変な夢

下界を観察しているとサチがパネルを投げてくる。


「ソウ、ちょっとそれを見てください」


「ん?どうした?」


パネルには唄の歌詞のようなものが書いてあった。


「魔族の中で歌われているものなのですが、言語体系が違い、意味を分かって歌っている人はほぼいませんでした」


「曲だけが残った感じか」


「はい。こちらでは訳せたので少し見て頂こうかと」


「うん。ありがとう」


貰った歌詞は勇者についての唄になっていた。


一番は光と共に現れた勇者が輝く剣で悪しき者を倒すという内容。


二番は勇者が振るう剣には敵も味方も無く、己の正義を通すだけの刃という内容。


三番は最強という名の勇者は助けた女の子に刺され、光となって消えたという内容。


・・・。


多少脚色はされているだろうが、恐らくこれは事実に基いた唄なのだろう。


良くも悪くも勇者とて人の子というのを表現した唄だと思う。


そしてそれが現在魔族の中で曲だけ残り、歌われているというのが何とも皮肉な話だ。


下界を観察していると勇者の痕跡を見かけるが、大きな功績を残した勇者は少ない。


中にはこの唄のような勇者もいたのだろう。


・・・。


あーダメだ、感情が揺れる。


神になってから仕事中はあまり感情が揺さぶられずにいたと思ったんだが、今回はダメっぽい。


俺がやったわけではないが、成り行きで神になってしまった手前、神としての不甲斐なさ。


同じ異世界の魂という立場。


そして意気揚々と下界に降り立ったものの、思ったように上手く行かなかった勇者達の気持ち。


そういう色々な感情の波が押し寄せてくる。


「はー・・・」


あまり泣いたりするのは情けないとは思うんだが、こればっかりは止められない。


サチには気付かれないよう考えているような仕草をしたから大丈夫だろう。


・・・大丈夫じゃなかった。


普通に気付かれて黙って頭を抱きかかえられた。


「すまん、サチ」


「いえ、こちらこそ申し訳ありません」


交わす言葉は少ないが、心が落ち着いていく感覚がある。


俺にはサチがいてくれて本当に良かった。そう思う。




今日は仕事中の事もあって休養日になった。


そういえば休みでもこうやって横になってるのは久しぶりな気がする。


サチには大丈夫と言ったんだが、泣きそうな顔をされたので大人しく従う事にした。


責任を感じることではないと思うが、自分の中で区切りが付かないのも分かるしな。


早く寝ろ?もうちょっと膝枕の感触を楽しませてくれてもいいじゃないか。


あ、問答無用で念を掛けられた。あーあ。おやすみなさい。




「ソウ、起きて下さい」


サチの声で意識が一気に浮上してくる。起きるか。


「おはようございます」


・・・。


え、何その格好。


というかここ何処?


起きた場所はいつもの家とは全く違う木造の家。


ベッドもいつものより質が悪い。


そしてサチの姿がいつもは着なさそうなローブに魔女の帽子を被った姿になっている。


似合ってるっちゃ似合ってるけどどうしたんだその姿。


「今日は依頼消化をするのですから急いで準備してください」


言われるがまま準備を開始する。


俺の意識とは別の俺が勝手に動いて準備を進めている。どういうことだ?


準備が終わると杖を持ったサチに付いて木製の階段を降りる。


「おはようございます、ソウ様」


降りた先にはルミナを先頭に農園の子達とアリスを先頭に情報館の子達の姿があった。


アリス達はいつものメイド姿だが、ルミナ達の姿が明らかに違った鎧姿になっていた。


「では行きましょうか」


状況が把握しきれないままサチに従って建物の外に出る。


・・・なんだこりゃ・・・。


外に出るといつもの空と浮遊島の風景ではなく、建物が多く並ぶ通りと遠くに見える城。


多くの歩く人に並ぶ商店、まるで下界の街のようだ。


・・・。


まさか下界に来てしまった!?


いや、まて、それはおかしい、あんな城見た事ない。


中央都市の城とも全然違うし。


本当に何処なんだここ。


体は勝手にサチ達に付いていくので俺は街の様子を見ることしか出来ない。


あ、アスト夫妻がいる。雑貨屋みたいな店やってる。


遠くでフラネンティーヌらしき鎧の人もいる。


一部建物にヨルハネキシ卿寄与と書かれたプレートが貼ってある。貴族なのだろうか。


それ以外にも街のあちこちで俺の知っている人達の姿や名前を見かける。


そうこうしているうちに街の外に出てしまった。これからどうするんだ?


「転移!」


サチがそう言うと俺達の足元に大きな魔法陣が浮かんで魂が抜けるあの感覚に襲われる。


これは知ってる感覚なので何故か安心する。


到着した先は広い何も無い島。


「それではソウ、これを掲げてください」


サチに手渡された巻物を言われた通り掲げる。


するとそれは赤黒く輝いてから消え、目の前に同じ色の魔法陣が浮かんで中から何かが出てくる。


・・・え、ドラゴン?


「戦闘開始!」


俺の思考が追いつかないままドラゴンに総攻撃を始める。


ルミナ達が剣や槍で地上から、アリス達はどこから出したか分からないビームやミサイルで空中から攻撃をして一瞬で倒してしまった。


・・・もうわけわからん。


「これなら余裕ですね。まとめてやりましょう」


サチが更にわけわからん事言い出す。


あ、呼び出すのは俺なのね。勝手に体が動いて巻物を指の間に挟んで一気に掲げる。


次々赤黒い魔法陣から出てくるドラゴン。


「ソウ、私達も攻撃に参加しますよ。いつものを」


サチの合図があると俺は後ろからサチに抱き付く。何か感触が妙にリアル。


「いきます。神罰!」


サチが杖を掲げると空から白く輝く光が降り注ぎ、俺の視界が真っ白になった。




「・・・んぉ?」


「起きましたか?」


目を開けると知ってる布団に知ってるいつもの部屋にいた。


あぁ、夢か、アレ。


うーん、夢なんてこっちに来て初めてじゃないか?少なくとも覚えているのは初めてだと思う。


しかし変な夢だったな。


まぁ夢なんてそんなもんか。


「起きたのなら少し緩めて欲しいのですが」


俺の目の前の後頭部がそう言ってくる。


なるほど、妙にリアルな感覚はこのせいか。


ちょっと力が入ってしまってたようだ。


緩めはするが解きはしない。


さっき楽しむ暇なく寝かされたからな。うんうん。


「夢見た」


「夢ですか。どんなのを見たのですか?」


サチが興味を示したのであちこちスベスベしながら話す事にした。


話しながら頭がスッキリしてるのを感じた。


やっぱり疲れてたのかな。


もう少し休むという事もした方がいいのかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る