紙作り
オアシスの街の南にある密林の開拓が進んでいる。
開拓と言っても森を切り開いて村を作ると言うものではなく、森の整備をしている。
最低限通りやすい道を作り、雑草を移し、余計な枝を切って間伐したりして日当たりや風通しを良くしている。
このような森の整備をしたことで密林にある変化が起きた。
それまで人を襲っていた植物の獰猛さが大分落ち着いてきている。
植物からすれば自ら動かなくとも快適な環境になったので動く必要が無くなったのだろう。
動く必要がなくなった分のエネルギーは成長に回せるようになったので実を付ける木も増えてきている。
うん、好循環が生まれているな。いい事だ。
とはいえ密林は密林。あくまで植物達が一番なのは変わりない。
植物達に悪影響を及ぼすような事をすれば容赦なく襲い掛かってくる。
しっかり自己主張する辺りもはや植物というより動物に近い感じだな。
意思表示がある分、考えようによっては何を嫌がり何を喜ぶかがわかりやすい。
たぶんそうやって上手く整備を進めて行ってるんだろう。
このまま整備が進めば更に南にある湖上の街も視野範囲に再び入るかもしれない。
中央都市並に魔科学文化のある街だったし、出来れば色々調べて観察したいところではある。
ただ、いざオアシスの人達と湖上の街の人達が出会うことになった時、必ずしも友好的な関係になるとは限らない。
特に湖上の街は外部の血を入れられない状況だから刺激してしまう可能性がある。
出来れば争いごとになるのは避けて欲しいなぁ。
俺がどうこうできるわけじゃないので見守るぐらいしかできないけど。
とりあえず湖上の街が視野範囲に入るようになったら連絡が入るようにしておくかな。
今日は風呂場で作業をしている。
この前カルファから羽綿草の実を貰ったのでそれを使ってあるものを作れないか実験中。
実から綿を出してそれをお湯を張ったタライに入れて細かくなるように解す。
寝具の素材として使われているだけあってなかなか繊維状になってくれない。
気が遠くなりそうな作業だが頑張ってやろう。
ちなみにサチも風呂場には来ているが、足湯をしながらパネルを出して別の作業をしている。
隣には桶湯してる地の精がいて、時折何か話しているようだ。
うちの島に住み着いた地の精にお風呂を勧めたところ直ぐに気に入ってくれた。
だが地の精の大きさでは普通の湯船は大きいし、土で汚れてしまうので考えたのが桶にお湯を入れた桶湯。
深さも丁度良く、顎を縁に乗せて目を閉じてる姿はとても愛らしい。
普段は俺達が入った後に入っているようで、俺が風呂から上がる時に熱い湯を桶に入れておくと次の日には使った桶がちゃんと桶置き場にひっくり返されて戻されている。
ちゃんと片付けも出来る出来た子だ。
今日はサチが地の精について色々と聞きたいらしく、お湯に浸かりながら緩い返事を返しているのが聞こえる。
しかし全然解れないなコレ。
それだけ優秀な素材だというのはわかるけど、これはこれで俺の目的が達成出来ないので困る。
かといって枯れ朽ちた茎の粉を入れてしまうと溶けてしまうし、うーむ・・・。
「キュン?」
「ん?」
気が付いたら地の精が俺が作業いているタライに来ていた。
サチはどうした?
あぁ、作業中で暇だから湯冷ましがてら一度出てこっち来たのね。
毛が濡れてるからいつもの姿よりほっそりしてるな。モグラからハリネズミになった感じ。
何をしているかって?これの繊維を解してるところ。そうそう、こんな風に紐状に分解したいのさ。
「キューン?」
変わったことしてる?うーん、そう言われるとそうなんだけどねー。
地の精はしばらく俺の作業を見ると一度サチのところに戻り、何かを持ってきた。
「キュ」
「あ、ちょっと?」
持ってきたものは食べかけの完全食。
俺が止める間も無くそれを細かくしてタライの中に入れた。
ん?混ぜろって?わかった、やってみよう。
「・・・おぉ!」
手でかき混ぜるとそれまで塊だった羽綿草の繊維がどんどん解れていき、お湯が真っ白になる。
「すごい、あっという間に解れた。ありがとう」
「キュフーン」
地の精に礼を言うと満足そうに桶湯に戻って行った。
さすが精霊だ。サチがあれこれ聞きたくなるのもわかる。
さてと、これで次の作業に移れそうだ。
自作の木枠に粗めの布を張った物に先ほどの真っ白になったタライのお湯を少量流し込む。
タライのお湯には羽綿草の他に蒸した米や料理で使った実の皮をすり潰して作った粘り気のある液体を少し混ぜてある。
あとはこの木枠を揺らしながら繊維が均等な平面になるようにする。
ぐ・・・結構難しい。
大きな木枠だと失敗するのは目に見えてたから小さめのを作ってみたが、それでもなかなか均等になってくれない。
とりあえず最初のは出来た。かなり出来は悪いがしょうがない。
出来上がった白い海苔みたいなものを木板の上に置いて次の分に移る。
繰り返していくうちにちょっとずつ良くなっていくと思って頑張ろう。
「進捗はどうですか?」
「ん?終わったのか?」
「えぇ。色々と有意義な情報を頂けました。ありがとうございました」
「キュ」
体を拭いてもらった地の精はどういたしましてと言って報酬の完全食を持って風呂場から出て行った。
「それじゃそれを海苔と同じ要領で乾かしてくれるか?」
「わかりました」
ホント念があるとあれこれ要らずだと感じる。
いや、サチが優秀な部分もあるな。感謝感謝。
「乾かしました」
「お、早いな。どれどれ?」
乾かしてもらったものを手に取ると少しざらりとしているが、ちゃんと紙の感触をしている。
俺が作っていたのは和紙だ。
前の世界のうろ覚えの知識と下界の製法を参考に試してみたが上手く出来たようだ。
羽綿草というよさげな素材に目を付けたは良かったものの、俺だけじゃ繊維状に出来なかったから地の精には感謝だ。
よし、サチの手も空いたし分担してどんどん作っていくぞ。
頑張って作った結果、そこそこな量の和紙が出来た。
量は出来たが出来はあまり良くない。
表面を撫でるとボコボコしているので何かを書いたりするには不向きだな。
とはいえ元々羽綿草で紙が作れるかの実験だったし、何も和紙は書くだけの紙じゃないので十分満足できる結果だと思ってる。
「とりあえず今日の作業はここまでかな。ありがとうな、サチ」
「いえいえ。ではこれらは私が預かっておきますので必要になったら言ってください」
「うん、頼む」
渡して空間収納に仕舞って貰う。
何度見ても便利だと思う空間収納。
容量の制限は無く、大きさや重さも持てる範囲なら入れられる。
欲しいとは思うが俺の場合マナじゃなくて神力を消費し続けてしまうからなぁ。
せめて容量有限でもいいから鞄やリュックのような入れ物が欲しい。
「ダメです」
「えー」
「神様がそんな物持ち歩いていたらただでさえ分かり辛い威厳が更に落ちます」
「じゃあデザインとか凝って道具入れもオシャレの一つにしたらどうよ」
「む・・・」
「それならいいんじゃないか?」
「確かに一考の余地はありそうですね。今度考案会を開いてみましょう」
「うんうん」
よし、なんとか道具入れを持つ事を許可してもらえそうだ。
でも神が持っても違和感のなさそうな道具入れってどういうのなんだろうか。
うーん、想像できん。
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