移民者と移民補佐官

下界の冒険者を見ていると一際目立つ大きい武器を持っている人がちらほら居る。


その使い手の多くは熟練者で、駆け出しの冒険者が持っていることはまず無い。何故か。


今丁度冒険者学校でそれについての講義をしているので一緒に覗かせて貰っている。


大きい武器の利点は攻撃範囲や威力、そして持っているだけで威嚇できる象徴性。


逆に欠点は使用できる場所の少なさ。


案外自由に振るえる場所というのが少なく、市街地、森、洞窟と言った狭い場所では扱うどころか持ち込む事すら困難な場所もある。


そこで使い手に求められるのはその武器を手放せるかどうかという点。


武器を手放すということは武器に依存せずとも戦って行ける力量が必要になるため自然と使い手が熟練者に収束されていく。


なるほど、勉強になる。


武器というのは一種の心の支えみたいな部分があるからそれを手放せる勇気というのはなかなか凄いことだと思う。


心の支えか・・・。


・・・やめやめ、怖い考えしてしまった。想像しただけで泣いちゃいそう。


考えを変えるために別の場所に視点を移そう。


大きい武器といえば大鎌のデスサイズというものが下界には存在している。


デスサイズの欠点も他の大きい武器と同じだが、利点が他と少し違う。


他の武器は重さで叩き潰したり、切り裂いたりするというのが主な利点だが、デスサイズは奇襲性という部分が利点となっている。


例えば普通の武器同様に振り下ろされた場合、目は自然と柄の部分に注目してしまうため、それに対処しようとすると特殊な形状で背後から刺されてしまう。


他にも柄を引くことで背後から攻撃できたり、薙いだ時が最も攻撃性が高くなったりと奇襲性に富んだ仕様をしている。


しかし奇襲性というのは対処方法を知っている相手には極端に弱くなるという性質を持っている。


そのため下界ではデスサイズを持つ者の大半は魔法職などの後衛職が補助武器、切り札武器として持っている事が多い。


特に少数派の闇系統の魔法使いが持つ事が多く、持っているだけで象徴として宣伝になり、仕事の声が掛かりやすくなっているようだ。


なるほどなー。


大きい武器は自分の手の内を明かす事に近く、それでも勝てる自信や力量が備わっていなければ持つ事が出来ない武器なのか。


ただ単純に強いから、目立つから、カッコイイからとかいう理由で持ってはいけないんだな。


勉強になるなぁ。




「キ!」


案内鳥の声と共に六人の女性が仕事場の空間に到着する。


「ご無沙汰しております」


挨拶してきた子と二人は会合で会ったことのある三人。


以前会った時とは違い首輪も無ければボロボロの服も着ていない。


サチや生活空間に居る皆と違いの無い姿になっていた。よかった。


「初めまして。これからよろしくお願いします」


そして少し怯えた様子の知らない三人。


興味と恐怖が入り混じった視線を向けられているが気にしないでおく。


「皆さん移動お疲れ様でした。移動の案内もありがとうございました」


「キ!キキ!キェー!」


案内鳥は任務完了と言う感じでくるっと一回転してから帰っていった。ありがとうな。


「さて、では軽く紹介を。私はサチナリア、主神補佐官をしています。そしてこちらがソウ、この世界の神です」


「ソウだ。よろしく」


本当は一人一人に握手して回りたいところだったが、前の世界の神のことを考え止めた。


慣れるまで距離はあまり詰めないようにしておいた方がいいだろう。


「よろしくお願いします。私は三六二と呼ばれていました。私から順に四四一、四九八」


「待って待って」


淡々と紹介をするのを止める。


「名前、無いのか?」


「いえ、この数字が名前です。首輪に刻まれていました」


「うーん・・・」


天使なのに名前の扱いが調整中の天機人と同じじゃないか。


しかも彼女達の場合がそれが正規の名前になっていると言うのがなんともやるせない。


「一応聞くけど、その名前に愛着ある?」


そう聞くと全員が首を横に振る。


「そうか。じゃあ折角こっちの世界に来たんだし、心機一転して新しい名前にしてみないか?」


「い、いいのですか?その、私達もサチナリアさんのような名前にしても許されるのですか?」


「もちろん。というか俺が数字で呼ぶのが辛いから新しい名前にしてくれるとありがたい」


「わかりました。少し相談したいので時間を貰ってもいいですか?」


「うん。じっくり考えてくれ」


六人は少し離れたところに移動して小声で会話を始める。


「ほら!言った通りの人でしょ!」


「あのような神様もいるのですね」


「名前自分で付けていいの?」


「いいみたい。でもこっち名前とかわからない」


「うーん・・・」


どうやらお悩みの様子。


小声とはいえここは基本何も無い空間なので音が良く通る。


「丸聞こえですね」


「そうだな。あれじゃ前の神に小言を聞かれてもしょうがないな」


「・・・ちょっと助言しに行ってきます」


「頼む」


サチが六人の所に混ざった途端ぴたっと声が聞こえなくなった。


あんにゃろう念で音を遮断しやがったな。


驚いたりこっち見たり頷いたりする様子しかわからなくなった。おのれ、聞こえなくなったらなったで気になるぞ。


しばらく話し合いをするとこっちに戻ってきた。


「決まりました」


「おぉ、良かった」


「ソウに名付けしてもらう事が」


「なぬ!?」


「ソウ様が名付けが得意と聞いたので是非お願いします」


そういうと六人が頭を下げる。


俺は一切名付けが得意なんて思った事も言った事も無い。確かに付けてる回数はかなり多いが。


ただ、こうお願いされてしまってはしょうがない。これも神の役目だ。


「わかった。ちょっと時間かかるけど皆がそういうなら付けさせてもらおう」


「よろしくお願いします」


