第12話 愛輝く星の天使の剣⑪
「ふん、少しは美しい戦いが楽しめるかと思ったが、逃げ回るだけとはな。興ざめだ」
上空数千メートル、戦闘機の上から夜の狭山市を
罪人である彼は、百合魔法少女討伐を条件に、悪魔執事レギルレイスの手で牢より解き放たれたのだった。
不興気に鼻を鳴らし、吐き捨てる。
「もうよい。醜い町ごと、灰にしてやる!」
指を鳴らす。天空の悪魔貴族ブライファルケ、引き連れた十数機の魔強化戦闘機に、闇の魔力を送る。
昏い輝きを纏った戦闘機の翼から、零れ落ちる物は。
数十、否、数百発もの、暗黒物質爆弾である。
おお、おお、絶望の煌めき!
一発一発が、都市を灰塵に帰して余りある、滅びの兵器!!
だが。
もう我々は、絶望する必要などない!
見よ。見よ、今この瞬間、地上を駆けた閃光を!
その光を、我々は知っている。そう、その輝きこそは!!
「フラァァァァァァァァァァーィィィィッッッ!!!」
夜闇を切り裂き、天へと昇る光芒。
それは! 百合魔法少女、マジカル☆リリィ!!
※ ※ ※
飛翔魔法「
光の翼を広げ、私は天空へ! 空へ向かって、月をもブチ砕く逆ダイビングキィィーック!!
「せいやぁぁぁぁーッッ!!」
止められない、誰も止められないこの勢い!
エネルギーの余波だけで、降ってきた爆弾らしき物体を、全部! ぜぇぇんぶ蹴散らしちゃう!!
誘爆、爆散! 夜空に燃える花が咲く!
「何ィィィィィィィィッ!?」
驚愕する変質者、悪魔ブライファルケへ。
これは、あいさつ代わり。
そのまま下から突き上げるキックで、戦闘機の一機を粉砕ッ!!
そして、華麗に空中をターン。
私は。6枚の光の翼を雄々しく広げて。地上を照らせと、夜を払う星のように。
聖なる輝きを纏い、天空の悪魔軍団を見下ろしてみせる!
「さあ、お仕置きの時間よ!」
私の後を追い、この戦場へ、雲の上のバトルフィールドへ駆け付ける千本の黄金魔剣。
百合魔法剣ホーリーラヴ☆キャリバー。
断罪天使の軍団!
その威光に、悪魔は。
「……何だ、その美しさは」
戦慄し、憎悪を剥き出しに。吠えるッ!
「許さんぞぉぉッ! 空に俺様の他、美しいモノなど要らぬのだァァァッ!?」
さあ、決戦よ! 天空決戦!!
悪魔の咆哮と共に、放たれるミサイル、ミサイル、レーザー!!
私も負けない。翔けろ黄金魔剣!!
「『
戦闘機から放たれる悪魔のミサイルを、黄金の剣ミサイルで撃ち落とす!!
空中で、遥か天空で。超音速で飛び回りながらぶつかり合う、私VS戦闘機軍団!
マク〇スもビックリの戦闘サーカス!!
超、超、超スピード!! 作画班死んじゃう!?
私の腕にしがみ付き、膨大過ぎる百合魔力を制御してるステファニー。
彼も、興奮して叫ぶ!
「いっけぇぇぇぇー! マジカル☆リリィ!! 光の翼を得た今の君は! 理論上亜光速まで加速が可能だよ!」
それってV2ガン〇ム?
てことは。こんな攻撃も出来ちゃったり!!
「光の、翼よッッ!!」
私は背中の翼を、噴出する閃光を更に巨大化!
戦闘機の編隊目がけて、体当たり飛行!!
すれ違いざまに、翼のエネルギー波で。敵を薙ぎ払う! 斬り裂くッ!!
「やぁぁぁぁぁぁーッ!!」
飲み込む、飲み込む。力ある光の翼が、鋼の魔鳥達を飲み込む。
そして、夜闇を私が翔けた跡には。美しい光の道の跡には。
聖なる嵐を受けてスクラップとなった戦闘機!
地上へと墜ちていく。
「ば、馬鹿な……」
呆然と呟く、悪魔ブライファルケ。
残る戦闘機は、彼が乗る一機のみ。
「……認めん。認めん認めん認めん認めんぞォォォッ! この俺様より、美しいモノなどぉぉッ!?」
狂気。激甚なる怒りに、狂った雄叫びを上げる悪魔。
でもね。私だって、怒ってるんだよ!
町を滅茶苦茶に、好き放題してくれた全裸変質者悪魔、ブライファルケ。
泣いたって、許さないんだから!!
