第6章

第122話

―――「また、遊びに来い。何時でも歓迎してやるからな」(オボロ)

「次に来た時には、今度は私たちがカイルを驚かせてみたいものだがな」(ライノス)

「カイル。少しでもいいので顔を見せてくださいね」(葛の葉)

「葛の葉、あまりプレッシャーをかけてやるな。だがまあ、オボロたちの言うとおり、何時でもこの里に遊びに来なさい。それ以外にも相談事があったらでもいいのだから。一人で溜め込まずに、吐き出せばスッキリする事もあるというのを忘れるな」(玉藻)

「はい、了解です。困ったことがあったら素直に頼らせてもらいますから。では、お世話になりました」

『いってらっしゃい』

「…………はい、いってきます!!』―――


オボロさんたちに見送られて狐人族の里をおいとまさせてもらった。自動人形での生活に不具合がないかの観察に、さらに一週間の時間をかけた。姉さんたちとは食事のメニューを好きに決めていいのと、食事量の増量で交渉が成立した。そのまま、特に問題がなかったので、帝国に帰るかという事になった


里の皆さんのご厚意で様々なお土産を頂いた。この辺りでしか採れない薬草や果物、里一番の付与術士によって守護の術式が付与されているお守りなどだ。これらのお土産は都市の皆に配ったりしようと姉さんたちとも相談して決めていた。狐人族の里からはイスミさんたち霊獣の方々がある程度の位置までは再び背に乗せて送ってもらえた。その際にも、お礼合戦となってしまったが最後に友好のハグをして、これで今回の事に関しての互いへの感謝は終わりとした。一旦終わらせないと、イスミさんたちはずっと俺たちにお礼を言いかねない様子だったから


「もう、あれから一ヶ月か」

「なんだ、寂しいのか?」(レイア)

「まあね。皆、いい人だったしね」

「そうね~。子供から大人まで皆が優しくしてくれたわね~」(リナ)

「………リナさんもモイラさんも朝っぱらから酔うまで飲まないでくださいよ」

「いいじゃない。里では子供たちの目もあったから酔うまでは飲めなかったんだし。メリオスに戻ってくたんだから、これくらいは目をつぶってよ~。ねえ、モイラ」(リナ)

「そうだ、そうだ~。このオカンエルフめ~」(モイラ)

「今回は見逃してあげてほしい。あんな風に尊敬の眼差しで見られていたらカッコ悪い所は見せられない」(セイン)

「だから、皆さん何時もより大人しかったんですね~。てかオカンエルフって言うのやめてくださいよ。最近じゃ、孤児院の子たちまで言い始めてるんですから」

「……皆はまだマシよ。私なんて…………」(ユリア)


ユリアさんが里での心労を思い出して暗い雰囲気を漂わせている。祖父であるラディスさんや両親であるマレクさんやセラさん相手では良いところのお嬢様みたいな雰囲気と言葉遣いだったからな~。まあ、実際に良いところのお嬢様なのは事実なんだが。本人は、姉さんたちとの出会いの前にそういった所で色々と絡まれてきた記憶があるようで、今のような感じの方が逆に慣れてしまったようで気が楽なんだそうだ。里でのユリアさんは家族や知り合いに対して相当気を抜けないという気持ちが強かったようで、酒も料理も里の皆の前では多少我慢していたようだ


「それよりも、一ヶ月の間にスゴイ数の依頼を達成してきたらしいね」

「ああ、何でも深層のダンジョンにしか存在しない素材の在庫が少なくなっていた所に私たちが帰ってきたからな。私たちも暇してたから依頼を受けたんだ。そしたら……」(レイア)

「ギルマスが仕込んでいた。各方面に今の内に依頼を出しておけと根回しをしてた」(セイン)

「だから、次から次へとダンジョンでの素材集めをやらされてたって訳なのよ~」(リナ)

「なるほど。日に日に不機嫌になっていったのはそういう訳でしたか」

「それに面倒くさい連中がうじゃうじゃと声をかけてきたりしたから余計にな~。鬱陶しいにも程がある。何度断ったらあいつらは理解するんだ?」(モイラ)


また、変な連盟クランの勧誘や、姉さんたちと男女の意味でお付き合いしたい連中が群がってきたのか。これらの本人たちいわく鬱陶しいものは俺が原因とも言える。最初にギルドで換金をジョニーさんにお願いしたときに絡んできたパーティーの連中のように、俺が姉さんたちと行動を共にするようになった事で姉さんたちのパーティーは男性も入れるようになったと噂がたち始めたのだ。それこそ最初は今よりも多く声をかけられていたようだが、姉さんたちが一度キッチリ締めたことと、ギルマスからの声明が出たことで一旦は沈静化していたようなんだが………。姉さんたちの様子を見るにまた再燃してきているのだろう


