造島師達の仕事ぶり
造島師の作業を見ていて如何に念と空間収納が便利かというのを思い知らされた。
まず基本的にそこそこ大きいものでも協力して持ち運ぶということをしない。
自分の空間収納に入れ、移動して、移動先で取り出すので持ち運ぶ人手が要らない。
そして加工。
以前農園の天使達が不器用な庭作業をしてたので若干心配してたが、杞憂に終わった。
木材を加工するのも念じて指先に小さい空圧の刃を作って切っていた。
他にも手のひらにヤスリを展開して撫でるだけで表面が綺麗になったりと、世界の違いというのを感じさせられた。
「随分と熱心に見てますが、面白いですかな?」
作業が一段落したヨルハネキシがこっちに来て聞いてきた。
「あぁ、凄いな。見てて飽きない」
職人達も凄いが一番凄いのがこの爺さんだ。
とにかく作業に無駄がない。
例えば先に挙げたヤスリがけだが、若い職人なら切った後に切断面が粗いのでヤスリをかける必要がある。
しかしこの匠は切った時点で切断面が綺麗な状態になっているのだ。
今もこうやって自分の作業を止めて現場状況を見たり指示を出したりしているが、決して休んでいるのではなく、次の作業をするための必要な工程をやっている他の職人が終わるのを待っているのである。
そしてその待ち時間も無駄にせず、考えを巡らせて指示を出している。
これがベテランの仕事か。凄い。
そういえば今ここで作業しているのは造島師ばかりで補佐の天機人達はあっちでサチを含めて談笑している。
「なぁ、レオニーナ達は何しに来たんだ?」
「ん?あぁ、彼女達の出番はもう少し後ですな」
そうなのか。何をするかは顔の表情を見る感じ、教えてくれそうにないな。楽しみに待ってろってことか。
「そうか、じゃあこのまま見学させてもらうよ」
「何か気になることがありましたら近くの者に気軽に聞いてくだされ」
「わかった」
再び作業に戻るヨルハネキシを見送って観察再開。
言われたとおり気になった事は手の空いた職人に聞いたりもした。
どうにも俺の常識がこっちの常識に通用しなくて聞くたびに職人が一瞬驚いたような目でこっちを見るのが印象的だった。
「おーい、レオニーナ。仕事だぞ」
職人達一同が作業を終えたのを確認するとレオニーナ達天機人を呼ぶ。
「おう、やっと出番かジジイ!」
手を揉んで気合を入れながらこっちに来る。
さっきまでサチ達に弄られて真っ赤になってた奴と同一人物とは思えないな。
話し相手が居なくなったのでサチもこっちにやって来た。
「これから何をするんだ?」
「あれ、聞いていませんか?」
「うん。ヨルハネキシに聞いたけど教えてくれなかった」
「なるほど、ではこのまま見ているのがいいと思います。私も久しぶりに見るので楽しみです」
むぅ、サチも教えてくれないのか。
そうこうしているうちに天機人達は腕にパワーグローブのようなものを装着して準備万端のようだ。
「よっしゃ、やるぞ!お前ら!」
「はい!」
レオニーナの掛け声と共に岩や柱が次々と運ばれていく。
俺の居た世界だったら重機で運ぶようなものが天機人一人で次々と運ばれていく様子は圧巻だった。
そうか、いくら運搬が空間収納で省くことが出来ても組み立てる時は力仕事をする要員が必要なんだな。
天機人はそういうののために来てたのか。
「天機人って力持ちだったんだな」
「換装のおかげですね。それに彼女達は身体も丈夫なのでこのような作業にはうってつけなのです」
なるほどね。
天機人が運び込んだものを造島師が調整して行き、みるみる形作られていっているのは見ていて気持ちがいい。
楽しみにしておけと言われた理由がわかった気がした。
次第に見えてくる風呂の形。
木の浴槽も魅力的だったが俺が選んだのは岩の浴槽。
造島師のところに行ったときに見た小島の中のサンプルに岩で作った池があったので、それを参考にさせてもらった。
色々な物が配置されていくにつれて全体像が見えてくる。
左右に池に通じる道を新たに作り、その間に風呂場を建築。
風呂の中央に池から水を引いてくる場所を作り、浴槽も中央に設置。
こうやって出来てくると新たに気になる事が出てくるのでヨルハネキシに聞く。
「左右の道の両方から入れるようになっているが、意味はあるのか?」
「特にありませんな。この島の対称条件を満たすためだけです」
ふむ、それじゃちょっと勿体無い気もする。
「左右の入り口をそれぞれ男女別にして、中央の浴槽を仕切れるようにしたら来客の時に入ってもらえるようにならないかな」