「覚悟しなさいッ!」
魔剣達を背に、悪魔を指さす私へ。
悪魔は。正気を失ったように。
「黙れぇぇぇッ!?」
最後の戦闘機と同化していく。あ、やっと股間隠れた。
「この宇宙に! 俺様より美しいモノなどあってはならないィィィィーッ!?」
黒い魔力。悪魔の命を燃やし尽くすような。
……まさか、これって!?
「異常な魔力だよ! 奴め、自爆でもする気か!?」
ステファニーも叫ぶ。
けど、避ける暇もあればこそ。
鋼鉄の戦闘機と一つになったブライファルケは、闇の砲弾と化して、私へ激突!
「こ、このぉぉッ!?」
咄嗟に先端を両手で受け止めるけど。
だめ!? 止まらないッ!!
「ふははははははは! ふはははははははははぁぁぁッ!!」
壊れた高笑いを上げながら、私もろとも、地上へ一直線に墜落しようとする悪魔。黒の戦闘機。
焦燥。私の額を流れる汗。恐怖。
地上が! 地上がぐんぐん近づく!
このマッハで地面に叩き付けられたら、私もただじゃ済まない!?
「くっ……!?」
その窮地を。悪魔の特攻を止めたのは。
「ウガァァァァァァーッ!?」
飛来した漆黒の矢。鋼の巨鳥を射抜き、そのボディを腐食させる。
これは……。
「ミルちゃんッ!?」
視線を下に向ければ。駅ビルの屋根に立ち、彼女の能力の一端なのだろう、強烈な暗黒波動を放つ弓矢を構えるミルちゃんの姿。
酸化したように、ボロボロと塵になっていく戦闘機から。たまらず逃げ出す悪魔ブライファルケ。
私も死の抱擁から抜け出す。間一髪!
ミルちゃんと、一瞬のアイコンタクト。微笑みを交し合う。
「ふははははははははははぁッ!! これをも防ぐかァァッ!!」
完全に壊れたか、愉しそうに嗤うブライファルケ。
「だが! 俺様の美しさは負けぬ! 我が命と引き換えに! 美は神話となるのだァァァーッッ!!」
そして、悪魔ブライファルケは真の姿を。
嫉妬の炎、怨念の炎とでもたとえるべきか。文明を焼き滅ぼすかのような、炎の怪鳥の姿を露わにしたのだった。
※ ※ ※
「……凄まじい執念だ。あれは、魔剣でも止められないよ」
空を見上げる私へ、ステファニーが告げる。
全長数キロは有るかという、巨大な火の鳥となったブライファルケ。
すぐには降りてこず、ゆっくりと、上空を旋回。
私にも分かる。あれは余裕でも、示威でもなく。悪魔は、力を溜めている。
自爆して、地上もろとも私を焼き尽くそうとしている。
命を燃やし尽す最期の輝きで、自らの美を完成させようとしているのだと。
「……すごい奴ね」
ホント、執念だけはすごい。
美のために命を犠牲にする姿勢に、どこか今は、敬意さえ覚える。
生半可な覚悟では、止められるはずもない。
「分かってるね? あれを止めるには……」
私も、無言で頷く。
魔剣でも
いつだって、百合魔法少女の切り札は。
「……早百合ッ!!」
駅前の広場で、魔剣結界に護られていた早百合の元へ。
早百合もまた、何も言わず頷く。
……言葉なんて無くても通じ合う、さすが私の愛妻♪
そのまま抱き合って、私達は唇を……。
「りりな、他の女の子とキスした?」
ふえぇぇっ!? 通じ合いすぎ!?
「なんだかつやつやしてる。もしかして、ミルちゃんと……?」
か、勘良すぎだよう!
早百合の瞳から、すっと光が消えて。
「……包丁……浮気」
物騒な言葉をつぶやき始めるよ!?
「ま、待って早百合! お願い待って!?」
み、ミルちゃんとのキスは! えっと、友キス! 友キスなの! 友情のキスなんだよ!?
「性的に好きなのは! 早百合だからぁぁっ!?」
うわ、我ながら凄いコト言った!
てか、痴話喧嘩してる場合じゃないし! 上空の悪魔の圧力が、どんどん膨れ上がってるし!
「ふふ、じゃあ後で、たっぷり証明してね♪」
そ、それって……。ぽっ♪
と、とにかく今は魔力のチャージを急ごう!