実はギルマスから俺にも実力を見せてやってくれと言われて見せた事が何度かある。しかし結局はイカサマだの、金を握らせただの、ギルドが一緒になって仕掛けをしているだのとメリオス支部にまで影響が出かねないことにまで発展しかけたので俺の方からギルドの皆さんに謝罪と共に今後の模擬戦などの行為は中止にしてもらった。ギルマスの方からはこちらも考えが甘かったと謝罪されてしまったが、正直なところ俺としては納得しないだろうなという思いが先にあったので、逆にギルドに迷惑をかけることになって申し訳なかったと思っているのが正直な気持ちだ


「それでな。ギルマスの方から提案があったんだよ。ナバーロさんの所の商会の護衛をして暫く他国に行ってきたらどうかって」(モイラ)

「でも、俺たちも帰ってきてから一ヶ月しか経ってないですよね?また出掛けるのかってならないですか?」

「今回はね~カイル君一人で行ってもらおうと思ってるの~」(リナ)

「………えっ!!」

「誰にも文句を言わせないように実績作りをする事を私たちの方からギルドに提案した」(セイン)

「私たちに群がって来るのは何も高ランクの冒険者だけではないわ。むしろ、低ランクや駆け出しの子の方が最近は多いわね」(ユリア)

「もしかして、それって…………」

「確実にお前の事を引き合いに出してきているな。弟だと知っていても、同じ低ランクなら俺たちの方が力量はあると言われたこともあるな。だからこそ、いい機会だ。せめてCかBにはランクを上げろ。ギルマスもその位のランクにまで昇格してくれれば、いくらでもやりようはあると言っているしな」(レイア)

「あ~、分かったよ。姉さんたちにもギルマスにも受付さんたちにも今後も迷惑をかけられないしね。何とか頑張ってみるよ」

「何かあれば声をかけろよ。手が空いていれば私たちも手伝うからな」(レイア)

「分かってる。何かあったら言うよ。じゃあ、ギルドに行って依頼の事を聞いてくるから。夕飯は帰ってから作るから、お腹空いたら冷蔵庫の中の物を適当に摘まんでね」

『了解(~)』


俺はその返事に本当に大丈夫かな、喰いつくさないかなと不安になりながらも冒険者ギルドに向かって歩みを進める。その途中で毎日屋台を開いて元気よく呼び込みをしているおっちゃんやオバちゃんたちと挨拶を交わしながら、最近の近況などを世間話として聞いていく。相変わらず主婦たちの情報網は侮れないし、おっちゃんたち職人・酔っぱらい集団も男目線での小さいものから大きいものまで教えてくれる。シゲさんたちの為にフォルセさんに提案した事が上手く機能しているようで、あの日から相談される事も増えた。その度に分かりやすく、理解できるまで懇切丁寧に説明していた事から皆さん、より好意的に見てくれる事が多くなった。俺は今回のようにメリオスから長期の不在になることも考えて、トリトンさんを通じてシゲさんとフォルセさんとの間を取り持ってもらった。その結果、以前よりも作業量や作業速度などから全体的な事までを細かく情報共有する事が出来るようになったそうだ


さらにメリオス行政府の方も積極的にシゲさんたちとの交流を始めた。そのお蔭なのか、今まであった小さいいさかいなどがほぼほぼ無くなった。行政府の方もその効果を実感してからトップの方の者たちも本腰を入れて連携をとるようになったようだ。俺は色んな話を教えてくれたおっちゃんやオバちゃんたちにお礼を言って、再び歩き始める。近所の子供たちも笑顔で歩いて遊んでいる。最近は俺の提案とシゲさんたちの設計によって誕生した安全第一のアスレチック場で遊ぶことが多いようだ。以前から子供たちの遊び場が少ないなと思っていたのだが、具体的な案が浮かんでこなかった。だが、狐人族の里でオボロさんたちの調整の為に思いついたのがアスレチックス場だ。あの日本の雰囲気を持つ里で走り回る子供たちを見て、日本の公園などを思い出した。そこで、フォルセさんとシゲさんに相談して子供の遊び場として試験的なものとして一つ作ってみたのだ


〈今の所は子供たちに受け入れられてる。後は、事故とかに気を付ける事が大事だな〉


冒険者ギルドは時間帯もあって人が少ない。ある程度の冒険者はギルド内に滞在しているが、あの姉さんたちに絡む五人組の冒険者などは今日はいないようだ。俺はそのまま受付嬢がいるところに向かっていき、ギルマスに用事があることを告げる


