観光島企画

中央都市を訪れていた商人が商談を終えて北の領に帰るようだ。


今のところ中央都市での信者は出来ていないので、しばらくすると視野範囲が消失する。


とはいえ北の領の様子を見ると活気付いてきているし、産業も復興してきたので定期的に中央都市とは物資のやり取りがありそうな気がする。


ひとまず様子見でいいかな。


「じゃあまとめた情報を頼む」


「はい」


サチに視野範囲内の中央都市についてのまとめた情報を見せてもらう。


俺も観察しながらある程度は把握していたが、細かい種族などはサチ任せにしていた。


気になっていた情報に目を通す。


「魔神信仰ではないのか」


「はい」


「あてが外れたな」


「そうですね」


現在の魔族、新生魔族はてっきり魔神のような不確定な存在を信仰しているのだと思っていた。


しかし実際のところは中央に位置する王城の王、つまり魔王を信仰の対象としていた。


要はオアシスの街と同じように具体的な人物を対象とした信仰だということだ。


うん、これならうちの信者になる可能性があるな。よしよし。


「新生魔族の活動経緯はわかったか?」


「ある程度は。説明します」


「よろしく」


一強国の欲望者が長命のために人間種から悪魔種になり、その際に何かの方法を用いたようだ。


その方法の代価なのか副作用なのかはわからないが、前の神への信仰を捨てた。


それまで神の言う事に従っていただけだった人が自由を得て好き勝手始めて混迷の時を迎える。


同時にそれまで立場が下だった亜人種達が力を強め更に混乱が加速。


そして元人間種だった者と亜人種が手を組み、今の新生魔族勢力の基盤を築き上げていったようだ。


ある程度新生魔族の勢力が広がりを見せたところで今度は異世界勇者が現れる。


この異世界勇者はそれまでの勇者と違い、基本的に神の意思というものに左右されず、割と自由に下界で活動をした。


中にはちゃんと魔王討伐を目指す者もいたが、そうそう上手くいくものでもない。


貴族の屋敷で漫画を描いていた元勇者なんかはきっと挫折したところで新生魔族の甘言に乗り、今の生活に落ち着いたのだろう。


とはいえ異世界人の価値観の違いの影響は大きく、新生魔族勢力の一部で反発が起き、結果今の勢力圏になった。


「ふむ、意外と普通な国の成り立ちだな」


「そうですね。もっと力に頼った恐慌政策しているのかと思っていました」


「あのジジイが勝手にそう思い込んでいた可能性が高いな」


「そうかもしれませんね」


とりあえず今の魔族の勢力が出来上がった経緯はなんとなくわかった。


しかしまだまだここには気になることが多い。


技術的な部分や政策、人の動きなど。


ただ、この辺りは全体を見渡せないと判断が難しい気がする。


よし、とりあえず止めていた時間を戻して観察の続きをするかな。




今日は雨なので家で工作している。


以前と違うのは作業する場所がコタツになったことかな。


サチは対面に座ってパネルを開いて何かやっているようだ。


さっきまで料理をしていたのだが、食材の中に外側が硬く中が空洞になっている枝を見つけた。


枝についている実はそのまま料理に使ったが、この枝で何か出来ないかと思って今色々やってみている。


最初吹き矢や水鉄砲でも作ろうかと思ったが、サチに怒られそうな気がしたのでやめた。


次にストローにでもしようかと思ったけど、枝だから口当たりが悪い。あとサチにみっともないと怒られた。


その後も色々やってみたがいまいちパッとしたものが思い浮かばない、うーん。


「落ちましたよ」


「え?あ、本当だ」


サチに指摘されてコタツのテーブルから転げ落ちた奴を拾う。空洞の中に棒を通した後放置してた奴だ。


あ、そうか、これ中の棒だけ動くのか。よし、思いついた。


「・・・こんなもんか」


「それは荷車ですか?」


「うん、そんなとこ」


「それにしては変わった車輪をしていますね」


「うん、これはだな・・・」


別で用意した大きさの違う棒の輪を同じ幅になるように置き、それに車輪を合わせて押す。


すると棒の輪に沿って荷車が曲がって走る。


