第49話お茶会を開きます
「ロイド様、アルベルト様から伝言です」
ある日、俺が本を読んでいるとシルファに声をかけられた。
「明後日、中庭にてお茶会を開催する予定だそうで、ロイド様も是非、とのことです」
「お茶会……ってもしかして」
「えぇ、アレです」
そう言ってため息を吐くシルファ。
以前、冒険者をやった時にタオとした約束。
アルベルトを交えたお茶会の開催である。
「あー、そんな約束してたね。でもなんで俺が?」
「アルベルト様にお話ししましたところ、お茶会? いいねぇ。でもどうせなら皆でやろうじゃないか。……などとおっしゃられまして」
なるほど、流石に王子と冒険者が二人でお茶会なんてしたら、妙な噂が立つのは容易に想像出来る。
だが俺たちを交えてなら世話になった礼とかでお茶会の名目も立つもんな。
アルベルトには魔剣製作で世話になったし、ここは恩返しだと思って参加するか。
そしてお茶会当日、シルファに連れられて向かった先は城の中庭だった。
丁寧に手入れされた庭園には噴水や石像が置かれており、その中央には緑の屋根で覆われた白いテーブルがある。
「やぁロイド、よく来てくれたね」
既にアルベルトが待っており、俺たちを迎えた。
いつもよりいい服だ。ちなみに俺もそんな服をシルファに無理やり着させられた。
相手は冒険者といえど、歓迎する以上きちんとするのは当然です、とはシルファの談である。
「というか何故ディアン兄さんとアリーゼ姉さんがいるんですか?」
そう、テーブルには何故か着飾ったディアンとアリーゼが座っていた。
「ロイドが魔物の核を手に入れる時に世話になった冒険者を歓迎する茶会だろ? 間接的にだが俺も世話になったんだ。礼の一つくらい言わねぇと、筋が通らないだろうが」
「私は皆が仲良くお茶をしているのを見つけたから、ご一緒させてもらおうと思ったの。ねっ、リル」
「ウォン!」
微笑むアリーゼの傍でリルが鳴き、エリスがため息を吐いている。
気まぐれな主について行くのも大変だな。
「なるほど……ところでタオはまだ来ていないんですか?」
「まだ時間ではないからね」
えっ、もう時間だから早く用意しろとシルファに何度も急かされたんだが。
時計を見ると、確かにまだかなり時間がある。
「……シルファ」
「ロイド様は早め早めに言っておかねば、すぐに時間を忘れて読書に没頭しますので」
澄まし顔で答えるシルファ。
くっ、あってるだけに反論出来ない。
「……おっと、噂をすれば来たようだぞ」
アルベルトの視線を追うと、兵たちに案内されてこちらに来るタオが見えた。
スリットの入った異国風の真っ赤なドレスに身を包み、髪型も髪を両側のお団子に纏めていた。
いつものタオとはまるで別人のような気合の入れようである。
アルベルトが立ち上がり、手を挙げた。
「やぁタオ、よくぞ来てくれたね。歓迎するよ」
「アルベルト様! それに……えっと」
タオの視線がテーブルに座っているディアンらに注がれた。
緊張しているのか、挙動不審だ。
まぁこんな大人数に迎えられるとは思っても見なかっただろうからな。
「ははは、そう畏まる必要はないよ。今回のお茶会を聞きつけた僕の弟妹たちさ」
アルベルトがちらりと見ると、ディアンとアリーゼは頷き立ち上がる。
「ディアン=ディ=サルームだ。弟が世話になっているようだな」
「アリーゼ=ディ=サルームよ。ふふっ、可愛らしいお嬢さんねぇ」
「タ、タオ=ユイファ、よろしくですある」
二人と握手を交わすタオ。
緊張のあまり語尾が怪しくなっているぞ。
シルファがタオの後ろでボソリと呟く。
「タオ、あなた私にお茶会の開催を頼んでおいてなんですかその体たらくは。シャキッとしなさい」
「そ、そうは言ってもこんな大人数とは聞いてないよ! しかもみんな美男美女揃いでアタシ場違い感がヤバいある!」
「はぁ、全く良い顔に弱いのですから……」
何だかわからんが大変そうだな。
俺からするとお茶会自体あまり興味もないんだが。
適当に時間を過ごしてればいいか……ん?
ふと、タオの腰元のスリットに刺さっていた一枚のカードが目に入る。
「タオ、それは?」
「あぁそうそう、忘れる前に渡しておくよ。ロイドのギルドカードね」
銅色の金属製カードに触れると、俺の名前やら何やら情報が浮かんできた。
このカード、何か特殊な魔術刻印が刻まれているな。
「依頼達成報告の時に受付さんから預かったよ。来た時に渡すつもりだったらしいけど、あれから全然来ないから結局アタシに預けてきたね」
俺が触れた際に術式が起動して文字が浮き出たあたり、恐らく持ち主の魔力に対応しているのだろう。
色や形を変える魔力の性質変化を使い、カードに刻み込んでいるようだ。
つまりは付与。
作り方は魔剣と似ているが、財布やポケットから頻繁に出し入れをするカードはより劣化しやすいはず。
恐らく表面に魔力伝導率の高い物質でコーティングしているのだろうか。
こんな使い方もあるんだな。面白い。
「……って全然聞いてないあるぅーっ!?」
俺が夢中になっていると、タオが突っ込んできた。
「ははは、ロイドは魔術の事になると周りが見えなくなるからね」
「ったくしょうがねぇ弟だぜ!」
「ふふっ、そこが可愛らしいのですけれどね」
そう言って楽しげに笑う三人、タオもまたクスッと笑う。
「ではタオ、僕たちの知らないロイドを教えてくれるかい?」
「もちろん! ロイドは――」
俺のことをタオは語り始める。
その顔はいつもと同じものだった。
「流石はロイド様。タオが緊張していると見るや、それを解きほぐすようにご自身を話の種にする事で会話の流れを円滑にした……恐れながらご自身のことしか考えていない方だと思っていましたが、こうして人に気を使えるようになるとは……冒険者としての経験が早くも生きているようですね」
シルファがブツブツ言っているが、俺はギルドカードを調べるのに夢中であった。
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