイドの奴、最近は前にも増して魔術の研究に力を入れてやがる……はっ! そうか、先日魔族と対峙した時の事が原因だな!? 魔族相手にゃこいつの魔術は殆ど通用しなかった。何とか勝てたがあれは半ば偶然の産物。普通にやったら負けはしないものの、相手を逃がしていた可能性は高かった。ロイドは戦いは好きじゃないとか言ってるが、魔術を極めようとすれば争いは必ず起きる。魔族だろうがなんだろうが、ものとしない戦闘力が必要だ、なんて考えているのかもしれねぇ……! げひひ、こいつはいい兆候だぜ。ロイドが今よりもさらに強い力を手に入れてくれれば、俺が身体を乗っ取った時によりいい思いが出来るからな。魔族すら殺せる力があれば、魔界を制覇し魔王となることも可能! ……ロイド様っ! そういう事なら僭越ながら自分にいい考えがありますぜっ!」
かと思えば嬉しそうな声を上げた。
情緒不安定な奴である。
「ご存知かもしれませんが、魔人、魔族に対抗する手段はちゃんと存在しやす。『神聖魔術』、神の奇跡を術式にて再現、行使するアレですよ。そこらの雑魚神官どもが使ってるものならともかく、ロイド様の魔力で神聖魔術を使えば魔族だろうがなんだろうが、一瞬にして消し炭になること間違いなしでさ!」
――『神聖魔術』、もちろん知っている。
神の奇跡を身に宿し、聖なる光で以って魔を払う術。
不死者、霊体、魔人、魔族……この世ならざる者に対して強い力を持つ神聖魔術だが、その使用には厳しい制限がある。
それは神に仕える者でなければ扱えない、というものだ。
教会に寄付や掃除などをして尽くし、祈祷を行い、聖書を熟読し、聖歌を歌う……それを二十年、三十年と続けた選ばれし者にのみ天の御使いが降臨し、奇跡を授ける……つまりはまぁ、熱心な信徒として認められれば神聖魔術を授けてやるぞ、という事だ。
魔術は制約により強い力を発揮する。
神聖魔術には力の弱い者でも大きな力を発揮出来るよう、強い制約をつけているのだろう。
それ故か使い手はかなり少なく、みだりに使用するのも禁じられている。
よって俺もまだ実際に見たことはないのだ。
「神聖魔術は本来なら習得に数十年ってかかるらしいっすがそこはアレ、天の御使いとやらに気に入られれば割と早い段階で授かる者もいるらしいですし、ロイド様ならすぐに習得できるに違いありやせんぜ!」
「あー……それなんだがな……んー……」
揚々と話すグリモとは裏腹に俺は腕組みをして唸る。
「どうしたんですかい? 浮かない顔をして……」
「いやぁー実は俺、教会の出禁を食らってるんだよな」
「は!?」
グリモが呆れたような声を上げる。
「二年ほど前に神聖魔術を覚えようとして教会へ行ったんだが、その下積みが面倒でな。魔術関連ならいいんだが、掃除や祈祷、聖歌の合唱とか面倒が多くて……ついそれをすっ飛ばす何か――具体的には神聖魔術の魔術書なんかを求めて、教会の地下書庫を漁ってたんだよね。それを見つかっちゃってさ」
「ま、マジっすか……」
「うん、俺も若かった」
しみじみ頷きながら、遠い日のことを思い出す。
あの頃はまだ俺も未熟だったので侵入を悟られてしまったのだ。
今の俺なら気づかれずに侵入するのも可能だろうが……
「……まさかとは思いますがロイド様、また盗みに入ろうとか思ってやす?」
「いやいや、そんな事はないぞ。そもそもその時に魔術書の類がなかったのは確認済みだからな。また入っても意味がない」
「すでに物色済みじゃないっすか……」
そりゃついでだし、見ておくだろう常識的に考えて。
結局天の御使いとやらに授けてもらうしかないというのが俺の見解だ。
だがそれは熱心な信徒に仕立て上げるための、抽象的な何かだろう。
実際の方法はまた異なるのだろうが……どちらにしろ神聖魔術を覚えるためには教会へ行くのは必須事項。
「よく考えたらもう二年経つんだな。そろそろほとぼりも覚めてるだろうし、久しぶりに行って頭を下げれば出禁も解除して貰えるかもしれない」
それに案外忘れてるかもな。
普通に咎められず、出入り出来る可能性もある。
そして教会に入りさえすれば、当時の俺では感じ取れなかった神聖魔術の片鱗を感じ取れるかもしれない。
他にもやることがあったから後回しにしていたが……うん、考えてたら神聖魔術に再挑戦したくなってきたぞ。
今までは他の魔術ばかり研究してたし、ここらで一つジャンルを広げてみるのも面白い。
「よし、本格的に神聖魔術を学んでみるとするか!」
新しい魔術を覚えれば今使っているのにも応用が効くからな。
知識というのはあればあるだけ自分の為になる。
というわけで俺の次の目的は、神聖魔術の習得に決定したのである。
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