第120話

「これで、完成っと」


俺は最後の仕上げを終えて、自らの創り出した二つのモノを目の前にやりきった充実感から深く息を吐く。使った素材も術式も目的の為に考えられる最適なものを試行錯誤して選び抜いた。この二つのモノを設計するのに三日、そこから実際に創りながらの修正に四日かかった。この期間ずっと異空間に引き籠もっていたので、久々の外の空気を吸う。後は本人たちに実際に使用してもらう事で、感覚などを微調整するだけだ。ここ数日は作業が終わる見込みが出たために追い込みをかけていたので飲食を含めた生活の全てを異空間の中で済ませていた。精霊様方も周りの目が全くないのもあって四人とも実体化し、酒を飲んだり俺に食事を作らせたりと自由にしていた


俺が外に出ると時間帯的に夜が明けたばかりの早朝だったようでまだ屋敷の中も里の方も人の気配はなく、とても静かな時間が流れている。俺の腹が空腹を訴えるように鳴る。テントを展開して、大量の食事を空腹の中で作っていく。出来ては少し摘まみ食いをして腹を適度に満たしながら、食卓が出来たての料理で溢れていく。洗い物を済ませて、手を合わせて朝食を食べ始める


「いただきます」


今日は忙しくなる予定なので、いつもに比べて早いペースで次々に皿を綺麗にして積み重ねていく。全ての料理を食べきって、使った食器や調理道具を手際よく魔術を使って洗って乾燥させてから片付けていく。そのまま食後の休憩を読書をしながら、まったりと過ごす。暫くすると、食いしん坊共が起きてきた。そのころには太陽がしっかりと顔を出しており、皆してお腹が空いたと口々に言いながら屋敷の居間に集まりだす。しかし、俺のテントを見つけた瞬間に無言のまま早歩きの状態でテントの中に入ってきて、さらに無言のままいつもの食卓の指定席にスッと座る。全員が俺の方を見て、無言の催促という圧をかけてくる


俺は持っている本にしおりを挟んで、先程自分が使った調理道具よりも一回りも大きいものを取り出していく。俺はそこから長い時間を調理に集中して姉さんたちが満足するまで、ただただ作り続けていた。姉さんたちはそれはもう凄い勢いで作れては消費してを繰り返して、一時間以上も喰い続けてようやく満足したようで追加の声が止む


「じゃあ、俺は玉藻さんたちの所に往ってくるから」

「ああ、私たちは私たちで過ごすから問題はない。ただ………」(レイア)

「食事だけはよろしくね」(リナ)

「分かってますよ。お昼はともかく、晩御飯は俺が作りますから」


そう言って、俺は玉藻さんたちの屋敷の方に向かう。今、オボロさんとライノスさんは玉藻さんたちの屋敷の所で生活している。オボロさんたちは里の年寄りと話したり、子供たちに様々な事を語っていたりとのんびりとした生活をしている


「おはようございます」

『ああ、おはよう』(ライノス)

『何か籠って製作していたようだが、出来上がったのか?』(オボロ)

「ええ、ほぼほぼ完成はしました。あとはお二人に協力をしてもらおうと思いまして」

『協力?』(オボロ)

『何をするのか知らないが、別に構わないぞ』(オボロ)


俺とオボロさんたちは玉藻さんたちの屋敷の庭に出る。ラディスさんと玉藻さんと葛の葉さんの三人は興味があるのか、縁側に揃って座って茶を飲みながらまったりして俺たちを見ている。俺は異空間から先程完成したばかりのモノを取り出す


『こいつは、人形?』(オボロ)

『それにしては、顔の部分以外が殆ど人と見わけがつかないくらいに精巧な人形だな』(ライノス)

「ほう、これは凄いな」(玉藻)

「ライノスさんの言う通りに、顔の部分以外は違和感がありませんね」(葛の葉)

「私もこれほどの代物を見るのは初めてですな」(ラディス)


俺は皆の感想を聞きながら、準備を終わらせる。俺はオボロさんとライノスさんに向き直る


「じゃあ、説明します。こいつは俺が二人の為に創り上げた最高傑作と言ってもいい出来の自動人形です。このほぼ人に見えるような皮膚の感じなどは、錬金術の一つであるホムンクルスの製作技術の応用をしています。小説やアニメによくある様な急速な細胞劣化といったようなマイナス面は排除してあります」

『ほう、この世界でホムンクルスの製作が出来るというだけで、カイルの錬金術師としての腕は一流というわけだ』(ライノス)

