転移の念と新たな仕事

サチが仕事の片付けをしている間にちょっと意識を集中してみる。


いつものように確認するだけの作業だが念を使う下準備だ。


今日はちょっとある事が出来るかどうかの確認をしている。


・・・確認結果、微妙。


微妙って珍しいな。難しいってことか。


「ふーむ」


「どうしました?」


片付けながらサチがこっちを向かずに聞いてくる。


「いや、いつもサチに転移してもらってるだろ。あれって俺も出来るのかなーって思って確認したら出来るのか出来ないのか良く分からない感じでさ」


「転移ですか。かなり難しいですよ」


「そうなのか?」


「はい。私も今の精度まで上げるのに結構頑張りましたから」


「なるほど。サチは努力家だな」


「そ、そんなことはないですよ。主神補佐官として当然の事をしただけです」


照れてる照れてる。


「それで、何が聞きたいのですか?」


機嫌がよくなったのか片付けた後に俺が座ってる膝の上に座ってきた。


「転移の念についてかな。ちょっと特殊っぽいし」


サチの胸の下辺りに腕を回して引き寄せながら聞く。


「そうですね、他の念と比べると少し特殊かもしれないですね」


んー・・・と少し考える様子で俺に背中を預けてくる。ちょっと俺より体温が高くて温かい。


「転移に必要な事は転移物の把握、転移先の座標、後は他と同じように集中力やマナですかね」


「ふんふん」


「特に重要なのが転移物の把握ですね。以前初めてソウと転移した時大幅に座標がずれた時がありましたよね」


「あーあったね、そんな事も」


あの時は突然の状況に振り回されてたな。懐かしい。


「転移物の把握が不完全ですと転移先の座標に狂いが生じてあのようにずれた場所に転移してしまいます」


「じゃあ下手すると空中とか土の中とかになったりするのか?」


「そこは大丈夫です。どういうわけか転移先は必ず地面の上になりますので」


そうなのか。これも上位天使の空間の謎の一つかな。


「それに転移の念は頻繁に座標のずれが発生します」


「そうなの?」


「はい。ですので転移場所は基本的に開けた場所になっています」


あー、言われて見れば転移した先はそれなりの空間が確保されてる場所ばかりだな。


「また、転移場所以外から転移すると精度が落ちやすいので近場の転移場所へ戻ってから転移するよう推奨されています」


なるほど。便利な念だと思ってたが結構制約が多いんだな。


「ふーむ、難しそうだなぁ」


俺にはまだ扱い切れそうにない。特に転移物の把握というのが出来ない気がする。


「そうなんですよ。使える人自体少ないですから」


「そうかー」


「少ないのですよ?」


上を向いてこっちに何か主張してくる。褒めろってことね。


「あぁ、うん、そうだな、サチは凄い」


「そうでしょうー」


頭を撫でてやると満足したように脚をパタパタと動かしてる。


ふむ。せめてここと家の間だけでも行き来できればと思ってたが、まだまだサチ頼みになりそうだ。


「あの、ソウ、もう大丈夫ですよ?」


いけね、考え事しながら撫でてたら髪がボサボサになってしまった。




「今日はちょっと別の仕事があります」


「ん?別の仕事?」


帰ろうかと思ってたらサチからそんな話が出てきた。


「神力もそれなりに安定していますし、浮遊島の召喚をして頂こうかと」


「え?なにそれ」


「私達上位天使の世界では浮遊島での生活が主体になっていますが、どうしても人の手が入らないと朽ちてしまう島が出てきてしまいます」


「うん」


「そこで新たに浮遊島を作り出す事をします」


「それが神の仕事?」


「そうです。前の神様の時は私が代理でやっていましたが、神力の低下もあって最近やっていませんでした」


「ふむ。それで神力が戻ってきたから再開しようというわけか。でも何で俺がやることになってんだ?」


「折角なので」


「折角て。まぁいいけどさ、元々神の仕事なんだろ?」


「はい」


「んー、よくわかんないがやるしかないんだろ。色々教えてくれ」


「はい。では移動します」




転移してからサチに抱えられ結構な距離を飛んだ後、ある浮遊島に着地した。


「この辺りがいいですね」


視線の先には広範囲に渡って空と雲しかない場所。


「ここに新しく作るのか?」


「はい。では浮遊島作成の説明をします」


「うん、よろしく」


「やる事は簡単です。これに従ってソウの好みの浮遊島を設定してください」


サチから渡されたパネルには浮遊島の状態を決める設定画面が出てる。


範囲、大きさ、数、気温、湿度、寒暖変化の有無など色々あるな。


「なんか凄いな」


「範囲は私のほうで固定化していますので動かせません」


範囲ってのは召喚する範囲か。


「大体わかるけど数ってなんだ?」


「召喚する数ですね、造島師の島々がこの数を多くしたものと思ってください」


ふんふん、なるほど。


あそこは大きいのを一つと小さいのと数を多くしたのを合わせたものなんだな。


「サチはいつもどうやって作ってたんだ?」


「適当ですね」


適当ってそんな。結構大きな作業だと思うんだけどこれ。


うーん、でも初めてだしちゃんと設定したいなぁ。


「これ川とかの設定はないのか?」


「川は水の精次第でしょうか」


「水の精次第?」


「水の精がこの島を気に入れば島の石を精霊石に変化させます。そうするとそこから水が湧き出て川になります」


「なるほど」


うちの池や川は人口的に作ったものだが、あれと似たような感じで自然と出来る感じか。


「本来精霊石は活性化させなければ水は湧かないのですが、水や氷の精霊石は精霊の性格の影響なのか活性化しやすいので、大抵活性化した状態で発見されます」


「精霊にも性格があるのか」


「ありますよ。火や地は我慢強く、風や雷は気まぐれ、水や氷はいい加減といわれています。光は人が好きで、闇はよくわかりません」


「へー」


出来れば精霊に気に入ってもらえる島になればいいなぁ。


そう考えながら色々と設定をして、サチに渡す。


「これでどうだ?」


「はい、大きい島ひとつにしたのですね」


「うん。最初だしね」


「いいと思います。では召喚します」


サチがパパっと操作をすると仕事場で神力を使う時に出る承認ボタンが俺の前に出てくる。


「これ押せば?」


「はい、いつものように」


「わかった」


承認っと。


すると空が歪んで島が空から降りてきた。


まるで巨大な空間収納から島を取り出すみたいだ。


「おお・・・すげぇ・・・」


「いつ見ても壮観ですねー」


ゆっくりと降りてきた島はここという場所でぴたりと止まる。


新しく出来た島は全部が茶色の何も無い状態。


中央に小高い山があるけどそれ以外は特に何も無い、非常にシンプルな形をしている。


「この後はどうするんだ?」


「いえ、これで終わりです」


「え?植物とかは?」


「放って置けば自然と生えます。召喚直後は育ちが早いので数日すれば他の島と同じような見た目になると思います」


「へー。面白いな」


「そのうちまた頼むと思いますので、今度はどういう島にするか考えておいてください」


「わかった。それとまたここに連れてきてもらってもいいか?どうなったか見てみたいし」


「えぇ、経過の確認も必要ですからまた来ましょう」


どうなってるか楽しみだなこれ。


また一つこっちの世界の楽しみが増えた。


今度はどんな島にしようかなぁ。

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