5話 混ざり血のキッド
キッドは赤子の頃、フリーダの血を飲んで育ってきた。フリーダが面倒を見れない時はエルマの血を、それをご飯がまともに食べられるようになるまで、ずっと。
それ故にキッドの体は通常の人間とは異なってしまっている。そう、変化しているのだ。吸血鬼の血を飲むことで、自らも吸血鬼へと化してしまう体質へと。
「てめえ!てめぇ!よくも俺の手を切り落としやがったな!人間のガキのくせに!このザード様に!」
手を切られたザードは狼狽して叫ぶ。対照的にキッドは冷静な様子でザードを睨んでいた。そしてザードに向かって飛びかかる。
「この店から……でていけえええええええええ!!!!!!」
キッドは刀を床に突き刺すと腕の力で体を宙に起こし、そのままの勢いでザードの顔面を蹴りつける。そしてザードは窓ガラスを突き破って店の外に放り出された。
「ぐ、て、てめええええ!!!!人間ごときが!俺の顔を踏みつけやがってええええ!!」
ザードは手をついてよろよろと立ち上がる。切り落とした手首はすでにほとんど再生していた。そしてキッドをじっと見つめると言う。
「……?なんだてめえ……?吸血鬼になってやがんのか?人間だったはずじゃあ……ふん、まあいいや」
ブリードは落ち着きを取り戻すとギラついた目をキッドに向ける。
「今からてめえを殺すことに……なんの変わりはねえ!」
そう言うとザードは爪で自分の腕に傷をつけ、腕を振り血の飛沫をキッドへ投げつけた。キッドはとっさに身をよじるが、半身に細かい穴が大量に空き血が噴き出てしまう。
「これは!……氷のつぶて!?」
空中で血飛沫が凍り付きつぶてと化していた。鋭い痛みにキッドは面食らう、しかし再び意識をザードに向けると刀を構えて突っ込んで行く。
それを見たザードも腕を凍りつかせて手に血のかぎ爪を作り出す。
「首をはねる!」
「バラバラに引き裂いてやる!」
そして二人はぶつかり合う。数十回と打ち合い、辺りに甲高い音が響きわたる。打ち合っているうちに、次第にキッドが優勢になっていった。ザードの爪をいなしながら首筋を狙っている。
(くそ!押されているだと......?この俺が!?)
ザードは冷や汗を浮かべながら必死に防御に徹している。そして爪にヒビが入った瞬間、
──キッドが膝をついた。
なんとキッドが先程攻撃を受けた半身が、凍り始めていたのだ。
(これは!さっき突き刺さったつぶてのせいか!)
「ひゃはは!これが『凍血』の力だあ!」
倒れ伏すキッドをザードは勝ち誇った笑みを浮かべて見ている。そしてキッドを引き裂かんと腕を振り上げた。──だがザードは倒れるキッドの後方を見て動きを止める。
「──いいね、ここからならよーく狙えるよ。よく頑張ったね坊や」
ヴァンパイアハンターのマリアがキッドの後ろで銃を構えていたのだ。
「てめ──」
ザードが喋り終える暇もなくザードの胸は高速の弾丸によって撃ち抜かれた。
*
暗闇のなかエルマは大量の血のスケルトンに囲まれ足止めを食らっていた。巨大な大剣で吹き飛ばし、砕き、すりつぶしを何度も繰り返しているが一向に敵の減る気配はない。
「くそ!私をキッドの元に向かわせないつもりか!キッドは私の血を使って吸血鬼化したからわかる!今のキッドの状態はあまり良くない!」
数多の敵に舌打ちをしながらエルマは言う。
「この血のスケルトンの親玉が!キッドたちのところへ向かっている!」
*
胸元を撃ち抜かれ、息も絶え絶えのザードにマリアは次弾を再装填しながら近づく。マリアにアンナが話しかけた。
「マリアさん、どうしてここへ……?」
マリアはザードへ目線を向けたまま言う。
「吸血鬼が狙っていたのはお嬢ちゃんだってことに気がついてね……誰が言ったか、忌血は人よりも吸血鬼の肉体に近しく、それゆえ吸血鬼にとって最高のご馳走になるとかなんとか」
マリアは倒れ伏すキッドを見て言う。