『そうなのか?』(オボロ)

『そうなのだ。錬金術はこの世界の魔術的な技術としては上位の技術に相当する。その技術を応用出来るという時点で錬金術の事を少しでも知っているのなら、それがどれだけの腕なのかはすぐに分かるという事だ』(ライノス)

『なるほどな』(オボロ)


ライノスさんの説明にオボロさんが理解できたようで、自動人形に近づいて観察し始める


「身体の中身についてですが、今後のことも考えて臓器はありませんが食べ物を食べたり、飲み物を飲んだりすることは出来るようにしてあります。味覚などの各感覚もあります。取り込んだ食べ物や飲み物に関しては味などを感じた後に、急速に分解をし、魔力に変換して蓄えるシステムにしてあります。当然、満腹感を感じられるようにもなっているので食べ過ぎや飲みすぎにも注意してください」

『それは助かる‼カイルの作ってくれる懐かしい料理をこいつを使ってどうにか食べれるってことだろ‼』(オボロ)

「ええ、そうです」

『ふむ、その機能は確かにこの身となってからの事を思い返しても嬉しいものだな』(ライノス)


二人とも食べたり飲んだりという事が出来るという事に感動している。ライノスさんも最近目覚めたオボロさんも食べれない・飲めないということにかなりのフラストレーションが溜まっていたようだ


「次は、身体の内部についてですね。疑似筋肉と疑似筋線維などは様々な魔物の良い所取りをしてつなぎ合わせて、錬金術で合成してあります」

『ほう、耐久力的にはどうなんだ?』(ライノス)

「その辺は問題ありません。これらは俺の自動人形にも使われている技術ですし、耐久試験の方も問題なくクリア出来てます。今回はさらに、全身の骨格、骨そのものはウルツァイトと各種の魔鉱物を混ぜた現状では最高の金属を骨の形に加工しています。これによって、全体の物理的な耐久力も増してあります。ああ、全身の柔軟性についても問題はありません。骨そのものの強度が高く、特別な金属で構成されているというだけです。間接部に関しては球体構造のものを取り入れているため、ある程度の生身ならば無茶な角度にも曲げたりする事が可能になっています」

『なるほど。これを生み出したのは私たちが物理的な接触や指導がしやすいようにという訳か?』(ライノス)

『確かに、この身体が使えるなら便利な事は間違いはないな』(オボロ)

「お二人は先輩ですしね。少しでも力になれればと思いまして。次に疑似神経ですが、蜘蛛系などの魔物の糸の中の最高ランクのものの幾つかを合成して新たな糸を生み出してそれを極細に絞り上げて疑似神経として全身に張り巡らせています。これら疑似筋肉などの各器官の魔力効率や周囲からの魔力吸収率などはこちらも最高レベルに仕上げてあります。最後に、重要な機関である心臓部分についてですね」

『先程からの話から考えて、本物の心臓があるわけではないのだろう?』(ライノス)

「ええ、そうです。まあ、ハッキリと言ってしまうと賢者の石がこの身体の心臓代わりになってます」


俺がそう言うと、流石の二人も驚いて絶句している。賢者の石と言えば地球における錬金術という分野においても最高峰といってもいい代物だ。それはこの世界の錬金術という分野においても変わらない。創りだすのに貴重な素材を多く使うのもそうだが、何よりも一つ創り出すのに膨大な時間がかかる。一欠片を創りだすのに早くても三年ほどもかかるのだ。その代わりに性能は地球に伝わる伝承と遜色ないほどに高性能であることに変わらない。一欠片の状態であっても、ただの石ころを黄金に変えることくらいなんなく出来てしまう。この世界においては、魔力を無尽蔵に生成・放出・吸収できる超強力な魔石の上位互換にあたる存在となる。この二つの身体に使用したのはもちろん俺の保有する最大級の大きさのものだ


身体を維持するための魔力から戦闘におけるライノスさんとオボロさんの魔力の増幅・強化を行い、失った魔力を直ぐに補充出来るようになっている。その為、魔力切れを起こす事もなく、戦闘を含めた行動が継続可能になる


「後は、顔の部分についてですね。これは見ての通りにのっぺらぼうになっています。これは先に試していただいた方は分かりやすくていいかもしれないですね。ではお二人とも、自動人形の後ろにまわっていただけますか?」

『了解した』(ライノス)

『分かった』(オボロ)


二人が後ろに回り込んだのを確認してから、次の説明に入る


「それでは、どちらの手でもいいので心臓部分に触れてください」

『それだけでいいのか?』(ライノス)

