念を使うコツ
「なるほど、念についてですか」
情報館でお迎え、挨拶、名付けを一通り終えた俺とサチはアリス、シンディ、ユーミに相談に乗ってもらっていた。
「過去に使えなかった人が使えるようになった例などありましたら参考になるのではと」
「それでこちらにいらしたのですね。主様のお役に立てるのであれば我々としても嬉しい限り。全力で調査致します」
「頼む」
サチは全く諦めていなかったようで、こうして情報館まで来て原因を探してくれている。
むぅ、ここまでされてしまったら是が非でも使えるようにならないと、という気持ちになってくる。
「念の使用不能状態についての情報が何件か見つかりました!」
ユーミが早速一覧にして見せてくれる。
「使いすぎによる数日間の使用不能状態、寝不足などによる集中力の散漫・・・うーん、どれも違いますね」
「ではこれはどうでしょうか?」
「別世界からの移民時による念の使用について?ソウ、これ」
「どれ、ちと見せて」
見せてもらった内容は別世界、つまり俺のように神の存在によって維持されていた世界が神の消失により消滅する際に住民は別世界へ移民するのが普通だ。
その時に移った先で念や魔法といった力が使えなくなる場合があるといった事が書かれている。
解決方法はしばらくの間そこの空間で生活していると自然と体が馴染んで使えるようになるらしい。
具体例に今の上位天使の空間に越してきた天使についても書いてある。
天使なので飛行は問題なく行えたが、念の使用がしばらく出来なかったので念の使える世話人が一緒にいたのか。
俺とサチの関係に似ているな。
その後毎日念を使う訓練をしていたところ前にいた世界の手法で使えるようになり、一度使えれば後はこっちのやり方に合わせるだけだったと。
ふーむ、ちょっと違うかなぁ。
俺は前の世界でも魔法なんてものは使えなかったし、何か特別な方法でもあるのだろうか。
「ごめん、ちょっと違うみたいだ」
「そうですか、残念です・・・」
ユーミは喜怒哀楽が天機人の中でもかなりしっかり表に出るから見ていて楽しいが、がっかりした時も出てしまうので悪い気になってしまうな。
「旦那様、その・・・こちらなんていかがでしょうか」
今度はシンディが何か持ってきた。
いつも自信ありげな彼女にしては随分控えめだな。
「誰でもわかる念使用の基本、子供用?」
「ちょっとシンディさん!なんてものを!」
「まあまあアリス、折角だからちょっと読ませてくれよ」
あとサチ、子供用と聞いて吹いたのを俺は見逃さなかったからな。覚えてろよ。
とりあえず内容を読ませてもらう。
ふむ、念の使い方が分かりやすく書いてある。
大体はサチの教えてもらった通りだ。
お、どこでも出来る練習なんてあるじゃないか。
どれどれ、簡単浮遊。自分が浮き上がる念の練習か。
ちょっとやってみるか。
目を閉じる、心を落ち着かせる、浮いて自分の尻や背の感触が無くなるように念じる。
・・・ダメだ。出来ない。
出来ない場合は自分の中のマナを見つけましょうって書いてあるけどなんだこれ。
「なぁ、自分の中にあるマナってなんだ?」
「あ!」
「それです!」
な、なんだ?一斉に皆がこっち向いたぞ。
「ソウはマナを感じ取れなかったから使えなかったのですね」
「なるほど、神様ならではの症例ですね」
「待って待って、何のことだか分かるように説明してくれ」
一人だけ取り残された気分なので説明を求める。
どうやら俺は体の内に存在するマナを認識出来てなかったから使えなかったらしい。
「正確にはマナではなく神力を扱う力ですね。水を掬う器が見つかってなかったと思ってください」
何となくだが使えなかった原因がわかった気がする。
「それでは改めて念の扱い方を説明するのでその通りやってもらえますか?」
「う、うん」
「まず目を閉じます。そして深呼吸をします」
「すぅ・・・はぁ・・・」
心が一気に落ち着いてくる。
「ここからが重要です。ソウの中に何か力の塊のようなものはありませんか?」
ん?ん?力の塊?よくわからん。
「そうですね・・・前の神様から貰った光の塊を感じませんか?違和感でもいいです」
む・・・そういえばあの爺さんから神を引き継いだ時に何か体の中に異質な物があった感じがしたけど直ぐ馴染んでしまったからなぁ。
あれを探せばいいのか?
「主様。昔と今で違う部分を探すようにすると見つかり易いかもしれません」
アリスが助言してくれる。
昔、この世界に来る前か。それとの違いを感じる部分・・・心臓の辺りに何かある。
「すぅ・・・」
息を大きく吸うとその異質な物がより良くわかるようになった。
「・・・これか?」
「見つかりましたか?ではそれを掴みながら念じてください」
掴む?どんな感じだ?サチの胸みたいな感じでいいんかな。
あ、サチの胸だと思ったら一気にやりやすくなった。
これを掴みながら浮くように念じるのか。むむむ・・・。
「・・・おぉ・・・」
四人が同時に驚きの声を上げている。
サチが俺を持ち上げた時のような浮遊感を感じる。
目を開くと視線が先ほど目の前にいたサチ達が下の方にいる。
「おぉ!やっ・・・いてっ・・・ぐあっ」
喜ぼうとしたら天井に頭をぶつけ、衝撃で念が切れで椅子に叩きつけられた。痛い。
「大丈夫ですか?」
「お、おう。大丈夫だ、それより出来たぞ!」
「えぇ、やりましたね!」
「おめでとうございます!」
これでやっと俺も晴れて異世界の住人になれたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます