第9話 プールサイド、鼻血に染めて①

 8月中旬。夏休みは続く。

 女子中学生としては、悪魔とのバトルだけに青春を捧げるなんて冗談じゃないし。

 というわけで、プールに行くことにしました!

 てか早百合とデート、的な?

 ちなみに私たちの住む埼玉は、海が無い内陸県。中学生の財布で海は遠いので、プールという選択に。

 狭山市に近い川越水上公園へレッツゴー!

 でも! まずは水着! 水着です。

 学校指定のスクール水着で行くつもりでいたら、早百合から「りりなにスク水!? 似合うしすごく萌えるけど! デートにはどうかと思うの!」と却下された。


 ちなみにステファニーは逆の意見。「愚かな! スク水こそキングオブ水着! 萌えの極致! とくに貧乳のりりなとの相性は抜群だよ! 着ないのもったいないよ!?」とかいうので、綿が出る寸前まで踏みつけてやりました。

 貧乳いうな!!


 ※ ※ ※


 さて、私たちがやってきたのは市内のデパート、水着売り場です。

 お財布と相談しつつ、水着選び中。むむむ、女の子として手は抜けません!


「あ、これなんていいかも!」


 私が手に取ったのは華やかな黄色のビキニ。

 どうも私は黄色とかオレンジ色が好みらしい。魔剣の色も派手な黄金カラーだし。


「くっ、でもこれを、ビキニを着るには私ではッ!?」


 そう、胸が足りない! 認めたくないけど!

 ましてや早百合とデートですよ? 比べられるに決まってるし!

 やはり、ここはワンピース型にするべきか……。


「……ん?」


 ふと試着室の方に目をやると、中の早百合が何やら手招き。

 カーテンから手だけ出して、ちょいちょい、と私を呼ぶ。


「何だろう?」


 首を傾げながら試着室に近づくと!


「えいっ、りりな捕獲♪」


「きゃぁっ!?」


 トラップ!? 腕を取られ、狭い試着室の中に引きずり込まれます!?


「ちょ、早百合!? か、顔が近いし!?」


 せ、狭い試着室に乙女二人! 何が目的!? エロ目的!?

 水着を試着中の早百合に捕まりました!


「ふふ、りりなに見せたくて。どう、似合うかな?」


 早百合が選んだのは、たぶんビキニ。なぜたぶんかって? 近すぎて見えないから!

 試着室の狭さは、ちょっとしたロッカー程度。公衆の電話ボックスくらいかな。


「あ、あのね早百合。普通にカーテン開ければ見せられるんだからね?」


 その狭い中で、私たちは必然的に密着!

 早百合が水着姿なせいで、私の感触では、裸の彼女を抱き締めている気分です!?

 ……やば、ドキドキしてきた。


「てか早百合。キス、するつもりでしょう」


「ふふ、わかっちゃった?」


 私の首筋に甘い吐息を吹きかけ、悪戯っぽく微笑みながら、早百合は。

 私の腰に、背中に腕を回して更に密着してくる。

 ぽうっ、と、熱に浮かされたような蕩けた瞳で、頬を染めながら。


「だって、私たち……もう、10分間もキスしてないんだよ?」


 はい、皆さんこう思ったことでしょう。

 10分前にもキスしてるの!? と。

 ええ、しました! しましたとも!

 トイレで、その、50回くらい!

 その5分前にはエレベータでちゅっ♪ さらにその5分前には駐輪場で人目を避けながらちゅっ♪

 もはや私たちは、百合キス中毒です!?


「も、もうっ、早百合のエッチ」


 あくまで被害者のふりをする!

 赤ずきんちゃんを見つけた腹ペコ狼の気分で、早百合の唇を貪ります♪

 永劫にも思えた10分ぶりに、ようやく味わう甘い百合キスタイム♪


「ちゅっ。んくっ。やぁっ、早百合ってば、変なとこ触らないでぇ?」


「ふふ、るちゅにゅぅっ♪ りりなこそ、あんっ♪ そんな深くまで舌挿れて、んっ、やらしいんだ♪」


 キス。キス。キス。キス。キス。キス。キス。

 それはもう、理性が壊れた暴走機関車みたいな勢いで、何度も何度もキス。

 デパートの試着室の中、人目を阻むのは薄いカーテンのみ。

 外では元気な子供や、もしかしたらクラスメートかも? 私たちと同じように水着を買いに来た女の子たちの声。

 も、もしカーテンを開けられたら。こ、こんなところを誰かに見られたら!?


「ああん、でも、もう止まらないよー♪」


 ……何度でも確認しておくけど、発情しているわけではありませんよ?

 私は百合魔法少女! 1日1回女の子とキスしないと、体内の魔力が暴走して死んでしまうのです!

 だから、その、これはちょっと多めに。ちょびっとだけ多めにキスしてるだけ!

 念のためにね! 私慎重派ですので! 念には念を入れて、1日100回くらい百合キスしてるだけだから!?

 そして。気が付けば。


「あ、あのぉ、お客様。もう、閉店ですよ?」


 たぶん何時間ぶりかにカーテンは開けられ、外には引きつった顔の店員のお姉さん!


「というか当店は! ホテルではありませんので! 試着室内でいけない行為はおやめください!?」


 はい、エロ娘でごめんなさい!

 結局早百合は、二人の汗まみれのビキニをご購入しました。


「ふふ、りりなの汗たっぷり♪ 計算通り!!」


 妖しく目をキラーンとさせて、早百合は水着をくんかくんかしてますが!

 わ、私は何も見てません! 速やかに自分の記憶から消去することにしました。

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