パンとゼリー

何も用事の無い日は料理の日というのが最近の傾向だ。


今日は特に頭が飯に向いてしまってるのでやるしかない。


肉料理はもう少し夕方になってからやるとして、今はサチが貰ってきた異世界の情報から凝固剤が作れないか模索中。


凝固剤というのは寒天とかゼラチンとかそういうやつ。


それがあれば羊羹とかゼリーが作れるからな。


うちには甘いもの好きがいるのでどうしてもデザート優先になってしまう。


しかし現状かなり難航中。


いかんせん動物や海草の食材が無いので貰った情報があまり役に立たない。


試しに似たようなもので試してみたが上手くいかなかった。


うーん、どうしたものか。


一応粘り気のある作物を煮出したり冷やしたりしてみてるがプルンとしたものにならない。


副産物としてどろっとするものは出来たのでジャムっぽいものなら作れそうだ。


だだジャムが作れてもそれを塗るパンがまだ作れないからなぁ。


下界じゃ作れてるのにこっちじゃ作れないというのがなんとも悔しく感じる。


・・・ん?まてよ?


「サチ、下界の料理のレシピとか集めてある?」


「えぇ、一応は。私が美味しそうに思えたものに限ってますが」


「じゃあパンの作り方とかあるか?」


「ありますよ」


「でかした!ちょっと見せてくれ!」


「はい。少々お待ちください」


恐らく服と同じく趣味で集めてたのだろうが、この際そんな事はどうでもいい。


「どうぞ」


「うん、ありがとう」


パンの製法の部分、特に膨らし粉の部分に注目して作り方を見ていく。


ふんふん、なるほど。


よし、これならこっちでもパンが作れそうだ。


「よし、あと透き通ったプリンみたいなデザートあるか?」


「探してみます、少し待ってください」


「うん、よろしく」


その間に俺は小麦粉でパン生地を作って用意した二つの果物の片方の果汁を搾って混ぜる。


馴染ませてからもう片方の果汁を搾って同じように混ぜ込む。


後は様子見だな。


この二つの果物はユキに刺激されて複合シャーベットを作ってたときに偶然見つけた炭酸が出る合わせ方だ。


下界のパンのレシピを見るとこれと似た果物の果汁を入れる製法が書かれてた。


「ソウ、ありました」


「おう、助かる。じゃあこれをクッキーを焼くみたいにじっくり加熱してくれる?」


「はい。わかりました」


サチがくれた情報にはゼリーの製法が書かれてあった。


うん。やはりこっちの作物で代用できるな。


凝固剤は種を砕いて煮出すのか、誰だよこんな製法思いついたの。


とりあえずその通りやってみる。


・・・できた。


そしてそれを使ってゼリーも作ってみると綺麗な柔らかなゼリーが作れた。


下界の人達凄いな。改めて感心する。


「ソウ、ソウ!ちょっとこれ膨らんできたのですが!」


慌てたサチの声が俺が感動気分を台無しにしてくれる。


「あぁうん、そのまま続けて」


パン生地は最初の時より二倍ぐらいに膨らんでいる。いいぞ。


「いえ、しかし」


「いいからいいから。ちゃんと見てるから」


「わ、わかりました。続けます」


サチと一緒に膨らんでいく様子を見る。


いいね、膨らむ様子が見ていて楽しい。


ただ、周りに何も仕切るものを入れなかったせいで半円型に膨らんでいってしまってるな。


元の生地の三倍ほど大きくなったところで表面が狐色に焦げてきた。


「うん、もういいよ。おつかれさま」


「はい。いつ爆発するのかとひやひやしました」


しないしない。そんな事思ってたのか。


「どれどれ、おぉ・・・」


軽く包丁を入れるとサクリと切れて焼けたばかりのパンのいい香りがする。


「出来たな、パン」


「これがパンですか」


ちぎって口に運ぶとふんわり柔らかな食感が良い。


前の世界のパンよりちょっと果実の甘い香りがするが、これはこれでいいな。


サチも俺のをみて同じようにちぎって口に運んでる。


「ソウ、味がほとんどしません」


うん、米の時も同じ事言ったよね、君。


「ご飯と一緒でそういうもんだ」


「なるほど。つまり色々と合わせると真価を発揮するものなのですね?」


「うん、その通りだ」


サチもわかってきたじゃないか。


さて、それじゃ今日はパンに合う料理を作りますかね。




テーブルの上に夕飯が並ぶ。


パンに合う物を作ったらまるで朝食のような内容になってしまった。


サラダ、スクランブルエッグ、薄く切った肉の実を塩胡椒で焼いたものなど。


そういえば今日は丼物でも作ろうと思ってたのにパンが作れた事でつい興奮してしまってパンに合う物ばかり作ってしまった。


まぁいいか。丼物は後日改めて作ろう。


「じゃあ頂くとしようか」


「はい。いただきます」


うん、上手く出来たが完全に気分が朝食だ。


「ソウ、これはなんですか?」


サチが瓶に入れたものを指差して聞いて来る。


「これはジャムだ。パンに塗って食べると甘くてうまいぞ」


「ほうほう。甘いのですか、それは楽しみです」


作ったジャムはイチゴ、オレンジ、リンゴ、レモンの定番なものと試験的に作った混合ジャムを数種。


定番のものはサチに使ってもらい、俺はこの混合ジャムをつけて食べてみる。


うん、このベリー系を色々混ぜたのはいけるな。


クッキーにも使えそうだ。これは量産して大丈夫と。


次。


「うっ・・・」


「どうしました?」


「い、いや、なんでもない」


こ、これはとてつもなく苦いな。


柑橘系を混ぜたのがいけなかったのだろうか。


一応白い部分は取り除いて作ったはずなんだが。


これはダメだな。


そんな感じで混合ジャムを一通り試した結果、二種類が成功、四種類が失敗だった。


むぅ、やっぱり混ぜて作るのは難しいのか。


ユキみたいに合わせるセンスがあればもう少し種類が作れるかもしれないな。いずれ教えよう。


「ソウ、もう少しパンを頂いてもいいですか?」


「ん?うん。パンはうまいか?」


「えぇ。下界の人達が好んで食べるのがよくわかりました」


新しく手に取ったパンにジャムをベッタベタに塗って食べている。


口の周りがジャムまみれになっててみっともない。後でちゃんと拭くんだぞ。


俺は俺で平たく切ったパンにサラダとスクランブルエッグを乗せて、更に塩味と辛味を追加するために唐辛子ふりかけを掛け半分に折ってかぶりつく。


サチ、そんな食べ方が、みたいな顔してももうダメだぞ、さすがに食べすぎだ。


また今度パンを焼いてもらうからその時にしなさい、うん。




「はー・・・いいですねぇゼリー・・・」


食後のデザートに出したゼリーをサチが至福の笑みを浮かべならが食べている。


次に食べるのをすくったスプーンの上でプルプル揺らして楽しんでる辺り相当気に入ったようだ。


プリンとアイスとゼリーどれが一番好きか聞こうと思ったが、半日以上悩みそうなのでやめた。


俺も同じ事聞かれたら困るしな。


ちなみに俺は餡子で作った水羊羹を食べている。


出来ははっきり言って失敗作。


甘さがかなり控えめになっている上に食感もザラザラしてる。


不味くはないが食べてて楽しくもなれないので失敗扱いでいいと思う。


大人しくサチと同じ果実のゼリーを食べようと思ったが既にもうサチに食われてた。


しょうがない、後でお茶でも淹れて口直ししよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る