……皆さん、もうお分かりでしょうけど。
はい、キスのお時間です♪
「ちゅっ。むぅ、んん、ぅーっ♪」
ミルちゃんとのソフトなキスとは違って。いきなり最初から舌を挿れ合う、過激な百合キス。
唇だけじゃ足りなくて。すぐに、身体を擦り付けあい、胸を揉み合い、腰を、腿を愛撫し合い。
愛欲剥き出しの、激しく求めあう、えっちなキス。
ああ、でも私は。やっぱり、こっちも好き。
優しい友愛のキスも。熱っぽいキスも。
私には、どちらも大切な……百合なんだ。
「んっ、早百合ぃ……っ」
悪魔の鳥よ、もう少しだけ待って。もう少しだけ、官能の時間を。
口の中が、脳の奥が、早百合の甘さで痺れるまで。
「む、ちゅぷ。ふ、にゅぅぅ、ん♪」
「キ、キマシタワーッッ!!」
愛のパワー、フルチャージだよ!!
「は、激しかったぁ♪」
うっとりする早百合。やっぱり……天使!
ミルちゃんとどっちかなんて、選べるわけないよね! ね!?
「って、きゅんきゅんしてる場合じゃないし!」
今や太陽が墜ちたかと疑うほど巨大な炎となった悪魔ブライファルケを見上げ。
再び、私は翼を広げ、空を目指す!!
※ ※ ※
さあ、長かった戦いも、終局の時。
私は狭山市の上空数百メートルで、遥か天空の悪魔の鷹を見上げた。
予感がある。
ミルちゃんと早百合。愛する二人の乙女と唇を重ねた今夜の私は。
すっごいの出せる。
それこそ、余波だけで埼玉全土が消し飛びかねないほどの。
上空へ飛んだのは、それから地上を護るのも理由。
「……男爵級悪魔、ブライファルケ」
好敵手の名を、つぶやく。
美に生き、美に死す、誇り高き悪魔。
でもね、やっぱり独りで美しくあろうとする貴方では。
愛し合う心に。百合の輝きに、けして及ばない!
「集え、魔剣よ!」
天空へ、掌をかざし。私は呼び掛ける。
己が魂の具現、百合の力の化身たる千本の黄金魔剣に。
そして魔剣は。剣のカタチをほどき。光の
さあ、イメージしましょう。
イメージを。百合。百合の素晴らしさを具現化したような、究極の武器。
私だけの、最強の武器を。私は望む、求める!
輝け。輝け。輝け!
光の粒子はいつか、嵐を巻き起こしながら、狂おしいほどに渦巻きながら!
集束。顕現。一つのカタチを。空に、新たな星を産む!
ああ、そして!
無数の魔剣が一つとなり、顕れるカタチ。
それは、女の子同士の愛が、清らかな愛が重なり合う、百合の光のカタチ。
「私の。私だけの、剣……!」
名付ける。
純潔の百合姫、神の左に座す者。受胎告知の聖天使の名を冠する、私の最強武器。
今、光の中から産まれる、其の名は……。
「輝け! 『天使剣ガブリエル』!!!」
ああ、ああ! 今誕生した、宇宙最強、百合魔法少女の神器!
それは、一本の超、超巨大剣!
もう、何というか、剣という概念を軽くオーバー。
全長数百メートル以上!!
無数の翼と、
ヒトが振るう武器の
いかなる伝説の武器をも超越した、神罰兵器。
百合という概念の、宇宙で最も尊い概念の、攻性具現!!
眩しい、と。地上で早百合が、ミルちゃんが。夜空を見上げる全ての人が、魅入られ、つぶやくのを聞いた。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲンンンッッ!!」
その輝きに、悪魔ブライファルケ。星を焼く怪鳥が怯え、突撃してくる!!
決着を付けるべく、最期の突撃を!!
そして私は。光の翼広げて。
「全魔力、解放。天使剣、
翼を、魔力の輝きを弓に。超巨大剣を矢に!
天空へと、悪魔へと狙いを定める!!
さあ、見せましょう。
これが、私の。百合魔法少女の放つ最大最強、究極魔法……!!
「『
今、放つ!
星の光の黄金神剣!! 全ての暗黒を貫く、聖なるアロー!!
虹色の軌跡を引きながら、宙へ。星の海へと飛翔する光のロケット!!
届け、銀河の果てまでぇっ!
悪魔ブライファルケの、火の鳥の全身を飲み込み、宇宙へ。宇宙へ!!
その輝き。不滅にして至高の、愛の輝き!!
百合の輝き!
これぞ、私の最強魔法。
百合が無敵である以上、この魔法が無敵なのは当然です!!
光の奔流、光の洪水。天使の剣は雲を裂き、闇を裂き、星々をも裂き!!
……ああ、その光景。宇宙から見ればきっと、地球に巨大な、光の十字架が立ったように見えただろう。
惑星規模の超魔法、その鮮やかで気高い光の中で、塵となりながら。
悪魔ブライファルケは、一瞬、人間体に戻って。
「……ああ、美しいな」
美の果てにたどり着いた喜びか。
歓喜の涙すら流しながら、消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます