転移の念の検証 その三
「では、後ほど」
「あ、あぁ・・・」
妙にツヤツヤしたサチが転移の念でまたどこかへ飛んで行った。
「ふぅ・・・」
洞窟の外で見送った俺は適当な草むらに座って足を伸ばし、水時計を作動させてから目を閉じて回復に専念する。
うーん、予想外の反撃を受けてしまった。
あまり知られていない洞窟だから誰も来ないという安心感からかサチのおねだりを受けてしまったが最後、思いっきり搾り取られてしまった。
サチは興味心や向上心が強い性格しているからか、技術の向上も早いのでテクニック勝負になるとどうしても負けが込んでしまう。
ま、その代わりに神の体による超速回復能力があるので総合力で言えば負けることはないんだけどね。その点に関しては前の神に感謝しなければ。
さてと、大分回復したことだし、気付けばそろそろ時間っぽいので転移の念の準備に入ろう。
・・・ん?あれ?発動が不可と言われる。座標が不確定?さっきは走ってても大丈夫だったのに、どういうことだ?
サチがまだ移動完了してないのだろうか。もうちょっと待ってみるか。
しばらくいつでも念が使える状態で待機していると突然不可から可へ切り替わった。
なんだったのかよくわからんが、とりあえず可能ならば飛ぶしかない。
「転移!」
着いたらサチに詳しく聞くとしよう。
「うおあ!?」
「・・・え?」
転移が完了したら影が見えたので上を向いたら股が降って来てた。
「むぐぐ」
綺麗にドッキングするかのように対面型の逆肩車状態になったので、慌てて太ももを掴んで倒れないようにバランスを取る。
「そ、ソウ!?なんて所に現れるのですか!?」
「ほんなほとひはへへほ」
そんなこと言っても、転移先はサチとしか決まってないので文句を言われても困る。
「ぷはっ、そもそもなんで上から降ってくるんだよ」
「それは空中にいたらどうなるかと思いまして」
なるほど、それでさっき転移の念を発動しようとしても着地できる座標が無かったから不可って出たのか。
「・・・」
「あのっ、ちょっと!?何無言で顔を埋めているのですか!?んんっ」
もし転移の念が可になってて転移した途端空中から落ちたりしたらどうするんだ!
という先ほどと同じ安全面での抗議を行動で表す。
実際のところは危害が及ぶ場合、先ほどのように理由付きで不可となるのでそんなことにはならないのだが、それはそれ、これはこれ、抗議は必要と判断した次第。
しかし、サチのやつこんなツルツルスベスベのツヤツヤした下着履きやがって、首を左右に振ると鼻や唇に当たって楽しいじゃないか。
「その、もしかして転移の念が、発動できなかったりしましたかっ?」
うんうんとそのまま頷く。
「やっぱりぃ、くぅっ、それで遅かったのですねっ。き、記録だけしたいので少し待ってもらえますかっ?」
仕方ないので少しだけ待ってあげる。
視界では見えないが上半身から伝わる振動で作業しているのがわかる。
・・・終わった?終わったね、では再開。
「お待たせしっ!?なんで見えてないのにわかるのですかっ!?」
はっはっは、なめてもらっては困る。あとなめるのは俺の方だ。
その後サチが軽く脱力症状になり、俺の首が軽くむち打ちになるまで続けた。
「大分どういう念なのか分かってきましたので次で最後にします」
「了解。大分日も傾いてきたし、切り上げるには丁度いい時間だな」
「はい。ちょっと準備するので今回は二回分待ってください」
「あいよ」
「では後ほど」
サチが転移の念で飛び立った後、早速水時計を動かして待つ。
二回分となるとそこそこな時間待つことになるな。夕暮れ時というのもあってちょっと寂しい気持ちになる。
特に今いる島はそこまで大きくないので取り残された感がある。
ここの人達みたいに普段から自力で飛べれば何も思わないのかもしれないが、俺は抱えられて移動するので手段が無くなると不安を感じてしまう。
一応飛ぼうと思えば飛べるが、そもそも今いるここが何処なのか分かってないので迂闊に移動すると確実に迷子になる。
神が迷子になるのはさすがに避けたいところ。なのでじっと待つに限る。一応誰かに見つかってもいいように落ち着いた雰囲気を出しておく。うむ、完璧だ。
結局時間になるまで誰とも会わずに雰囲気作りは無駄に終わったが、気持ちが安定したのでよしとする。
さて、それじゃ行きますかね。
「転移!」
転移を終えるとふんわり軟らかい感触を手と足に感じる。
「来ましたか」
目を開けると目の前にサチがおり、体勢的に押し倒してるような状態になっていた。
「ここは・・・うちか?それにしては随分雰囲気が違うな」
「オアシスの街の宿を参考にしてみました」
顔を上げて周囲を確認すると見慣れたものとそうでないものがあった。
見慣れたものは今までの生活で目にしていたもの、あまり多くはないが普段から使っている家具類やその配置など。
見慣れないものはそれらが隙間からしか見えないように薄紫色の布で布団の周囲を区切っていたり、ぼんやり光る間接照明が置いてあったりするところ。
なんというか自宅だというのにとってもムーディな雰囲気がする。
「ソウ」
周りを見ていた俺の頭をサチが無理やり自分の方へ向かせる。
「あぁ、すまん」
周囲なんていいから自分を見ろと主張するサチに謝り目を向ける。
サチは薄い赤色のシースルーのネグリジェ姿になっていた。
日頃からヒラヒラした服は着ているし、裸も見ているはずなんだが妙にそそられる。
「サチ」
「はい。いつでも」
いつもより大分早い時間ではあるが据え膳状態で我慢するようなことはしない主義だ。
相手はサチに限るけどね。
夜も大分更けた時間、休憩しながら今日の結果を聞く。
「で、俺の転移の念はどうだったんだ?」
「大まかな統計結果を表示します」
仰向けで寝る二人の前に大きめのパネルが表示される。
「距離に関わらず転移の念を使用した際の神力の消費量は一定でした。ここは私達の転移の念と大きな差になります」
サチ達が使う転移の念は距離に応じて消費のマナが増加するのだが、俺の転移の念はそうではないらしい。
「他にも転移先での念の無力化、装着物の解除など私達が使う念より上位の力と考えていいと思います」
「なるほど。他に何か気付いたことはあるか?」
「・・・あるにはあります。私の個人的見解に留まりますがいいですか?」
「うん」
「その、距離が伸びると私に対しての行為も徐々に過激になっていってたような気がしました」
「あー・・・」
言われてみればそうかもしれない。次第にダイレクトになっていってた気がする。
「座標ではなく人へ転移できる点は新しいとは思うのですが、やはり現段階では実用はちょっと・・・」
「わかってる。許可が無ければ緊急時以外は使わないようにするよ」
「よろしくお願いします」
正直なところ距離に応じてどういう風になっていくかの検証をしたい気持ちはある。
「・・・ちょっとソウ?何か今いかがわしい考えをしましたね?」
「ははは・・・」
無尽蔵な体というのもなかなか制御がいかないものだ。
「まったく・・・仕方ない人ですね」
そう言いつつも乗り気なのがサチのいいところだと思う。
もしかすると検証に付き合ってくれるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら休憩を終えることにした。
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