爆発

オアシスの街を出てなんとか大河を越えた一行が西へ移動をしている。


そろそろ視野拡大で見た変質した土地へ差し掛かるな。どうするのだろうか。


変質した土地の端へ来ると元魔族の子と魔法の使える子が反応して馬車から降り、相談を始めた。


しばらくすると馬車から馬だけ外し、馬に乗れる者と魔法使い、それに飛べる者だけが調査隊として変質した土地へ入り、残りの人は荷車と一緒にその場で野営をして帰りを待つようだ。


荷物を置いてきたことで移動力の上がった調査隊は元魔族の子が示す方へどんどん進む。


進む方角は以前俺が指した変質した土地の中心点。


ところどころで集落の跡地を見つけては寄って調査をし、中心へ向かうを何回か繰り返したところで中央へ到着する。


中心点を見ながら調査隊の子達があれこれ話している。


「なんて言ってる?」


「今のところマナ爆発が起きたのではないかという推測が強いみたいですね」


「マナ爆発か・・・」


マナ爆発というのは他よりマナが多い状態が何かしらのきっかけで爆発して拡散する現象のことだ。


マナ爆発自体は下界ではそこまで珍しい事ではなく、極小規模であれば毎日起きている。


爆発の影響は小さく、普段とちょっと体調が違うぐらいにしか影響がないので気付く人は少ない。マナに敏感な人が気付く程度だ。


マナが多い状態といえばマナ溜りがあるが、マナ溜りは基本的にマナが集まり続ける状況で滅多に爆発する事は無く、そのまま周囲を変質させながら徐々に大きくなるだけだ。


「仮にマナ爆発だとすれば妙な点があるな」


「ソウもそのように思いますか」


「うん。マナ爆発にしては規模が大きすぎる。普通なら大きくても民家二、三軒ぐらいだし。もしマナ溜りが爆発したとしても中央はもう少し他より変質が進んでるはずだ」


「そうですね。ではソウなら何だと思いますか?」


「ふむ・・・」


相談する調査隊を見ながら状況を頭の中で整理する。


地面の変質は表層部分でそこまで深くないので時間的にそこまで経過していない。


変質はおおよそ範囲内で均等になっており、中心に向かうほどその変化は若干強くはなるものの、中心点だけ異常に変化が強いという事はない。


また、物理的に見ても物の変質こそするが集落の建物を倒壊させるような力はマナ爆発には無い。


ではマナ爆発ではないのなら何なのだろうか。


地形変化は集落などの家屋は基礎から上が吹き飛んで無くなっているが、中央にクレーターのような形跡は無く、地質的にも砂で埋まるなんて事も考え難い。


したがって爆裂や隕石のような地面に直接影響を与えるものではないだろう。


そうなると大分絞れてくるな。


「魔法で雨を起こした?強酸性雨のような?いや、違うな・・・。竜巻?・・・いや、倒壊の方向的にダウンバーストを起こした?」


竜巻は中央で吸い上げるように起こる風の渦だが、ダウンバーストはその逆で中央から外へ吹き付ける風の渦だ。


もし魔法によってダウンバーストが引き起こされた場合、範囲に強い風とマナ散布がされたのではないだろうか。


それなら家屋が基礎だけ残して吹き飛ぶのも説明が付く。


「つまり気象系の魔法ですか?」


「うん。何故使ったのかまではわからないが」


「なるほど」


出来ればちゃんとした理由で使われていてほしい。


勿論もっと悪い事の予想もしてある。


戦争や虐殺なんて事も頭の隅には用意してある。


ただ、信者でもある元魔族の子達が悲しむようなことになってないと良いなと思う。


調査隊を追ってればおのずと答えは分かるだろう。


今後も気にして観察を続けようと思う。




「む・・・」


仕事終わりにサチがパネルを開くと何かに気付いたようだ。


「どうした?」


「警備隊から要請が来ています」


「詳しく」


「なんでも最近召還した島で爆発が起きたとかで見に来てほしいと」


「爆発?穏やかじゃないな。直ぐに行こう」


規模がどの程度かにもよるが何にせよ心配だ。


怪我人とかいなければいいんだが。




「ご足労感謝します。ソウ様、サチナリア様」


爆発のあった島の近くに警備隊のフラネンティーヌやルシエナをはじめとした警備隊の人達が待機しており、水の島の時のように何人かで島の外から中を警戒するように飛んでいる。


「状況を詳しく」


「はっ。本日、近くを通った者が島から火柱が上がっているとの報告を受け、あちらの島に向かったところ、火柱の他にも島の形状の変化を確認。最近出来た島だったこともありお二人に要請を送らせていただきました」


「形状変化というのはあのクレーターの事ですか?」


「はい、そうです」


サチとフラネンティーヌは確認するように島の状態を言う。


既にこちらに来る時にざっとだが上空から見たが、島に複数の連続したクレーターが出来ており、その中に一本火柱が立っていた。


「島には入りましたか?」


「いえ、まだです」


「わかりました。バックアップよろしくお願いします」


「はっ」


状況報告が終わったところで俺が小さく手を挙げる。


「あの、俺からも質問いいかな?」


「なんでしょうか?」


「今回の件はあの島から漂ってくるいい匂いと何か関係ある?」


俺がそう聞くと近くで聞いていた人達皆がなんとも言えない困った表情をする。


どうにも先ほどからあの島からエスニック的なスパイシーな匂いが漂ってきて胃を刺激してくる。


警備隊の皆が閉じた口をモゴモゴさせているのは噴出する涎を戦っているからだろう。


「すみません、まだそれも不明です」


「そうか、了解」


いずれにせよ島に行って調査しなければいけないな。


「それじゃ、行こうか、サチ。・・・サチ?」


サチの方を見ると空間収納から既に何品か料理を出しているところだった。


「まずはおなかに物を入れるのが先です」


「いいやったあああああ!!」


したり顔でそう言うと周囲の警備隊員から歓声が上がる。


・・・。


まぁ確かにその方が多少集中できると思うけどさ。


自分も耐え切れないと思ったんだろ?・・・目でそうだと返答が来たので許してやろう。


少し行くのが遅れるが士気は高い方がいいか。


既に料理を受け取る待機列が出来ているのを見ながら俺は緊張の糸を少し緩めた。

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