「カイルさん、ギルドマスターに確認を取ります。少々お待ちください」(犬人族の受付嬢)

「はい、分かりました」


犬人族の受付嬢さんは別の人に受付を代わってもらい、二階の奥にあるギルドマスターの執務室に向かっていく。俺は待っている間に適当な席に座り、本を異空間から取り出して時間を潰していく。この本は玉藻さんたちのご厚意によって狐人族の里の中にある様々な魔術に関する考察などが書かれた本を写本させてもらった内の一冊だ。かつての狐人族の賢者たちが、どのように魔術というものを捉えていたのか、どの様な術式構成が一番魔力消費や魔力変換率などが良いかなどが人によって違う見方で書かれていてとても興味深い。故郷の里にも同じような本はあったが、ここまで多岐にわたる内容ではなかった。同じような考え方をしたとしても違う方法で試してみたりと、個人個人によって違いがあるのも読んでいて面白い。熱中して読んでいると、肩を叩かれる。何事かと思って顔を上げると犬人族の受付嬢さんが温かい目で俺を見ていた


「カイルさん、お待たせしました。ギルドマスターの方もお時間が取れました。ギルドマスターの執務室にご案内します」(犬人族の受付嬢)

「あ、はい、ありがとうございます。待たせてしまいましたか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。私の方も今しがた降りてきた所ですので。それでは、いてきてください」(犬人族の受付嬢)

「はい、分かりました」


本を異空間に仕舞いこんで、犬人族の受付嬢さんに附いて二階に上がりギルマスの執務室の前で止まる


「ギルドマスター、カイルさんをお連れしました」(犬人族の受付嬢)

『おう、ありがとう。アレットは通常の業務に戻ってくれ。休憩もしっかりとってくれよ』(ギルマス)

「はい、では戻りますね。カイルさん、では失礼しますね」(アレット)

「ありがとうございました」

『カイル、入ってこい』(ギルマス)

「失礼します」


ギルマスの許可を得て、執務室の中に入る。相も変わらずギルマスの執務室の机の上は紙の束で溢れている。入ってきた俺の方を一瞥した後にサインを二つほど書いた後に、手を止めて改めて俺の方を向く


「すまんな、まだ処理しなきゃいけない書類が溜まっててな」(ギルマス)

「いえ、こちらこそ貴重なお時間をいただいて助かります」

「ハハハ、そんな風に言ってくれんのはお前含めてそんなにいないぞ。まあ、そんな俺も昔はよくギルマスに生意気言ってたクソガキだったからな。他の奴の事は言えないがな。っと、俺の事はどうでもいいな。レイアたちから詳しい話は聞いているか?」(ギルマス)

「いえ、そこまでは。ただ、俺の実績作りの為に手始めにナバーロさんの商会の護衛でもというのは聞いています」

「そうだ。俺としても現状のレイアたちへのちょっかいは目に余る。その改善策として他国へ向かう際の護衛を提案したんだ。その際に、逆にレイアたちから提案されたのがカイル、お前のランク上げだ。今まではお前自身がランクに関して興味もなさそうだったから、俺の方からも無理にランクを上げるようには言わなかった。だが、レイアたちの方から言われたら話は別だ。俺としてもカイルのランクはある程度上げておいた方がいいとは思っていたからな」(ギルマス)

「俺としては冒険者として国境や門を通る際にギルドカードがあれば楽程度の感じでしたからね。積極的にはランクを上げようとは思ってませんでしたよ。流石に姉さんたちにまで俺の事でるいおよぼすようなら、俺としても状況の改善をしなければなりませんからね」

「お前がそう考えているなら、こっちとしても助かるな。なら早速になるが、こっちからナバーロ商会の方には連絡を通しておく。後でお前の方からナバーロ商会を訪ねてくれ」(ギルマス)

「了解です。依頼書の方はどうします?」

「ああ、すまんな、ほれ。これをナバーロに直接渡せ。この件は既に向こうも了承済みだからな。店先で断られる事はない。もし、追い払われた場合は俺に言え。その時は俺が対処する」(ギルマス)

「了解です。では、今からナバーロ商会の方に行ってきます」

「おう、それじゃあな。頑張れよ」(ギルマス)

「はい。それでは、失礼します」


俺は一階に降りて犬人族の受付嬢に挨拶をしてギルドを出る。事前に姉さんたちからナバーロ商会の位置を聞いておいたので、そのままの足でナバーロ商会に向かう

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