俺が作ったのは簡単な無蓋貨車だ。


「面白いですね」


サチが自分の前に来た貨車を止めて構造を興味深そうに見ている。


「実用性は無いけどな」


こっちの世界じゃ空間収納だの転移の念だのあるから利用価値は皆無だろう。


下界は下界で魔法があったり、敵対生物がいて安全の確保が難しいから今のところ目にしたことはない。


「これはソウの居た世界の技術ですか?」


「ん?まぁそんなとこかな」


「・・・詳しく教えてください!」


おおう、サチの知識欲が爆発した。




「ではこれに乗って移動したり物を運んだりするのですか」


「うん。他にも乗り物はあるけど、線路っていうこれの上を走ることで安全性や輸送力を高めているらしい」


「へー」


サチの目が爛々と輝きながら俺の話を聞く。


そして話が終わった後真剣な表情で何かを考えている。


「ソウ、ちょっと相談が」


「なんだ?」


「この技術を使ってみたいのですが意見を頂きたいのです」


「ん?どういうこと?」


「実はですね」


サチの相談というのは先日召還した島についてだった。


なんでもその前に召還した四季島が思ったより人気なようで、似たような観光目的の島を作りたいらしい。


しかも今度は人工的に、つまり造島師達の手によって作り上げたいとのことだ。


「先日のって俺が竹林を指定したやつ?」


「そうです。結構大きな島なのでソウの技術を取り入れたいなと」


「移動なら飛べばいいんじゃないのか?」


「得意不得意な者がいますので。この手段なら誰でも輸送できます」


「あーそれもそうか。別に川作って船を流すとかでもいい気もするが。この前の水泳の時みたいに水流作ってさ」


「こっちでお願いしたいです」


「・・・さてはサチ、お前実はこれに乗ってみたいんだろ」


「な、なんのことですか?」


「とぼけるなって。わかったよ、じゃあとりあえず島の今の全体図見せてくれ」


「はい、ありがとうございます!」


嬉しそうにしちゃって。可愛い奴。




「こんな感じでどうだ?」


「いいですね」


サチと隣り合って相談しながら島に走らせる線路や駅を決めていく。


と言ってもぐるりと島を一周する簡単な路線だけども。


見所は山を突っ切るところかな。トンネルも念の力があれば楽に作れるようだし。


「あとは車両か」


「そうですね」


「お座敷列車なんてどうだ?」


「なんですか?それは」


サチにお座敷列車について簡単に説明する。


観光の島にするならいっそそういった車両の方がいいんじゃないだろうか。


「どうかな?」


「そうですね・・・。ちなみに他にも種類があるのですか?」


「うん」


「出来れば全部教えて欲しいです!」


お、おう、顔が近い。


全部と言われても俺もそこまで詳しくないので知ってる限りのものを説明した。


「ふむふむ、結構色々種類がありますね」


「用途やニーズに応じて変化してった感じだな。・・・全部作ろうとか思うなよ?」


「ダメですか?」


悲しそうな顔をするな。ずるい奴。


「実用性のないものは縮小したこういう模型にしてもらえ」


「むぅ。仕方ありませんね」


「しかしなんというか大きな島を人工的に観光地化とか一大プロジェクトみたいだな」


「言われてみればそうですね。あ、いいこと思いつきました」


「なんだ?」


「先日情報館で行った時のように色々な職の方々を呼んでみてはどうでしょうか」


「いいね。今までそういうことはやらなかったのか?」


「えぇ。基本的に一つの島は一組の造島師達に任せていましたから。技師達は造島師から依頼を受けて物を作るだけなので直接島に来て作業するということはしませんし」


「そうなのか。・・・面白そうだな」


「そうですね、面白そうです」


その後も飯の時間や風呂の時間もこの島をどうするか、どうしたいかを話し合った。


長くなったのはサチが俺が出す異世界の話に毎度食いついたからなんだけども。


実際どんな島になるか楽しみだな。

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