真実

しばらく桐谷と連絡をとるのをやめてみる。

あちらからも連絡はない。

徹は何かを感づいているのだろうか?

あれっきり桐谷の話題を出さなくなった。

「徹、大丈夫?」

「何が?」

朝早くから夜遅くまで仕事や接待をしている徹を見ると寂しくなる。

「少し休んだら?」

「今は大事なときなの!」

確かに営業マンとして働く徹は立派な成績を残して来ているのであろう。

給料が以前より増えている。

「ゆうり、今日から出張だから用意お願い」

急な出張か・・・。

仕方ない、用意するか。

「明後日には帰るから」

いつも通りキスをして出勤していく。

徹のいない人生を考えてみる。

『ゆうりちゃん、元気?』

携帯を見ると桐谷からだった。

『何にも連絡ないから寂しかったよ。今から会えない?』

徹が留守なので空けられないと答えると、『実は、もうマンションの前』と返ってきたので、ドアを開けてみると桐谷がいる。

「何しに来たの?」

「徹が忘れ物をしたって聞いてね」

慌ててテーブルの上にある書類を見る。

「届けなきゃ」

「俺が届けるよ」

「わたしが届けるわ」

「ゆうりちゃんには見せたくない、あんなところ」

どういうこと?

急いで駆け出して徹の側に近寄ろうとすると、一緒に手を繋ぐ女性といる。

駆け寄ろうとすると桐谷が前をふさぐ。

「ここは僕が行くから」

ボーゼンと立つわたしを置いて桐谷は徹と何事もなかったかのように話している。

桐谷は徹たちと別れ、わたしの元に寄る。

「本当は見せたくなかったんだ」

わたしは涙が溢れていることに気づく。

徹はわたしよりもあの人を選んだの?

今日の出張は嘘なの?

「許さ・・・ない」

徹の元に駆け寄ろうとすると、桐谷が止める。

「止めなよ、あんな奴のためにゆうりちゃんが行くことないよ」

「離してよ!」

「ダメだよ、行かせない」

桐谷はそうっとわたしを抱きしめる。

わたしはその腕の中で泣きじゃくる。


落ち着くと、家に向かう。

桐谷も一緒だ。

「知ってたの?あの事」

「うん・・・。だから、ゆうりちゃんが可哀想で・・・」

わたしは自分から浮気をしていて、徹の方に彼女がいるってことに気づかなかった。

思えば残業、休日出勤、あれは嘘だったのだろうか・・・。

わたしは桐谷と今、一緒にいる。

桐谷とは体の関係を持ちたくなかった。

今はそんなことどうでもいい・・・。

悔しさを紛らすように、桐谷陽介に抱きしめられている。

「ゆうりちゃん、愛してるよ」

もう、どうでもよかった。

わたしは桐谷と一線を越えた。










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