水浸しの島

オアシスの街で盛大な式典が催されている。


木剣の勇者の末裔とヒーラーの娘がやっと結婚するらしい。


それに便乗して一緒に結婚をする人達が現れ、一斉結婚式を挙げる事になったようだ。


中央の通りには屋根付きの歩道が作られ、挙式を挙げる人達が並んで特設式場である創設の勇者の像の前まで練り歩いている。


しかしさすがコスプ族というべきかな、着ている服装の気合の入れ具合が尋常じゃない。


一生のうちの指折りのイベントだから気合が入るのもわからなくもないが。


末裔とヒーラーは先頭で他と比べると比較的スタンダードな婚礼衣装を着ている。


末裔は一般的な礼装、ヒーラーの方はナース服をドレスアレンジしたものだな。センスを感じる。


その後に続く人達はドレス風な服装が多く、見に来た人達に手を振ってたりしながらゆっくり進んでいる。


歩道の周りには出店が沢山出ているが、その中に幾つも土産屋があって木剣のキーホルダーが飛ぶように売れてる。


これはまた信者が増えるかなぁ。ありがたい事だが、別に俺は恋愛専門の神とかじゃないんだけど。


勇者の像の前まで移動した一行は像の前で各々祈りや誓いを立て、街が用意した婚姻の印を貰い一斉結婚式は終る。


その後は街全体がお祭り騒ぎ。みんな楽しそうだ。


俺はそんな様子をのんびりと眺める。


自分が幸せな時に何か願う人は少ない。俺の存在も今は頭の中から消えてるだろう。


時間も進み夜になると賑やかさも少し方向性が変わってくる。


こうなるとどうせサチに望遠にさせられるので自分でやる。その方が戻すのが楽だし。


そのサチはというと衣類収集に大忙しのようだ。


今日はドレス類が一杯出たからな。


夜の中、煌々と光が漏れているオアシスの街を遠目から眺めながら一斉結婚式の様子を思い返す。


思っいたより一夫一妻で結婚している人が多かった。


謝礼金が払えないからというのもあるかもしれないが、やはり女性の幸せを第一に考える街だとこうなるのかな。


月光族を見れば多夫多妻が一般的だし、草原の街の外れの屋敷じゃ一夫多妻なところもある。


どれが正解という考えは無い。それぞれ定着して均衡を保てるのであればそういう文化だと考えるようにしてる。


俺個人としてはどうなんだろうな。


・・・。


「どうしました?」


「いや。衣類集めは捗ってるか?」


「えぇ、オアシスの街は奇抜な服が多くて素晴らしいです」


「そうか。後で何か着て見せてくれよ」


「わかりました。期待していてください」


・・・うん、俺はサチが居れば十分かな。


最近俺の好みもわかってきたみたいだし、是非とも期待させてもらおう。




さて、今日の仕事も終わったし、家に帰って早速サチに何か着てもらおう。


「・・・うーん・・・」


「どうした?」


「ソウに召喚してもらった浮遊島に何やら問題が起きているようです」


「そうなのか?」


「はい。すみませんが少し視察に行きたいのでついて来てもらえますか?」


「うん、行こう行こう」


何か俺やらかしたかなぁ。




「なんだこりゃ・・・」


召喚した浮遊島が見える場所まで移動すると島が大きく変貌を遂げていた。


島の九割が水浸しになっており、溢れた水があちこちから下に落ちていってる。


「ソウ様、サチナリア様、ご足労感謝します」


声を掛けてきたのは警備隊のルシエナだ。


それともう一人居た。


「はじめましてソウ様。私警備隊隊長をしていますフラネンティーヌと申します」


「はじめまして」


差し出された手を握り、挨拶を交わす。


警備隊隊長って事は警備隊の一番上か。


警備隊の上二人がわざわざ来てると言う事は結構な問題なのか。


「状況を説明してもらえますか?」


「はっ」


サチの言葉に姿勢を正しす二人。


ふむ、主神補佐官は警備隊より更に上か。


さっきまで目をキラキラさせながら服を集めてたとは思えないな。


「新たに出来た浮遊島ということで巡回の際に注視していたところ、本日下の者が今の状況を発見。報告により私達が駆けつけた次第です」


「島には渡ってみたのですか?」


「いえ、それが」


言いかけたところで水浸しの浮遊島の中央から上へ水柱が立ち上がった。


霧状になった水飛沫がこっちまで飛んできた。


「このように不定期に水柱が立ち、迂闊に近づけない状況です」


「なるほど」


天使は基本羽を出して飛ぶ。


その羽が濡れてしまうと飛ぶのが困難になる。


別の前に俺がやったみたいに飛べばいいのではないかと思ってサチに聞いたが、精神が大幅に乱れた状態で飛んだり念を使うと暴発を招いて危険らしい。


特にサチの場合は雨にトラウマを持っていたみたいだしな。


最近はそこまで怯えなくなったけど。


「さて、どうしましょうか」


三人は浮遊島に渡る方法を相談している。


俺は相談の声を聞きながら水浸しになった島をぼんやりと観察する。


中央から出る水柱は真上だけとは限らず上方向に四方八方不定期に放水されてるようだ。


放水された水は霧状になって漂って下に落ちていく。


日の光が反射してキラキラして綺麗だ。


「ちょっと、ソウも渡る方法を考えてください」


「え?俺も考えるの?」


どうもパッとした案が出ないようだ。


「何か良い方法はないでしょうか」


「どうにか羽が濡れないように出来ればいいのですが」


「羽を出さなければいいんじゃないか?」


「・・・どういう事ですか?」


良く分からないという顔をする三人に俺の案を説明した。




水浸しの島にかろうじて残る地面に到着する俺達四人。


「来れましたね」


「さすがソウ様です」


俺が説明した方法は念で橋を作るという案。


豊富に水があるのだから、それを冷やせば出来ると思って三人に説明するとあっという間に氷の橋を作ってくれた。


水浸しの島は中央の小高い山のあちこちから水が染み出しており、時折割れ目から水が噴出して水柱になっている。


「原因はあの山のようですね」


フラネンティーヌが渡って来た橋を作る要領で水面に氷を張る念を使う。


中央に向かって氷は伸びて行き、ある程度の距離を行ったところで溶けてしまった。


「なっ・・・」


ふむ、中央のあたりは水温が高いのか。


そうなるとさっきみたいに氷の橋を作って近付く方法は無理そうだ。


「しょうがない、泳いで行くか」


「え、ちょ、ソウ様!?」


上を脱いで水に足を浸けたところで止められた。


「ん?どうした?」


「ソウ様は泳げるのですか!?」


「うん」


「なんと!」


そんな驚く事か?


サチも泳ぐの苦手みたいだし天使はあんまり泳げないのかね。


「とりあえず見てくる」


水に入って泳いで中央へ向かう。


うん、やっぱり水温が高めだな。ぬくい。


中央の山まで近付くとあることに気付いた。


山になってるのは水面より上だけで、水面より下は既に山肌を形成している土や石が流されてなくなっている。


ちょっと潜って中を見てみるか。


大きく息を吸い込んで潜ると山の中心部分に青い大きな石があるのが見える。


近付いてよく見る。


・・・これ精霊石か?


まさかまるごと山の中が一つの精霊石になってるのか?


とりあえず戻ってサチ達に話そう。

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