「そう言われてる中で、同じ忌血の坊やが狙われなかったのはどうしてかって思ってたんだけど、その姿を見て得心がいったよ。……吸血鬼にとって自分の属性以外の血は毒だ。混ざり血の坊やはさぞ不味く感じるんだろうね」
キッドは気まずそうに目線を逸らす。
「あの……隠していてすみません」
マリアはニカッと笑っていう。
「誰だって言いたくないこと10や100はあるもんさ。わたしだって自分のスリーサイズは内緒にしてるからね」
その服装で隠してる?と内心思いながらキッドも笑みを浮かべて応える。
マリアはザードを眼前に見下ろせる距離まで近づくと銃口を頭部に向けた。
「この距離なら外さない。『炎血』の血を込めた特性弾さ。これでアンタもしまいさ」
そして引き金に指をかける。
「──マリアさん!上を!」
アンナが叫ぶ。アンナの声より早く、マリアすでに銃口を上空に向けて発砲していた。だがエルマに撃ったときと違って炎が発生しない。
「──いやぁまるで私が来ることがわかってたみたいな速さだ。もしかして止めを刺すのが遅かったのは、ザードを助けさせて私に不意打ちを喰らわせるためだったのかな?」
上空の男はマリアの弾丸を眼前で掴み凍結させていた。マリアは目の前の光景に唖然としている。
「防いだ……?この距離で!?」
男が地面に降り立つと血のツララが地面から大量に発生する。マリアは後方へ飛んでそれをギリギリでかわした。男は余裕の笑みでマリアたちに話しかける。
「お初にお目にかかる。私は『凍血』の
そういうとブリーズは倒れているザードの体に腕を突き刺す。するとドクンドクンとブリーズに腕からザードへ血が流れ始めた。
「さっさと起きろ愚図が、私に自分の手で獲物を取らせるなどといった恥ずべき真似をさせるつもりか?自己崩壊を起こしても勝て。どうせそうしなければ死ぬ命だろうが」
するとザードの体が痙攣し始め、全身を凍った血が覆い、鎧のようになっていく。その鎧に覆われた姿はさながら異形の怪物を思わせた。
「グガアアアアアアア!!!!!!」
胸の傷がふさがり大きな爪を形成してザードは再び立ち上がる。だがその顔は狂気に苛まれていた。
「クソ!復活しやがった!......まさか相手が真祖直下の
そういってザードへ銃を向けて発砲する。銃はザードに直撃する。しかし、その血の鎧には傷一つつかなかった。
「なんて硬さ──!?」
突如としてマリアの眼前にザードが現れる。
「イダイイダイイダイーーーーー!!!!!!!」
狂った声を出しながら巨大な爪をマリアにふるう。とっさにマリアは銃身で防ぐが、その衝撃はすさまじく、銃ごと遠くへ吹き飛ばされた。
「こん……の!」
キッドも凍った半身を無理やり動かすようにしてザードへ突っ込み、刀を振り下ろす。だがその刀もザードの鎧とぶつかると真っ二つに砕けてしまった。
「な......!」
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ」
動揺するキッドにザードは爪の一撃を食らわせる。
──キッドの胸を大きな爪が貫いていた。
そしてキッドの体は勢いよく地面に叩き付けられる。
「そんな……キッド……マリアさん……!」
恐怖にすくむアンナにザードはゆっくりと近づく。
「忌血忌血忌血忌血忌血イイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」
ザードの前に男が工具を持って一人立ちはだかるように飛び出してきた。ウッデンの店主である。
「き、来やがれバケモノ!俺はもう……守りたい命を失わせたりなんかしねぇ!」
「コロス」
ザードは大きく爪を振りかぶる。そして凶刃が振るわれる瞬間──
ザードの爪がボロボロに砕け散った。付着していたキッドの血がカミソリのように変化し、深く突き刺さっていたのだ。
「……マタダ、マタダマタダマタダマタダマタダマタダマタダマタダマタダ」
ザードはキッドのたおれていた方向へ向く。砕けた爪はすでに再生しかかっていた。
