6話 決着

 ザードが敗れる様を屋根の上から見ていたブリーズは、一瞬憤怒の形相に変わるも、無理やりに冷静さを取り繕うとキッド達の前に降りて来て言った。


「……いやあ素晴らしい素晴らしい、君たちの戦いは見事なものだった。まさかザードを打ち破るとは、君たちの強さには驚嘆させられるよ。いやあ、なんとも……なんとも……」


 ブリーズは飄々とした表情をしていたがしばらくするとだんだんと怒りを噴出させ顔を歪ませ始める。そして堪えきれなくなって叫び始めた。


「ガアアアアアア!!!貴様らああああ!!!この私に!『凍血』の真祖直下たるブリーズ様に!手づからエサを取らせるなどという屈辱的なマネをさせやがって!!貴様らは全員……皆殺しだあああああああああ!!!」


 ブリーズの絶叫にキッドたちはすくむ。マリアは冷や汗をかきながら言う。


「──まずいね……上位吸血鬼エルダーヴァンパイア様を怒らせてしまったようだ。……ここは私が囮になる、みんなはどうか夜明けまで逃げ」


 マリアが言い終わる前にキッドが前にでてみんなを守るようにブリーズに立ちはだかる。


「……僕に残された力はもうわずかですが、残った力を限界まで振り絞って、ブリーズをなんとかします」


 キッドの宣言をブリーズが一笑にふして言う。


「私をだと?フハハハ!吸血鬼でもない混ざり物程度が、たまたまザードに勝てたからなどと調子に」


 ──瞬間、超高速で突っ込んできたキッドが、ブリーズの土手っ腹に痛恨の一撃を喰らわす。


「ぐうぁっ!?」

「吹き飛べえええええ!!!!!!」


 キッドの一撃を受けたブリーズは高速で吹き飛び夜の闇の中に消えていく。残った力を出し切ったキッドは力尽きはてた。羽が砂のように消え、もとの人間の時の状態に戻る。マリアが倒れるキッドを抱きかかえて言う。


「……遠くへ飛ばしたはいいけど、アイツはすぐにでもこちらへ戻って来るよ」


 しかしキッドは笑顔を向けて言う。


「大丈夫です……僕の家族が必ずアイツを倒してくれます」


 *


 遠くまで吹き飛ばされたザードは咳き込みながら立ち上がる。そして怒りの形相を浮かばせていた。


「あの小僧が……!舐めたマネしやがって……!戻ったら、必ずアイツから殺してやる……!」


「──そーはさせないんだなー」


 ブリーズは驚いて後ろを振り向く。そこには大量の血のスケルトンで足止めしていたはずのエルマが立っていた。


「キッドがこちらにふき飛ばしてくれたのかあ、ふふっ、帰ったらお礼に血をいっぱい吸ってやろう」


 そしてブリーズに大剣をフルスイングでぶちかます。ブリーズはとっさに血の壁を作るが、エルマの一撃はやすやすとそれを打ち破りブリーズの右腕を吹き飛ばした。


「き、貴様ぁ!」


 ブリーズは瞬時に失った腕を再生させると巨大な爪を作り出してエルマに攻撃する。


「アンタが氷の壁ならこっちは鉄の壁さ!」


 するとブリーズの目の前に巨大な鉄の塊が出現し、ぶつかったブリーズの爪は脆く崩れさった。そしてエルマは大剣を横薙ぎに払うと自分の生み出したブリーズの体を両断した。


「う、うあ……」


 体を二つに分けられたブリーズは唸り声を上げながら仰向けに倒れこむ。


「あとはアンタの頭をすりつぶして終わりかな」


 そう言ってエルマはブリーズの元に近づく。下半身の近くまで来た瞬間、ブリーズが上体を起こして叫んだ。


「バカが!まんまと罠に引っかかりやがって!」


 ブリーズから流れ出る血が瞬時に凍りはじめエルマの足元に絡みついた。それと同時に、エルマの周囲に血のツララが生えエルマに向かって伸び始めた。


「てめえを凍らせたあと、バラバラに砕いて愉快なオブジェにしてやる!」


 ブリーズは勝ち誇った顔で叫ぶ。だが目の前の光景を見てすぐに唖然とした顔になる。


「自切」


 エルマは捕まった方の足を切り落とし高く跳躍していたのだ。そして切れた足から流れ出る血で大きなメイスを形成する。


「あんたよ、部下や氷人形任せでやってるからそうなるのさ。私と同じ上位吸血鬼エルダーヴァンパイアとはとても思えないね」


 そして空中で一回転するとブリーズの頭にメイスを叩きつけた。


「今度生まれ変わったら武芸に励みな」


 ブリーズを頭をぶっ潰したエルマは両手を上げて喜んでいる。


「イェーイ!イェーイ!フリーダ様に褒めて貰おー!そうだ!キッドからも血を飲ませて貰おう!......もしかしたらアンナちゃんからもお礼として血を飲ませて貰えるかも!?」


