第43話ダンジョンに入ります

 依頼内容はサルーム城下町から東へ半日ほど行った場所にあるダンジョンの魔物の駆除。

 ダンジョンで生まれた魔物は基本的にはその中にいるのだが、狭くなってくると外へ出るものも多い。

 そうなれば外を魔物が徘徊するようになり旅人たちの危険度が増す。

 なので冒険者ギルドは定期的に冒険者を派遣し、魔物の駆除を行っているのである。

 もちろん、ダンジョンを潰しても構わないとの事なので遠慮なく潰させて貰い、ついでに核をゲットするとしよう。

 余談だが、受付嬢は俺にくれぐれも気を付けるようにと言っていた。

 危険だから死んでも文句言うな、みたいなことを言っていたのに……いざとなると案外いい人なのかもなぁ。


「でもわざわざ冒険者にならなくてもさ、俺に実戦経験を積ませたいなら適当なダンジョンに行けばよかったんじゃないの?」

「ダンジョンは新たに生まれたり、潰されて消滅したり、はたまた移動したりと、かなりの頻度で位置が変わります。ひと月もあれば地図は役に立たなくなるほど。大量の冒険者を束ねるギルドでなければその正確な位置を把握するのは難しいでしょう」

「ちなみに移動しないタイプの大型ダンジョンは管理され、ギルドカードが通行証代わりになってるよ。冒険者でなくダンジョンに入るのはちょっと難しいね」

「手に入れたアイテムも買い取ってもらえますしね。その他諸々、良い勉強になるはずですよ。……ん、どうやらあれのようですね」


 シルファの指差す先に視線を送ると、街道からやや離れた林の中、木々の隙間から洞穴が見える。


「あのダンジョンね! 早速向かうとするよ!」

「待ちなさい」


 駆け出そうとするタオの襟首を、シルファが引っ張る。


「ちょ! 何するか! 首が締まったよ!」

「依頼を受けて下さったのは感謝しますが、あくまでもロイド様が主体です。貴方が先行しては意味がありません」

「むぅ、わかってるよ。戦闘も極力は手を出さない、でしょ」


 タオはつまらなそうに唇を尖らせる。

 俺たちと同行するのは構わないが、あくまでもこれは俺の実戦訓練。

 なので出来るだけ手を出さないようにとシルファは言っていた。

 代わりにこの依頼が終わったら、アルベルトとの茶会を催すと約束している。


「ふひひ、アルベルト様とのお茶会、楽しみある♪」


 ウキウキしているタオを冷たく見下ろすシルファ。

 というかアルベルトの許可なく勝手に約束してるが大丈夫なのだろうか。

 とりあえず、俺としては自由に動けて助かるけどな。


「それじゃあ行こうか、シロ」

「オンッ!」


 俺の傍らで元気よく吠えるシロ。

 そう、このダンジョンでのもう一つの目的は、シロがどれくらい使えるかという実験だ。

 魔力を使った魔獣の扱い方も大体わかったからな。

 実戦で色々試してやるぜ。


 早速洞窟の中に足を踏み入れた。

 シロを先頭に歩かせ、周囲を警戒させながらゆっくりと進む。

 その後ろをシルファとタオが付いてくる。


「ヴヴヴ……」


 シロが唸り声を上げ、前方を睨みつけた。

 む、魔物だろうか。俺は『嚙みつけ』と念でシロに命令を飛ばす。


「オンッ!」


 俺の命令を受け、シロは暗がりの奥に飛びかかった。

 ぎゃあ! と声がして暗がりの中から何かが出てくる。

 子供ほどの大きさのツノの生えた魔物、ゴブリンだ。


「オンッ! オンッ!」


 シロはまだ吠えている。どうやら奥にもまだいるようだ。

 む、吠え声が遠ざかっている?

 ゴブリンたちが逃げているのをシロが追っているのか。

 くそ、向こう側が見えないから、どうなっているのかわからんな。

 何にせよ深追いはまずい、俺は戻るよう念を送る。


「ギシャアーっ!」

「おっと」


 シロの方に気を取られていると、ゴブリンが棍棒で殴りかかってきた。

 跳んで躱し、腰に差していた剣を抜く。

 ディアンが俺にと持たせてくれたものだ。

 実際使って感覚を覚えてこいという事だろう。

 遠慮なく試させてもらうとしよう。


「ふっ」


 短く息を吐き、剣を振るう。

 その時、ふと自分の動きに違和感を覚えた。

 やべ、シルファの剣技をコピーしてない。

 だが思ったよりは剣筋は悪くない。

 シルファの剣技を何度もコピーしてたから、無意識のうちに体が覚えたのかもしれない。

 ゴブリンはそれを防ごうと棍棒で受ける。


 ――が、剣はずばっと棍棒ごとゴブリンの身体を切断した。

 何が起きたかわからないといった顔でゴブリンは崩れ落ちる。

 おお、すごい切れ味だ。付与した剣って思った以上に凄いんだな。


「オンッ! オンッ!」


 吠え声が戻ってきた。

 足音は多数聞こえる。ゴブリンを追い込んできたのか。ナイスだシロ。


「ギッ!?」「ギシシ!?」


 追われながらも俺を見つけたゴブリンたちは、武器を構えて向かってきた。

 数は五匹、まずは動きを止める。

 ゴブリンたちに向かって土系統魔術『土球』を放つ。

 本来は土の塊を撃ち出すのだが、術式を弄り土の粘度を大幅に強化して粘着質な泥の塊として撃ち出した。


 ばしゃあ! 泥を被ったゴブリンたちの動きが止まる。

 ねばねばして動きが鈍った。

 そこら踏み込み、剣を横薙ぎに払う。


「ギャアアアアア!?」


 一刀両断にてゴブリンたちはまとめて倒れ臥す。

 ふぅ、ちょっと焦ったな。やはり剣は苦手だ。

 安堵の息を吐く俺の足元で、泥が蠢く。


「ギシャアッ!」


 奇声を上げながら泥まみれのゴブリンが飛びかかってくる。

 うおっ、やられたふりをして泥の中に隠れていたのか。


「オンッ!」


 俺が応戦しようとした瞬間、駆けてきたシロがゴブリンの首筋に噛み付いた。

 しばらくジタバタしていたゴブリンだったが、すぐに動かなくなる。


「ありがとなシロ。助かったよ」

「くぅーん」


 俺が撫でてやると、シロは心地よさげに喉を鳴らしてきた。可愛い。

 ちらりと後ろを見ると、シルファとタオが何やら話しているのが見える。


「ふひひ、流石の無愛想メイドも焦ってたあるか?」

「……いいえ、微塵も。ロイド様を信じていましたから」

「ならどうして剣の柄を握り締めてるよ。心配性ね」

「それを言うならあなたこそ。拳を固めたままですよ」

「む……」「ふっ……」


 何を言ってるのかよくわからないが、二人共笑っているように見える。

 この二人意外と、気が合うのかもしれない。


「それにしても初めての実戦にも関わらず、剣筋に乱れは見られなかった……剣術ごっこの成果は出ているようですね。見事ですロイド様」

「まだ子供というのに、魔物を殺すのに全く躊躇してないね。それに魔術も織り交ぜた戦いぶりも良い。ロイドは相当なツワモノに育つよ」


 ブツブツ言いながらついてくる二人。

 ……見られながらってのはちょっとやり辛いな。

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