冒頭からまず心惹かれるのは美少年ふたり。儚げで、どこかバランスがとれずに危なっかしい可憐な転校生と、思春期らしい我の強さを持ちつつも、なんだかんだで面倒見のいいハンサム系美少年。
思春期の激情を思いきりぶつけて恋に揺れるふたりの、懊悩と喜びと成長をたっぷり綴った物語です。
丹念に、細部まで調べられた寮制学校の描写に、禁断の世界を覗くような密やかな愉しみを覚えてしまいます。
背景に流れるのはブリティッシュロック黄金時代の名曲の数々。スイーツ、煙草、音楽室、サマーキャンプ、高級車。
確かな筆力に裏づけられた、端整な文章が、物語を美しく彩ります。
英国の寮で花開いた美少年の恋――ときに切なく、ときに背徳的で、永遠を求めているのに刹那的で破滅的な恋――を覗いてみませんか。
イギリスの寄宿学校を舞台にした現代劇ですが、端正な筆致でどこかクラシックな雰囲気も漂うラブストーリーです。
家庭に恵まれまっすぐに育ったルカと、それとは正反対の環境で生きてきたテディ。二人は恋に落ちますが、その進む先は前途多難であり……。
片方が守る・支える。もう片方は守られる・支えられる。
この関係性は夫婦や恋人同士、友人関係にも往々にして当てはまるものだと思います。
ただ、守られる・支えられる者が自棄的で依存心の強い人間であるとき、支える側の人間がどこまで寄り添えるのでしょうか。
この物語のテディは深い傷を負っています。彼の背負ったものはこの歳にはあまりにも重すぎ、一人で抱えきれるものではありません。しかしそれを簡単に引き受けるには、ルカという同い年の恋人は幼すぎ、無知すぎる。振子が激しく揺れるようなテディの精神はルカを苦しめます。それを承知しても果たして一緒に生きて行こうと思えるか。
イギリスの文化、音楽など、筆者の知識が盛りだくさんに詰めこまれたディテールは、その方面に詳しい方ならきっと大喜びでしょう。長編ですが整頓された読みやすい文章で次の展開に進みたくなります。BLというタグにあまりとらわれず、人間ドラマとして読んで頂きたいです。
人間の暗い所にも焦点が当てられ、エロスの描写もそれ自身が目的ではなく物語の構成上のスパイスに加えられている程度。
そして、メインの二人だけではなく他の人達も細かいところまで作り込まれているのでしょう、血の通った人間にしか見えませんでした。
久々に、読みながら映像と音声、声が脳内で流れるほどの素晴らしい作品に出会えました。
最後に。
もし、テディがルカと出会わなければルカは普通の幸せを得られたのか、しかしルカがテディに合わなければ幸せなんて得られなかったのではないか。
そんな風にifの世界線を考えてしまうほどに私はこの作品にのめり込んでしまいました。
この作品に出会えた事に感謝を。