第45話目的は果たしました

 ホブゴブリンを倒した事で奥の部屋が開かれる。

 足を踏み入れると、そこには宝箱が眠っていた。


「お宝ね。でもここのダンジョンは小さかったし、大したアイテムは出ないでしょ」

「えぇ、ですがロイド様の目的は上質な魔物の核。それはここにあります」


 そう言ってシルファはじろり、と宝箱を睨め付ける。

 途端、宝箱の様子が変わった

 何か意志でも持っていたかのように、逃げる気配を出し始める。


「ふっ!」


 シルファは短く息を吐くと、スカートを翻らせ仕込んでいた短剣を投げ放つ。

 それを高速で跳んで躱す宝箱。

 シルファが投げる短剣を、躱す。躱す。躱す。


「なっ!? 宝箱が飛び跳ねてるある!?」

「倒してください」

「わ、わかったよ――いやあっ!」


 タオが高速で移動する宝箱に回し蹴りを放つ。

 見事命中し壁に叩きつけられる宝箱だが、全く効いている様子はない。

 起き上がるとまた元気に跳び回り始める。


「なんなのこいつ!?」

「ダンジョン最奥にある宝箱というのは、実は魔物の核なのです。とても上質ですが、非常に硬くて素早い。簡単には倒せません」


 確かに知っている者なら低レベルダンジョンでは上質な魔物の核が簡単に手に入るもんな。

 Aランクのシルファやタオですら苦戦しているようだし、かなり面倒そうな相手である。

 ただ、俺も核が必要だ。逃がすわけにはいかない。


 俺の背後にある入口から逃げようとする宝箱の進路に魔力障壁を展開する。

 直後、がんっ! と鈍い音がして宝箱がぶつかった。

 そしてぽとり、地面に落ちた。

 その隙を見逃さず放たれた短剣が突き刺さり、宝箱は動かなくなった。


「ロイド様、今何かなさいましたか?」

「いや? 勝手に壁にぶつかっただけだよ」

「……ふむ、そうですね。宝箱はとても魔力耐性が高い。如何にロイド様と言えど、ダメージを与えるのは難しいでしょうし」


 そうなのか。前やった時は普通に風系統魔術で一撃だったけど。

 やはり普通に倒さなくて正解だった。

 危うく怪しまれるところだったぜ。


「おー、動かなくなったね」

「じゃ、俺が貰っていくけどいいかい?」

「どうぞお好きに。……その代わりシルファ、例のヤツ、くれぐれもよろしくある。ふひひ」

「はいはい」


 ニヤつくタオの耳打ちに、シルファは冷たく返すのだった。


 ダンジョンから出ると、目の前の大木から人の気配を感じる。

 タオもそれを感じ取ったのか、声を上げた。


「そこにいるのは誰あるか!?」


 舌打ちをしながら出てきたのは、一人の男。

 ん、この人どこかで見た気がするな。


「貴方は確か……ガラパゴスでしたか。こんな所で何をしているのですか」

「ガラハドだっ! ……そこのガキがズルこいてねぇか見に来たんだよ」


 ズルってなんだろう。俺が首を傾げていると、タオが補足する。


「思い出した。あの男、新人潰しのガラハドね。有望な新人が来るたびにしつこく因縁つけてきて、潰しにかかる性悪冒険者よ」

「なんと暇な……そんな事をしている間に自身の技を研鑽すればよいでしょうに……」

「そんな努力が出来るならこんなことしてないよ。もうこの男、強くなるのを諦めてるね。だからこうやって人の足を引っ張る事しかできないある」

「それはなんとも……悲しい事ですね……」


 タオとシルファは、男に憐れむような視線を向けている。


「う、うるせぇっ! 黙れ黙れ!」


 男は激昂し、顔を真っ赤にして声を荒らげた。


「弱っちいただのガキが強ーいお姉さんたちに代わりに戦ってもらって、手柄だけ横取りするような真似でランクを上げられちゃあ、冒険者全体の質に関わるんだよ! だから不正が行われてないか見にきたのさ! ……だがダンジョンから出てきたばかりだというのにその身綺麗さ。やはりテメェは全く戦っていないようだな! ギルドに報告してや――」

「オンッ!」


 男が言い終わらぬうちに、シロがその足に噛み付いた。


「うぎゃああああっ!? い、いてぇぇぇぇっ!?」


 あ、敵を見つけたら即攻撃する命令をまだ解いてなかったっけ。

 いきなり噛み付くのは危ないもんな。あとで解いておこう。

 男は何とか振り払おうとしているが、シロは離さない。


「おーいシロ、離してやれ」

「グルルルル……」


 唸り声を上げながら男を離すシロ。

 ビビって蹲る男に、タオとシルファが歩み寄る。


「言っておくけどアタシたち、ダンジョン攻略には殆ど手出ししてないよ。敵は全部ロイドとシロが倒したね」

「言っておきますが今、あなたを怯えさせているこのシロはロイド様の使い魔なのですよ。使い魔の力は当然主人であるロイド様より圧倒的に下なのは理解出来ますよね? 出来たらそれ以上恥を晒さぬうちに姿を消しなさい」

「ひ、ひいっ!?」


 二人が何かブツブツ言っていたかと思うと、男は一目散に逃げ出すのだった。


「ところでタオ、依頼達成の報告頼んでもいいかな? 急いで戻らなきゃいけないんだ」


 俺は魔物の核を取りに来ただけだしな。

 報告とかどうでもいいから、早く城に戻って魔剣製作を再開したい。


「そりゃ構わないけれど……報酬はどうすればいいの?」

「タオにあげるよ。世話になったからね」

「ふむ、そういえばロイドは王子。お金には困ってないか。わかったよ。ギルドにはロイドの活躍を余すことなく報告しておくから安心するといいよ」


 ビシッと親指を立てるタオ。


「……くれぐれも正確にね」

「もちろん! 任せておくね!」


 ……なんかある事ない事吹き込みそうで少し不安なのだが……まぁ別に冒険者をやることなんてたまにしかないだろうしな。

 別に気にする事でもないか。

 俺はタオに別れを告げ、城へと戻るのだった。

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