「ええ、それだけで構いません」

『そんじゃ、これでいいの………か?』(オボロ)

『これはバベッジシステムと同じような空間ディスプレイ?』(ライノス)

「少しだけ、ライノスさんの組み上げた技術を参考にさせていただきました。表示されている通りに、魔力をその自動人形の身体に流し込んで個人認識の登録をお願いします」

『『了解』』(ライノス・オボロ)


二人は魔力を流していく。すると、心臓部にある賢者の石が魔力に反応して誰の目にも見えるほどにまばゆく発光する。その発光の数秒後に幾つもの空間ディスプレイが現れる


『これは私たちと自動人形の同調率を示しているのか。それで、こちらは私たちの魔力が全体にどれだけ浸透し活性化されているのかを示しているのか』(ライノス)

『ていうか、これまんまパソコンのダウンロードだよな。こっちの方が細かく表示されてるし、活性化してる部位も人体図で示してくれてるから分かりやすいな、ほんとに』(オボロ)

「まあ、その辺は苦労しました。ですけど、分かりやすい方が理解しやすいので」

『まあ、そうだな』(ライノス)

『言葉だけで伝えるのは、どの世界でも難しいからな~』(オボロ)


三人でそこから日本で生きていた時のコミュニケーションの難しさを感じたエピソードを語り合っていく。ある程度時間が経つのを忘れて語り合っているとピピピッとタイマー音が鳴る


「おっと、ようやく同調と完全活性化が完了しましたね。お二人とも心臓部に手を当てながら、自動人形を服を着るのを頭の中で描いてみてください」

『ふむ、こうか?……⁉』(ライノス)

『⁉……………おお~、こりゃ凄いな‼』(オボロ)


オボロさんとライノスさんは自分の今の状態を確かめるように腕や脚を動かす事から、その場で跳び上がったりしている。俺は異空間から机と今日の朝に二人の為に作っておいた料理の数々を取り出して並べていく。二人はそれらの料理たちを慎重にゆっくりと、口に運んでいく。そして、口に広がる久方ぶりの味に感動して動きが止まってしまう。暫くして、再起動すると別の机に用意した飲料も口に含んでまた動きが止まってしまう。そんな二人を驚きと共にニヤニヤした温かい目で玉藻さんたちが見ている


「お二人とも、こちらのディスプレイには食事と飲み物は急速に魔力に変換されたというのは通知されているのですけど、どうです?身体の中に違和感なんかありますか?」

「あ、ああ。違和感だな?…………いや、特にはないな」(ライノス)

「食べたもんも飲んだもんも大丈夫そうだな。味覚の方も大丈夫だ。久々に飯を食うと、やっぱ感動しちまうな」(オボロ)

「味覚などの感覚、魔力への変換においては問題はなし、と。次は素の状態での身体感覚と魔力を循環させた状態との比較などをおこなっていきましょうか。最後に自分の顔を確認してもらってから異空間に移動しましょうか」

「顔?あの、のっぺらぼうではないのか?」(ライノス)

「では、確認をお願いします」


俺はオボロさんとライノスさんの前に鏡を魔力で干渉して宙に浮かせて顔を確認してもらう


「おいおい、一体どうなってんだ?」(オボロ)

「正しく、私の顔だ。……オボロも生前の顔に間違いはない。どのような仕組みなのだ?」(ライノス)

「これは先程終了した同調による効果です。これは一口に同調と言いましたが、細かく表すと魂レベルでのものになります。そのため、お二人の魂が持つ情報を元に自動人形の方が顔の部分を自動的にお二人の顔に変えています」

「それは………凄いとしか言えないな」(ライノス)

「だが、のっぺらぼうじゃなくて自分の顔なのは正直嬉しいな。お前もそうだろ、ライノス」(オボロ)

「まあ、確かにそうだな。これに関してはもの凄い技術でそうなっているということで自分を納得させておこう」(ライノス)

「では、続きの調整を行うために、異空間に移りましょう」


俺の広げた実験用の異空間にオボロさんとライノスさん、縁側でくつろいでいたはずの玉藻さんたちも興味津々な様子で異空間の入り口を潜っていく


「ここの調整が上手くいけば、今日からでもその自動人形を使用していただいても構いません。そうすれば、子供たちと触れ合う事も、里の戦士たちと肩を組んで飲み合う事も出来ますので」


俺の言葉に改めて、二人はやる気を滾らせた

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