臨時の魂案内
草原の街とオアシスの街の間の砂漠に人が集まっている。
何をするのかと思っていたら盛大に爆発が起き、大きな砂柱が立った。
「盛大にやってるな」
「そうですね」
砂柱が立つ度に集まっている人達が歓声をあげている。
どうやら規模の大きい魔法や錬金術などの実験を行っているらしいのだが、見世物としても一役買っており、多くの人が見物に来てお祭りのようになっている。
「しかしこれだけ大きな事をしていると元々棲んでいる生き物に迷惑にならないのかね」
「調べたところ、この辺りはスライムしか生息しておらず、事前に冒険者達を使って避難してもらっているようです」
「そうなのか」
物分りのいいスライムもいたもんだ。
まぁそういうことなら問題ないのかな。あってもどうする事もできないけど。
実験という名のイベントは日が傾くまで行われ、終わると人々は南北に帰っていった。
「片付けていけよ・・・」
開催場所地には巨大なクレーターが幾つも残ったままだ。
これじゃ避難してたスライムが戻ってきた時可哀想だろうに。
そう思いながら様子を見ていたら戻ってきたスライムが案の定クレーターに転がり落ちていった。
あーあー次々落ちていってる。
・・・ん?違うな。意図的に穴に飛び込んでる気がする。
ある程度の個体数が穴に落ちると中のスライムが凄い速さで回転を始めた。
回転すると砂が穴へ流れ込んでいき、スライムはそれを取り込んでどんどん大きくなっていく。
だんだんクレーターが浅くなり、埋まる頃にはスライムは数倍に大きくなっていた。
「あ、これもしかして」
以前似たような様子を見たのを思い出した瞬間、大きくなったスライムは爆発するように弾け飛び、増殖した。
「どうやらサンドスライムにとってあの穴は効率よく砂を集めるのに適しているようですね」
「なるほどね」
この地に棲むスライム、サンドスライムにとって砂は餌で、クレーターは増えるのに丁度いいものなのだろう。
だから冒険者達に従って避難したのか。なるほどなー。
画面では次のクレーターにスライムが再び飛び込んでは大きくなり、爆発して増えている様子が映っている。
ふふ、まるで二次会をやってるみたいだな、これ。
今日はちょっと慌しい事になっている。
「キ!キ!キー・・・」
いつも迎えに来る案内鳥が後ろに同じような見た目の案内鳥を連れて俺に謝っている。
「うん、大体の事情はわかったからそんな気に病まないでいいぞ」
「キ」
「たぶんうちが受け入れる魂は無いだろうから、すまないが迷い魂の案内を頼む」
「キ!」
「ソウ、急いでください」
「わかってる」
さて、今日は忙しくなりそうだ。
「待たせたね」
「いえ」
席に座りながら対面に座る人を見る。最初は女性か。
サチに目配せすると座っている人の情報をこちらに見せてながら説明をしてくれる。
「ではここは死後の世界なのですか?」
「そんなとこだ」
「神様って本当にいたのですね」
「まぁね」
「思ったより普通の人っぽい」
「ははは」
そりゃ元人間だからね。
「あの、私はどうなるのでしょうか」
「うん、それについては本人の希望を聞こうかと思ってる。どうしたい?」
「どうって言われても・・・」
情報を見ると生まれつきの病を持っていてそれが死因になっているようだ。
それでも自らの境遇などに怨みは持たず、懸命に生を全うしたのか。
「そのまま死を受け入れてもいいが、希望があれば転生もできるぞ」
「あ、でしたらなりたいものがあります」
「うん、聞こう」
「私、樹になりたいです」
「樹?」
「はい。病室から見えた樹が好きだったので」
「そうか」
彼女の答えを聞くとサチが手早く手続きをしてくれる。
お、木の神のところで受け入れてくれそうなのか。ありがたい。
「うん。今希望の転生先が見つかった」
「本当ですか!?」
「いいのか?樹として生きるのは大変だぞ」
「それでもいいです」
「わかった。では転生後も達者でな」
「はい。ありがとうございます」
そう言って女性は案内鳥と共に転移して行った。
ま、何に転生しても生きるのは大変なんだけどな。
一応木の神には便宜を図るよう頼んでおいたので、きっといいように扱ってくれるだろう。
今度会合の時に礼と経過を教えてもらおうかな。
・・・さて、次の魂を迎えなければ。
「案外神って普通なんっすね」
「ははは、よく言われる」
今のところ会う魂全員にそういわれるんだけどそんなに俺は普通かな。少し傷つくよ?
「このあとどうしたいか希望はあるか?」
「それじゃこのまま死なせてもらえないっすかね」
ふむ。ここにきて初めて消滅を望む人が現れたか。
「出来なくはないが、もう少し良く考えた方がいいと思うぞ」
経緯を見るとそう思っても仕方ないかもしれないが、昔俺がそう思ってた状態から変わったので同じように心変わりしないか色々な案を提示してみる。
「んー・・・それでもやっぱこのまま死なせてください」
「・・・そうか。惜しいがそう希望するなら仕方ない。・・・本当にいいんだな?」
「はい。ふふ、神様はいい人っすね。ありがとうございます」
そう言って頑固な彼は消えていった。
「はぁー・・・」
「大丈夫ですか?」
「うん」
本人の希望とはいえ辛くないかといえばそんなことは無い。
まぁこれも神の仕事の一つだ。割り切って考えなければならないが、出来るだけこういう気持ちにならないようにしたいな。
よし、あと少しだ、頑張ろう。
「あー・・・ぢがれだー・・・」
「お疲れ様でした」
迷い魂の希望を全て消化し、椅子に座ってぐでっとする。
「最後の奴は厄介だったな・・・」
「そうですね」
最後の奴は本当に厄介だった。
所謂異世界転生希望者というやつで、異世界で一山当てたいと思ってる人だった。
うちの下界でもそうだったが、功績を残せた人はそう多くなく、実際は上手くいくことの方が少ないというのを説明するのに時間を要してしまった。
しかもそれで意気消沈して考え直すならまだマシだったかもしれないのだが、癇癪を起こしてしまったので仕方なく再び次元を漂って他の神のところへ行って貰うことになった。
うーん、まだまだ神としての力量が足りないのを感じさせられたなぁ。
もう少し上手く導けるようになりたいものだ。
「ふー・・・」
「大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、うん、大丈夫。神としてまだまだだなと思ってただけだから」
「あまり気負わないようにしてくださいね。今回は特別イレギュラーでしたから」
「うん」
イレギュラー。
そもそも今回こんな事になったのは近くの次元の世界の転生システムに不具合が起きたのが原因だった。
それによって次元を漂う魂の量が増えてしまい、狭いながらも間口が開いていたうちにもその魂が流れ込んできてしまったのだ。
その事を案内鳥がいち早く伝えに来てくれたので、そこまで多く魂を応対する事もなく済んだのはよかった。
とはいえ慣れないことをやるのは疲れる。特に精神的に。
今度会合に行ったときには色々な神にこういう応対のアドバイスを貰おう。そうしよう。
さてと、サチの片付けも終わったようだし、家帰ってゆっくりしょう。
今日は甘いものがいいな。作り置きしてたものが結構残ってるはずだし、サチも労わないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます