第15話 初めて倒れこむ昴

夏休みに入り、昴はいそがしい日々をおくっていた。それと言うのも、普段のバイトに

くわえて、二週間後の菫達とのライブに

向けての練習などで、1日ゆっくり

できる時間があまりなかった。


今日は菫達と一緒にスタジオでリハーサルを

やっていた。


今度やるライブはホールではなく、普通の

ライブハウスだが、それでも千人ぐらいは

入る場所だ。そこで成功させなければ

プロではやっていけない。菫達はいつも

全力で練習しているが、その全力以上の

事を昴にさせられていた。


この日は朝からずっと昴に演奏させられて

おり、三人はすでにボロボロだった。


「おい、いつまでそのままでいる気だ?」

「少しは休ませて」

「指が動かないわ」

「たったこれぐらいでか」

「あなた、本当に性格悪いわよ」

「最初から言ってるだろ。俺について

来れないなら、俺はやめるぞ」

「やるわよ!私達は頂点を目指すのよ。このぐらいで負けてられないわ」


その日菫達は夜まで練習し、帰りは安部達に

送ってもらった。


翌日、昴はバイトをしていた。いつもなら

平然とやっていくのだが、何かものたりない

感じだった。


休憩室で休んでいるとこの店の店長を

している女性、木坂咲(きさかさき)に

話しかけられた。


「どうした?珍しく考えこんだりして」

「何でわかる?」

「こう言う仕事をしていると人の表情が

わかってくるんだよ。お前は気にしない

だろうがな」


椅子に座り、カンコーヒを飲む木坂。いかにも大人の女性と言う感じで、昴は侑子とは

違うなと最初に思っていた。


「ああ。俺は他人の事なんか気にしない

からな。だが」

「だが?」

「なんでもない。仕事に戻る」

「あまり無茶をするなよ。お前はただでさえ、もろいんだからな」

「俺は弱くない」


木坂は心の問題の方を言ったつもり

だった。それはおそらく昴も

わかっていた。


とある日。菫達とスタジオでリハーサルを

していた。そこにはめぐみもやってきて

いて見学をしていたが、めぐみは昴の

様子がおかしいのに気づいた。


「霧島君、大丈夫か?」

「何がだ?」

「顔色悪いわよ」

「問題ない」


昴はそう言っているが、誰が見ても良くは

ない感じだった。


昼休みを終え、練習を再開しようとした

時だった。昴が見本の為、キーボードの

前に立ち、演奏をしようとした時、昴は

倒れこんだ。


大きな音にそこに居た全員が振り向いた。


「霧島君!」


しばらくして、昴は目を覚ました。


「ここは?」

「私の家だよ」


そこには心配そうに昴を見るめぐみが居た。


「何で俺はここにいる?」

「覚えてない?スタジオで倒れたの」

「倒れた?そう言えば体が動かないな」

「すごい熱だからね。39度もあるから」

「熱、こんなのは初めてだな」

「本当は病院にいるほうがいいんだけで

霧島君、身内がいないから。それに」

「ああ、俺はこの名前も偽名だからな。何もできんだろう。俺は、この世には存在

していないからな」

「霧島君」

「悪かったな。俺は帰る!?」

「ダメ!まだ動けないんだから。治るまで

ここにいなさい」

「俺に指図を!?」


昴が話そうとした時、めぐみは昴にキスを

した。


「あなたはもう一人じゃないのよ!あなたに何かあったら私や皆が悲しむわ」

「俺がどうなろうが、お前らには関係ない」

「あるわよ!少なくとも私はあなたにいなくなってはほしくない!ずっといてほしい」

「・・・黙ってろ。疲れたからここで寝る」

「そうね。今は寝た方がいいわ。私も部屋

に戻るね。何かあったら電話して。そこに

置いてあるから」


昴は返事をせずに眠った。めぐみは部屋を

出た。そこにはマネージャーの安部や

菫達がいて、話しを聞いていた。


めぐみは菫達に菫の事を話した。


「どうりであんな性格なわけね」

「私達、悪い事言ってたわね」

「ええ。後で謝りましょう」

「それはしなくていいわ」

「めぐみ先輩、でも」

「そう言うのは彼は嫌いだと思うから

いつも通りにしてて」

「めぐみ先輩がそう言うなら」

「ありがとう」


菫達は帰り、めぐみは昴が治るまで看病を

した。数日後、昴は完治した。


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