規格の違い
技師の案内で台座の前に来た。
説明によるとこの台座は屋内の壁と同じ素材で出来ていて、あらゆる影響を無力化するといわれてる素材らしい。
「先にサチナリア様に試していただいた物はこの台座より劣る素材で作られたものです」
「劣る素材?なんでまた」
「こちらと同じ物を作り上げるのは多くの素材と時間が必要で、加工も難しく専用の道具や機材が必要なのです」
「素材としての汎用性は落ちますが、その分特化して加工や工程を容易にした素材を現在我々は研究しているのです」
「おぉ、なるほどー」
先ほどサチがやった前二つの念実験は特化した耐久性と特化してない耐久性の実験だったのか。
そうか。最高品質で満足するのではなく、より実用性を求めていっているわけか。面白い研究だ。
「で、俺はこの台座に何か変化を与えられるかっていう実験をすればいいんだな?」
「はい。よろしくお願いします」
「やってみるけど、何も起きなくてもがっかりしないでくれよ?」
「大丈夫です。何かすればゼロではありませんから」
ゼロではない、か。実に研究技師らしい、いい答えをしてくれる。心強い。
技師達が離れたところで開始の合図をくれるので改めて台座と向き合ってみる。
さて、どうしようか。
・・・ふーむ。やっぱりちょっと弾力のある素材だな。硬めのゴムみたいだ。
叩いたところで俺の筋力じゃ高が知れてるから念を使ってみるか。
台座に手を置いて目を瞑って念を使う姿勢に入る。
いつものようにサチの柔らか部分を触るような感覚でアクセスして台座にどのような影響を与えようか考える。
んー・・・ん、柔らか、か。さらに柔らかくするってのはちょっと面白そうだ。
出来そうか?・・・む、微妙な反応。もう少し具体的に念じないとダメと。うーむ。
すると頭の中に素材の情報が断片的に入ってくる。
なるほど、精霊石の粉を混ぜて作ってあるのか。
それで外的要素に対して同属性の場合磁石のように僅かに動いて集まり伝達吸収すると。
動ける要因はこのプニプニする基礎素材なんだな。うん、何か良く分からない名前の素材が大量に出てきてわからん。
とりあえずこの精霊石の粉が集まらないように制御しながらゆっくり力を入れて、手の部分だけ柔らかくして手形を付けるってのはどうだろうか。
うん、これなら出来そう。よしよし。
では実行。
念を使うと手が触れてる部分だけぐにっとした感触に変わる。あ、この感触俺の好きなやつだ。
ちょっと埋まったところで手を離し、目を開ける。
「終わったぞー」
サチと技師達に手を挙げて終わった事を伝えると凄い形相でこっちに走ってきた。なんだなんだ。
「ちょ、ちょっとソウ!何をしたのですか!?」
「おち、落ち着けサチ。揺らすな」
「て、手形が付いてる・・・」
「詳しい説明を要求します!」
興奮するサチと唖然とする技師達が落ち着くまでしばらく時間がかかった。
あー頭が揺れるー。
「つまり精霊石の粒子が寄って来ないようにしつつ、基礎素材を掻き分けたと」
「うん。まぁそんな感じかな?」
詳しく聞きたいと半ば連行されるような形で別室に移動した俺は台座に何をしたかをざっくりと説明した。
日頃から念を使わずとも使う前段階まで練習してたおかげか以前より細かい指定が出来るようになったようには感じた。
とはいえサチみたいに理論立ててやっているわけではなく、何となく可能か不可能かを試していた程度なので細かな説明を求められても正直困ってしまう。
「やれる?」
「無理無理無理」
俺が念を使ったときに収集した情報をパネルで見ながら技師達が小さな声で話してるがどうやら新たな悩みを作ってしまったようだ。
「・・・またとんでもない事をしてくれましたね」
「なんかすまん」
「いえ、頼んだのはこちらですから気にしないで下さい」
そうは言うがサチも処理が追いついてないようで険しい表情をしている。
「以前地の精を助ける時に使った念もそうですが、やはりソウの念は私達が使う念と少し規格が違うようです」
「みたいだな」
「しかし彼らには良い刺激だったようですね」
サチが技師達に視線を向けるとこちらの会話が耳に入っていないぐらい集中した様子でパネルを凝視しながら話し合っている。
「刺激と言うべきか困らせてしまったと言うべきか悩むところだな」
「いいのです。彼らは考える事が生き甲斐なところがありますから悩ませて置くぐらいで丁度良いのです」
酷い言い様だが一理あるとも思う。
目の前に課題があると人というのは熱意を出す。
特にそれが自分の好きな事であればあるほど。
ここの人達は基本的に好きな事を見つけてそれを仕事としている人が多いので、サチの言う事が本当で考える事が好きならば今が一番楽しいのかもしれない。
「とりあえず私達は用が済んだので後は任せて帰りましょう」
「わかった」
技師達に見送りは不要と伝え、会話に水を差さないよう帰ることにした。
そういえば台座に手形つけちゃったから次に素材試験する時困らないだろうか。
ちょっと気になったがもし困るようならサチに連絡入れるよう後で一言入れておいて貰おう。
夜。風呂に入りながら考えを巡らせる。
念のイメージトレーニング中に自分でどれだけの事が出来るか色々試してみた事があった。
試していると可能、不可能の他に微妙、実行不可という返答が出る事がわかった。
微妙というのは可能にするにあたっての条件不足で精度にばらつきが出そうな時。
転移の念なんかがこれに該当する。あれは多分転移先のイメージが足りてないんだと思う。
不可能と実行不可は似ているようで違う。
不可能はどう足掻いても出来ない。内容の見直しが必要な時。
実行不可は可能だが現在は出来ないという状況。恐らく神力が足りないとかだと思う。
大体大規模な事がこの実行不可に含まれる。
・・・そう、含まれてしまうのだ。
その中には破壊や創造もあった。
俺の中の念判定は転移の念には微妙と返す癖に、破壊や創造をするのは容易にやれると返してくるのだ。
サチが俺の念は規格が違うと言ってたが、恐らくサチが思ってる以上の事が俺の念では可能になっているのだろう。
下界に対しては承認ボタンというフィルターがあるが、こっちの生活空間では普通に使えてしまう。
サチとの約束で使わないようにはしてるが、それも口約束で何か制限を掛けているわけではないんだよな。
・・・寝てる間とかに暴発しないか心配になってきた。
今は実行不可ではあるが、可能になってしまった時の対策を考えておいた方がいい気がする。
今度会合に行ったときに他の神に聞いてみよう。
「・・・あの、ソウ」
「ん?」
「考え事をしていますか?」
「む、何故分かった」
「触り方に雑さを感じました」
・・・おおう、気付かぬうちに両手がサチの胸に行ってた。
日課とは恐ろしいものだ。自然と体が動いていた。
サチもサチで違いに気付くのが凄いな。
「これは失礼。お詫びに念入りにしよう」
「えっ!?いや、そう言う意味で言ったのではっ、あっ、ちょっとっ、んっ」
「そういえば今日念を使った時、台座の柔らかさがこれぐらいだった」
「まっ、またですか!?」
うん。念を使う時にどうしても思い出しちゃうんだよなぁ。
使えるようになったきっかけがきっかけだったし致し方ない。
安易な思考回路だとは思うけど、平和的利用に一役買っていると思って欲しい。
「サチには感謝しないとなー」
「かっ、感謝の仕方がっ、偏っていますっ!」
息を荒くしたサチが抗議の声をあげるので全身へ感謝の気持ちを表すことに変更した。
いやー、悦んでもらえてなによりだー。
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