No.066 取り消しはウケツケで
僕はバスケが得意だ。
中学1年生でありながらレギュラーとして活躍できるほどの力はある。
それでいて勉強もクラスでいつもトップを維持している。
そして僕には兄がいる。
鬼灯葛という兄がいる。
小さい時は仲がよかった兄だ。
特になにか才能があるわけでも、勉強が物凄い得意というわけでもない、至って普通の兄だ。
その日は合宿で練習場に来ている訳だが、
「あまり近づくな」
「離れて、危険だから離れてー」
練習場である大きな体育館がペシャンコに潰れている。
それだけにおさまらず、そのペシャンコにした飛行機から炎が立ち昇っている。
怪我をしている人も何人かいて、血のような匂いがして気持ち悪くなる。
「飛行機の墜落事故か?」
「災難だよなー。
「先輩。でもそれは先輩も同じですよね? 先輩は最後になりかねないんだから」
「まぁ、そうだな」
この人は先輩の……ごめんなさい、先輩。
名前、忘れました。
たしか、龍なんとかだったんだよな。
なんだっけ?
「
そう、
おもしろい名前だよな。
てか、龍なんとかって惜しかったな。
龍まで合ってたのに。
いや、これは全部合っていたって事でいいのか?
その後、全員の点呼をとってからバスに乗り込み宿舎に帰った。
※
次の日は結局体育館が使えない状態だから帰る事になった。
アレだけの事故があったんだ、しょうがないだろう。
逆に使える用だと、正気か疑うね。
僕は先輩たちと楽しく喋りながらバスの旅を満喫した。
あっ、別に同学年と仲が悪いわけではないよ。
家につく頃には夕方になっていた。
お母さんとお父さんは帰ってきてるかな?
「ただいまー」
特に誰の返事も聞こえない。
葛はどこかに出掛けてるのかな?
部屋に入ると葛は本を読んでいた。
難しそうな本を。
よっぽど集中しているのか気がついて……なんか臭い。
この匂いは最近嗅いだ不快になる匂いに似ている。
「血?」
「ん、あれ?
「あっ、うん。ただいま」
今、葛から血のような匂いがした。
ただ、昨日と違う点が1つだけ。
不快になるどころか、快感を得られそうな匂いだ。
「気のせい、だよな?」
僕はそんな独り言をもらす。
※
兄が、葛がダンジョン国立専門高等学校に受験した。
葛は武道をやっているがそこまで凄いというほどではない。
才能は普通くらい。
可哀想なくらい普通。
そんなの受かるわけない。
そう思っていた。
思っていたけど、結果は合格。
しかも、合格者が1人だけという異例の事態。
その日に受けた人たちの中には将来有望と呼ばれる人もいたにも関わらず1人だけの合格をしたのだ。
葛の以外な才能には驚いた。
いや、驚いたと言うよりも「憎い」という気持ちが大きくなる。
葛はそんな才能なんて持ってないはず。
そもそも、何が葛に力を与えているんだ?
※
冬はつとめて。
僕は中学1年生。
告白を受けた。
僕じゃなくて兄に伝えてくれと。
ここで1つ、葛も知らない才能?を教えると同学年にはモテないが、下の子たちには何故かモテる。
それもおかしいくらいに。
やさしいっていうのがあるのかもしれないけど、どこにそんな魅力があるのか僕にはさっぱりだ。
僕が好きになった娘は葛を好きで、紹介してほしいと言われたぐらい。
「思い出しただけで腹が立ってきた」
やだ、やだ。
けどまぁ、高校からは寮生活らしいから家には居ないから、清々するってもんだ。
※
秋は夕暮れ。
僕は中学2年生。
葛が順調に学校生活を送っているとお母さんから聞いた。
なんでも仕送りが来たらしい。
しかも、おかしな額。
おかしなというのは半端とか少ないじゃなく、多すぎておかしいという意味だ。
だってそうだろ?
10,000,000円って
それなのにお母さんもお父さんも喜んで、おかしいと疑うことすらしない。
「もしかしたら僕でもダンジョン攻略は出来るんじゃ。いや、もしかしなくても僕ならダンジョン攻略は出来るはずだ。だってそうだろ? 才能の無い葛に出来て才能のある僕に出来ないわけ無い」
そうだ、そうだ、そうだ、そうだ。
そうと決まれば今からでも受験の準備をしよう。
と、いうか面接がいきなり本番って葛は言ってたから武器を用意しないとな……ちょうど運がよくお金はある。
僕のじゃないけどお金はある。
いや、これからは僕のお金になるんだ、他の誰にも渡さない。
「そうだ、普通に推薦入試を狙ってたけど取り消ししないとな。そっか、葛でも出来たから簡単。なら真面目に授業を受ける必要はないかな」
狂ってく、狂ってく。
なにかが狂ってく。
ズレていく、ズレていく。
なにかがズレていく。
死んでいく、死んでいく。
なにかが死んでいく。
※
春はあけぼの。
僕は中学3年生。
葛が進級した。
それも学年1位という成績で。
僕は理解できない。
なに1つ取り柄の無かったあの兄が、葛が1位という成績を残せるわけない。
お金も無いから賄賂は尚更だ。
「憎い」
それだけではとどまらず、可愛い彼女まで作ってるようだ。
それにいくつかの難しいダンジョンをクリアしているとも聞く。
何が葛に力を与えているんだ?
何がそこまでさせるんだ?
意味がわからない、理解不能だ。
「憎い」
葛がレベルSという日本で1番難しいダンジョンをクリアしたらしい。
らしいと言うのは、葛は命を狙われてこの日本を出たからだ。
レベルSってそんなに簡単なのか?
葛に出来るなら僕にも出来るはずだ。
いや、出来なきゃおかしい。
※
夏は、夜。
僕はまだ中学3年生。
その日、葛が日本を出てから2日くらい経った頃、1人の客人が家に来た。
それも、それなりの……かなりの美人っていうか、可愛い女の子。
「鬼灯葛はいるか?」
葛に用があるみたいだ、ムカつく。
「兄は居ないですけどなにか用ですか? 連絡しますが」
「そうですか、いないですか」
なぜこの人は葛に会いたいのだろう?
そこまでの魅力など、どこにも無いのにね。
あー、もう。
考えただけで
考えただけで
「あなたは? 僕は鬼灯
「へぇー、あの鬼灯の弟か」
「あの?」
「あぁ、ごめんごめん。こっちの話」
何やら葛に対して好意的ではないらしい。
それよりも敵対心というか、対抗心というか、とりあえずそういうのがプンプンしている。
相手がその弟だと知ってて隠さないのは好意的だな。
いや、どこ目線だよ。
「そうだ、お名前の話でしたね」
「そうそう。あなたは?」
「申し遅れました。私は、」
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