さて、天機人達と同じ個別面談方式でやるかな。


丁度それぞれどういう子かも知りたかったし。





「ふー・・・終わったー」


面談兼名付けが全員分終わった。


話しながら何となくパッと浮かんだ名前で、それぞれロゼ、マリー、ミント、アズ、ツユツキ、ミレットと名付けた。


先程から率先して前に出て話してくれていたのがロゼ。


ほんわかとした雰囲気をしていてどこか母性的なのがマリー。


ミントは喋るのが苦手なようで俺から話しかけた事を頷いたり首を振ったりしていた。


アズはどこか子供っぽい感じがした。喜怒哀楽がはっきり出るタイプ。


淑やかにしていて言葉が丁寧だったがツユツキ。俺を見る目が鋭かった。


ミレットはツユツキと違う方向で俺を見る目が怖かった。値踏みされてる感じがした。


今皆は俺から少し離れて再びサチと話して手続きをしているようだが、なんというかなかなか個性的な面子が来たなと思う。


会合で会った時はもう少し個性が無かったように思えたが、やはり首輪が外れて自由を得たというのが彼女達の個性を増長させていると話してみて感じた。


しばらくは同じところで生活してもらうが個性の強さでぶつかったりしないかちょっと不安だな。


まぁその辺りは移民補佐官に委ねて何か問題を感じたらその時対応するか。


「ソウ、皆さんを居住島へ送ります」


「わかった」


席を立ちサチの元へ向かう。


「大人数だが大丈夫か?」


「大丈夫です。転移先の島は大きいので」


「そうか。では頼む」


サチがいつもより少し長く精神統一をしてから転移の念を発動させる。


大きい島か。皆がどう手を加えるか楽しみだ。




六人が住む島は目算でドリス達の島と比べて二周りほど大きい島だった。


そして島の真ん中には木造の屋敷が建っていた。


三階建てでかなり大きい。


入り口の扉も両開きで豪華だ。


「あの、私達こんな大きな家に住むのですか?」


「そうです」


「ほあー・・・」


呆気に取られる六人。無理もない。俺も若干そんな感じだ。


「・・・ぁぁぁあああ!お、お迎えに上がりました!」


そんな呆気に取られて居た俺達を中から両開きの扉を前に倒して飛び出してくる人物がいた。


「遅いですよ」


「すみません!すみません!」


ペコペコとサチに勢い良くお辞儀する眼鏡を掛けた子は情報館のメイドと似た服装をしていた。


「サチ、その子は?」


「はい。今回移民補佐官に選びました。自己紹介してください」


「は、はい!皆さん初めまして!私ANGE-T-E000155と申します!」


そう言い切り元気良く頭を下げる。


「え、待って、名前は?」


「まだ無いです!移民の男性の方!」


「こちらの方は移民者ではなく貴女の名付け親になるソウですよ」


「ふおおおお!貴方様がソウ様でしたか!申し訳ありません!何卒、何卒ご容赦を!」


「わかったわかった、怒ってないから落ち着いてくれ」


ルミナの圧とアルテミナのうるささを足して二で割ったような感覚に見舞われながら移民補佐官の子を落ち着かせる。


あと、サチ、お前さらっと俺にこの子の名付けをしろって言ったよな。頼みましたじゃないんだよ、まったく。


「んーじゃあ名前はシア。それで登録してくれ」


「シアですね!素敵な名前ありがとうございます!改めてシアです!よろしく願いします!」


シアは六人の方に向き直り改めて深々とお辞儀をする。


「この人が貴女方の移民補佐官です。補佐官と言うよりは身の回りの世話人と言う方が正確です。こちらについて教えるのは別の人にも頼んでいるのでシアの説明で不足を感じたらそちらの人に聞いてみてください」


シアの言いようがあんまりな気がするんだが。


「お願いします!」


本人がそう言うんかい。


割と個性的と思っていた六人がシアの勢いに完全に呑まれてしまってる。


「ではシア、後はよろしくお願いします」


「はい!」


「移民の皆さんも移動お疲れ様でした」


「あ、はい、色々とありがとうございました」


「ソウから何か言う事はありますか?」


「ん?そうだな。とりあえず何か困ったら気軽に周りに聞いてくれ。それと俺からはどうこうして欲しいと言うのは殆ど無いから何か義務感を感じる必要は無い。しいていえば自分で考え、皆で話し、ここでの生活を楽しんでくれれば俺は嬉しい。そんなとこかな」


「わかりました。ありがとうございます」


「うん。じゃあ俺らは帰るか」


「はい。では皆さんこれからよろしくお願いします」


皆はこれから新しい生活が始まる。


出来ればこの世界を気に入ってもらえると嬉しい。


そう思いながらサチの転移で家に帰った。




「シアについてですか?」


「うん。どういう人選したのかと」


「わかっちゃいましたかー」


「わからいでか。明らかにアルやイルと比べると補佐官としての質が違うだろう」


「確かにシアは移民補佐官として求められる性能は満たしていないです。しかし実際会ってみてどういう感想を持ちましたか?」


「そうだなぁ。エネルギッシュ、底抜けに明るい、騒音ドリルを思い出す」


「騒っ・・・んんっ。た、確かに声は大きいですけど・・・ぶふっ」


「本人には言うなよ」


「分かっています。私は今回彼女のその明るさが大事ではないかと考えていました」


「ほう」


「移民の彼女達は心のどこかに闇を抱えている可能性があります。なるべくそれが出ないような人を補佐官にするのが良いのではないかと」


「なるほど。それでシアか」


「はい。どうでしょうか」


「うん。良い人選だと思う。褒めて使わす」


「ふふ、ありがとうございます」


「頃合を見て様子を見に行きたいから良さそうなタイミングがあったら教えてくれ」


「わかりました」

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