「母さん、僕に……力を」
地面に黒色の瓶が落ちている。キッドの凍傷はすでに治り、胸の穴も閉じかかっていた。ただ以前より犬歯が伸び、目は黒と白が反転していた。
*
街のどこかの闇の中でフリーダはつぶやいた。
「キッド、使ったのね……私の血を」
*
「アアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
ザードがキッドへ向けて突っ込む。キッドは自分の血から刀を二本作り出す。そして突っ込んでくるザードにむけてX状に刀を振りおろした。
「アアアアア!イダイ!イダイ!!」
キッドの一撃はザードの鎧を貫き深手を負わせる。さらにキッドが自分の血を飛ばすと空中でクナイのように変化しザードの体に突き刺さる。追い打ちをかけられたザードはよろよろと後ろに下がり尻をつく。
「す、すげえぞ坊主!これならあのバケモノを倒せる!」
「待て!様子がおかしい!」
いつのにかマリアが銃を杖替わりにして店主の近くに来ていた。すると、キッドが頭を抱えて呻きだす。
「ぐっ!……ぐううううう、だ、ダメだ……乾く……血、血を……!」
「き、キッド大丈夫!?」
心配したアンナが少し前に出る。それをマリアが大声で制止させようとする。
「待て!今の坊やに近づくのはまずい!」
キッドがアンナにギロっとした目をむけるとアンナに飛びかかり地面に押し倒した。
「き、キッド!何を……?」
アンナがキッドに目をやると、キッドは歯を食いしばり目に血をほとばしらせ、必死に衝動に飲まれぬよう耐えている。
「坊や!何やっているんだい!」
マリアは銃口をキッドの頭に向ける。キッドはたどたどしく話始めた。
「撃ってくだ……さい。」
「はあっ!?」
「母さんの血は……真祖の……強大な力を得られる代わりに……吸血鬼としての本能も……色濃くでてしまうんです……このままじゃ僕はアンナの血を吸いつくしてしまう……」
「な、なに言ってるの!ここで坊やが倒れたらだれがあいつを倒すんだい!そんなことしたら私たちみんな、ここで死ぬ!」
マリアは困惑した様子で言う。
「でも……僕はアンナを……」
そのとき、焦燥しているキッドをアンナは優しく抱きしめた。
「アン……ナ……」
そしてキッドに店主がくれたお守りを見せる。
「キッドは大丈夫……キッドはたくさんの優しい人に支えられて生きてきたんだもん、キッドはきっと、自分にまけないよ。」
そしてキッドに優しく微笑みかけた。
その顔を見てキッドは落ち着きを取り戻す。
「アンナ……少し血を……分けてもらうよ」
アンナは黙って服をずらして肩を露出させる。
キッドは静かに首筋に噛みついた。
「忌血イイイイイイ!!!俺ノ血イイイイイイイイイイ!!!!!」
傷口を回復させたザードが立ち上がると、激昂しながらキッドへ向かって突撃していく。
すると突然、ザードの体内から刃物が大量に飛び出る。
「ガアアアアアアアア!!!ナンデエエエエエエエ!!!!???」
先ほど突き刺さったクナイが血に戻り、キッドがフリーダの力を安定させたと同時に刃物に戻したのだ。
キッドはエルマの首から口を離す。結局キッドが飲んだ血は数滴であった。
目をつむって唇を噛んでいたアンナは拍子抜けしたような顔をする。
「ありがとうアンナ……僕はもう、負けないよ」
キッドの背中からは大きな蝙蝠のような翼が生えていた。そしてザードに向けて剣を構える。
「血イイイイイイイ……血イイイイイイイイイ……」
ザードは狂ったように叫びながらボロボロの体でキッドに歩みをすすめている。
キッドはザードを見てつぶやくように言う。
「君ももう……眠れ」
そして翼をはためかせ高速でザードに突っ込んでいき、両手の刀を振るった。
ザードの首が飛び、体がぐずぐずになって崩れていく。
戦いは、キッドの勝利で終わった。
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