 夢を膨らませるエルマであったが、そばに倒れるブリーズの死体を見てすぐに神妙な面持ちとなる。


「……まさかアイツ!あの体すら人形だったって言うのかよ!くそっ!キッドは大丈夫なのか!?」


 そしてエルマはキッドのいる方へ走り出した。


 *


 街の闇の中、静かに佇んでいたフリーダはカッと目を開く。


「──見つけたぞ」


 *


 街外れの墓地の棺桶の中からブリーズがよろよろと這い出てくる。初めからずっと、ブリーズはこの棺の中にいたのだ。


「クソが……この私がこんな屈辱を味あわされるなど……殺してやる、今度は10を超える部下を引き連れ、アイツらを殺してやる!」


「──上位エルダーともあろうモノが随分と情けないことを言う」


 その冷たく鉄のような声にブリーズは驚いて上を向く。空からフリーダが羽を広げてゆっくりと降りてきていた。ブリーズは苛立ちを隠さない様子で言う。


「雑魚相手を蹴散らせたからといって、調子に乗るなよ?貴様など、私が本気を出せばすぐにでも粉微塵にできるのだからなぁ!分身の氷人形相手に勝って勢いづいたアイツらも!真の力を解放した私の手で、絶望させながら殺してやる!」


 そう息巻くブリーズをフリーダは見下した目をしながら言う。


「バカを言え、貴様が本気とやらを出したところでエルマにも……私のキッドにも勝てん」

「ほざけええええええ!!!!」


 ブリーズが怒り狂った叫びを上げると辺り一面の大地が凍り付く、そして地面から巨大な血のスケルトンが現れた。さらにそれは鎧を纏い、剣と盾を持って武装していた。


「あまりの強大さに声もでないか!?恐怖に震えろ!命乞いをしろ!地に頭をつけて詫びれば考えてやらんでもないぞ!?」


 ブリーズは勝ち誇った笑みをうかべる

 しかしフリーダは氷人形には目もくれず静かに話始めた。


「今、私はいかっている。何故ならば大切な息子を傷つけられてしまったからだ。息子は友を守るために、私たちの血を飲み、戦う道を選んだ。本当はそんなことをさせたくはなかった。すぐにでもあの子のところは行って守ってあげたかった。傷を癒してあげたかった。だがそうはしなかった。……なぜだかわかるか?キッドは私たちを信じてくれたからだ、私たちが事件の元凶を倒すと、信じていてくれたからだ!だから私も母親としてキッドを信じた、キッドが必ず対峙する敵を打ち倒し、友を守って無事に私たちのもとに帰って来てくれると!……だから私も心を吸血鬼オニにして待った、お前が自分の真の居所を晒す瞬間をな!」


 ブリーズはフリーダの気迫に圧倒されている。が、残ったプライドを絞り出すように叫ぶ。


「何を、ゴチャゴチャと!氷人形に潰されて死ねえええええ!!!!!!」


 氷人形がフリーダに剣を振り下ろす。そして叩きつけられた剣によって真っ二つになってしまった。


 ──そう、

 ブリーズは唖然とした表情で、崩れゆく自分の氷人形を見上げている。息をつく暇もなく、今度は無数の武器が空から勢いよく降って来た。


「ぐおおおおおおおおおお!!!!!」


 ブリーズは凍った血のシェルターを作って必死に身を守るが、降って来た武器はやすやすと血の防御を打ち砕きブリーズの体に突き刺さる。武器の雨が止む頃にはブリーズは地面に膝をついていた。呆然としながらブリーズはフリーダに尋ねる。


「何者だ……?何者なんだお前は?」


 フリーダは両手を広げて答える。


「──私は『鉄血』の真祖フリーダ、『アイズ』のやつはお前に私のことについて話さなかったのか?いや、あいつはワザワザ言ったりはしないか、放任主義だものな」

「あ、あのお方の名を……!?まさか本当に──」


 ブリーズが喋り終える前にフリーダは蛇腹剣をブリーズの全身に絡みつかせ、そしてバラバラに引き裂いた。


「素質のないやつを上位吸血鬼エルダーヴァンパイアにするなと、今度あったら伝えておいてやろう」


 『鉄血』の吸血鬼と『凍血』の吸血鬼の戦いは、キッドたちの勝利に終わった。

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