落ちてる枝を拾って地面にガリガリと簡易図を書いて説明する。
俺とサチだけで入るなら仕切りとか要らないんだけどな。
出来れば風呂の良さを他の人にも知ってもらいたいので余裕があれば付けてもらいたい。
「なるほど、来客の事まで考えてなさるとはさすがですな」
思いつきなんだがヨルハネキシは興味ありげに食いついてくれる。
「仕切りは蛇腹の板で作ったらいいんじゃないかな。浴槽は特に間仕切りなしでいいか」
普通なら反対側が気になって覗こうとする不埒な輩がいそうだが、さすがに俺の管轄下でやる奴はいないだろう。
「ふむふむ、ソウ様はなかなか面白い技術をご存知ですな」
そうかな。前に居た世界だと割と古風な技術なんだが。
地面に書きながら説明すると直ぐに理解してくれた。
「なるほど、これなら収納空間が少なくて良いですな」
前の世界じゃ濡れても大丈夫なカーテンとかあったけど、ここは木で十分だと思う。多分そんな高い頻度で使わないと思うし。
他にも池との堰に距離があったので、堰と風呂場までの間に棒をつけて風呂場で棒を下げると堰が上がるという案も出した。
無精者の考え方ではあるが、ヨルハネキシは楽しそうに聞いてくれた。
「この二点だが頼めるか?」
「お任せくだされ。お話を聞いてうずうずしてきましたわ」
意気揚々と現場に戻って行き、早速皆を集めて指示を出している。
こういう強い職人気質なところは若い連中と変わらない気がする。頼もしい限りだ。
どうやら俺が頼んだものはヨルハネキシ直々に作ってくれるようだ。
その作業たるや初めての物にも関わらず作業に迷いが全く無く、次々と形が出来ていく。
「よし、小休止だ。各自排熱にあたってくれ」
「了解」
作業に見とれてるとレオニーナの掛け声で天機人達が小休止するためにこっちに来た。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
パワーグローブから湯気のような熱気が漏れていて背後の風景が歪んで見える。
「天機人の換装の話は聞いてたが凄いんだな」
「そうですか?私からするとジ・・・ヨルハネキシ達職人の方がすごいと思いますが」
一瞬ジジイって言いそうになったな。
一応俺の前だと口調を丁寧な方にしてくれるようだ。
「俺からすればどっちも凄いよ。感謝してる」
「ありがとうございます。なんか照れます、へへ」
何となくサチがレオニーナを弄りたくなる気持ちが少しわかった。
とても素直な子なんだな。照れてる様子が愛嬌を感じさせる。
視線を作業中の職人達に戻すと既にヨルハネキシが仕切りの形を作り上げて稼動試験をしている。
「おーい、レオニーナ。ちと手伝っとくれ」
「あいよ!それじゃソウ様、行ってきます」
「あぁ、頑張ってくれ」
レオニーナを見送ると今度はサチが戻ってきた。
「おかえり」
「戻りました。なにやらレオニーナが嬉しそうでしたが何か声をかけたのですか?」
「あぁ、ちょっとね」
質問に答えるとサチがなにやら思案した後、ある答えに行き着いた様子でこっちを見る。
「最近、ソウは人たらしではないのかと思えてきました」
「なんだよそれ」
「女たらしの性別なし版です。ソウは気付かないうちに相手に好かれる素質があるのではないかと」
「そうなのかなぁ。嫌われるよりは断然いいが、神という部分がそうさせてるんじゃないか?」
「それはあるかもしれませんね」
元々神に対しての敬う心が養われていたから今のみんなの反応があるのだと俺は思う。
なんであれ俺は恵まれていると思う。ありがたいことだ。
そして一番感謝したいのは今俺の横に居る彼女だな。
「うーん、俺としてはサチたらしぐらいでいいんだけど」
「なっ・・・ま、またそういう事を・・・」
意表を突かれたのか赤くなりながら挙動不審になる。かわいい。
「なので俺が女たらしにならないようにしっかり見張っててくれよな」
「し、仕方ありませんね。他の方に迷惑をかけてはいけませんからね。本当に困った方です、まったく」
どうにか焦っているのを隠そうとしているがバレバレだぞ。
そんな視線に気付いたのか最終的に服を掴んできて落ち着いた。
うーむ、風呂が出来たら普通に堪能しようかと思ってたがそれどころじゃなくなりそうな気がしてきたぞ。どうしてくれる。
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