芋料理とケチャップ
人は誰しも全く同じということは無い。
見た目や声、性格や生まれ、双子ですら微妙に差が出てくるものだ。
下界は更に種族や生まれながらの能力など加えられ個性の幅が広がっている。
他人と違うという事は良くも悪くもその人に影響を及ぼす。
その個性を悪い方に考えてしまうと負の感情が生まれ、堕落や不信を招く。
逆に良い方向へ考えることができればそれは武器となりその人のために大いに役立ってくれる。
下界のギルドはその辺りを良く分かっているらしく、その人の個性を武器にしてくれるような依頼を出している。
他にも神官や警備隊など真っ当な仕事をしている人はそういう意識を持っているのか、悪事を働く人に対して救いをする事が多く見られる。
ま、一度ひねくれるとなかなか戻らないんだが、彼らはなかなかに熱心でしぶといようだ。
さて、ここで少し厄介な例がある。
稀にだが自分の個性を上手く使え過ぎてしまう人がいる。
所謂天才肌という者で苦労せずに物事をこなしてしまえる人が存在する。
そしてこの天才肌には二通りいて、常識を弁えている人とそうでない人。
前者であれば何も問題なく順当に出世なり活躍なりしていく。
問題は後者だ。
個性の幅が広い分、行う奇行の幅も広がってしまっており、野放しにしていると甚大な被害を及ぼす可能性があるため、そのような迷惑な天才が現れるとギルドなどは早急に手
を打つようにしているようだ。
この迷惑な天才への対応には段階がある。
最初は対話などによる矯正。悪事を働く人へ行う事と同じような方法。
ただし、矯正成功率は悪人矯正よりはるかに低い。基本的に人の話を聞かない人が多いからだ。
次に行うのは挫折させる方法。
人は大きな失敗を体験するとそこから多くを学び、常識的になっていく事があるのでそれを利用する方法だ。
この段階で大体の人は上手く軌道修正される。
それでもどうしようもない場合、最終手段として物理行使でどうにかするという方法になる。
少し可哀想にも思うが、この段階になるまでに大抵多少なりとも被害が出てしまっているので仕方なくという感じだな。
身柄を確保された後はそれまでに行っていた事に対しての相応の罰が与えられる。
とはいえ、必ずしも悪意があってやっているわけではないので、多少は情量酌量の余地はあるようだ。
このように下界でははみ出した者へ自然と矯正の力が働く自浄作用のようなものがある。
おかげで俺が手を下す事も無いのでありがたい。
「・・・」
「どうしました?」
「ん?」
「なにやら難しい顔をしていましたが」
「そうだったか?」
「はい」
「そうか。ちょっとした考え事だ。気にするな」
「わかりました」
サチのいう難しい顔になっていたのは恐らく前の世界の事を思い出していたからだ。
前の世界でも決して自浄作用が無かったわけではないのだが、それ以上に刺激を求めてしまう動きが強かった。
人は刺激が無いと脳が急速に衰えるという話を何かで見た気がする。
しかしその刺激を得るために意図的に他人を持ち上げて玩具にしたり、陥れたりする人が多すぎた。
自浄作用が追いつかない程に。
今の下界を見る限りではそういう人に対して厳しい処置がされているのは良い傾向だと思う。
迷惑な天才に対してもそうだが、愉快犯に対しての刑罰がかなり厳しい。
魔法という便利なものがあるおかげで嘘も見破れるので、混乱を招く要因を持つ人を的確に潰せるのが強みだな。
嘘を見破る魔法か・・・。よくよく考えるととんでもない魔法があるな。
使い手は少ないようだが他にも変わった魔法があるのだろうか。
「サチ、下界の魔法一覧みたいなものってある?」
「作れない事はないですが、調査対象が視野範囲内の人に限られます。それと量が膨大になります」
「やっぱりそうか」
「作りますか?」
「じゃあ余裕がある時に頼む。効果が似ているものは一つにして、ざっくりと分類別にしといてくれると助かる」
「わかりました」
魔法の中には念を使う時に役立つものがあるかもしれないな。
ちょっと楽しみだ。
今日は家でゆっくりする日になった。
サチがちょっと俺が疲れてると言うので帰宅した。
別に俺としては疲れている気はしないんだが、サチが言うんだからそうなのかもしれない。
さて、こういう日は料理をする事が多い。
色々研究もしたいし、何より楽しい。もはや趣味だなこれは。
皮を剥いて種を取ったトマトを鍋に入れて潰して煮込む。
調味料を足して更に煮込む。
「私この調理苦手かもしれません」
「ははは、根気が要るからな」
俺が他の調理をしている間サチに鍋を混ぜてて貰っているが、単調な作業なので飽きて来ているようだ。もう少し頑張ってくれ。
サチに鍋を任せている間にジャガイモの皮を剥いて切る。
水にさらして水気を拭き取ったらそのまま揚げる。
他にも蒸かした芋を潰してコロッケを作って揚げる。ソースが欲しいが無いのが若干辛い。
「今日は芋料理ですか」
「うん。なんとなく食いたくなったから」
出来上がったものは即空間収納に入れてもらう。
芋料理は出来たてが美味いからな。
ポテトサラダも作ったがマヨネーズが無いので塩と胡椒で代用。少し物足りない。
潰した芋に小麦粉を少し入れて団子状にして焼く。
団子にする時にトウモロコシを混ぜておいた。味付けは胡椒を少しだけ。
サツマイモはどうすっかな。天ぷらにでもするか。
「今日は油を使う料理が多いですね」
「そうだなぁ。芋と油は相性いいから」
「先ほどからするいい音が私のおなかを刺激します」
「ははは。もう少し耐えてくれ。そっちの鍋ももう少し頼む」
「大分水気が無くなってドロドロになってきましたけど、まだですか?」
「どれ・・・もうちょっとかな」
「わかりました。出来れば早くお願いします」
「あいよー」
今日の夕食は芋尽くしになった。
とはいっても以前に作ったものもあるので全部が芋というわけではない。
そしてサチに長々と鍋をかき混ぜてもらってたもの。
ケチャップ。
既に味見もしており、出来は上々だ。
「では頂こう」
「いただきます」
目移りしているサチに今日作った料理の紹介と食べ方を教える。
「ちょっと味気ないと思ったらこのケチャップを付けて食ってみ」
「わかりました」
フライドポテトを二、三本食べて早速サチはケチャップに手を出した。
そこからのサチは面白かった。
ポテトを摘む、ケチャップを付ける、口にするの作業を繰り返す人形のように黙々と食べていた。
「・・・美味いか?」
「はっ!?夢中になっていました」
「大量に作っておいて正解だったな」
「そうですね。この組み合わせはやみつきになりますね」
その後もケチャップは大いに役に立ち、すっかりサチはその魅力に取り憑かれた。
特に辛味ソースと混ぜた辛味ケチャップがお気に入りのようで、普段以上に食べていた。
「・・・あー・・・ご馳走様でした・・・」
「お粗末様。しばらく動けないだろう」
「はい。ケチャップ、恐るべしですね」
「ははは。他にも食卓で使う調味料はあるぞ」
「ソウが以前から欲しいと言っているショウユというものですか?」
「うん。それ以外にもソース、マヨネーズなんてものもある」
「ソース?この辛味ソースの事ではないのですか?」
「うん、それとは別。あーそうか、ソースつっても色々あるんだっけ。ケチャップも正しくはトマトケチャップだったな」
「ソウの指すソースというものはどういうものなのですか?」
「ウスターソースっていうやつなんだけど」
「ウスターソース・・・あぁ、これですか」
サチがパネルを操作して他の神から貰った情報を見ている。
「頑張れば作れなくは無いとは思うんだが、発酵が必要だからな。マヨネーズも酢が要るし」
「食と発酵は強い繋がりがあるのですね」
「こっちに来てそれを痛感してるよ。醤油より酢の方が難易度は低そうだし、今度風の精に頼んで作ってみようか」
「そうしましょう」
「もし失敗したら酸味の強い果物を代用して作ろう。少し果物の影響は出るかもしれないが」
「楽しみです」
酢作りか。ふふ、実際口にしたらどんな反応するかな。
おっと、サチみたいに悪い笑みが顔に出ないようにしないとな。
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