第44話 プティは知りたい


 プティは、食事を済ませて食後の散歩をしていた。しかし、宿で考えたいことがあったので、30分もしないうちに宿に戻る。そこで、ふと庭の様子をうかがえば、アルクとルトが剣の練習をしていた。疑問に思ったプティは、アルクに声をかけた。


「サオリは目が覚めたのかしら?」

「プティか。あぁ、ついさっき目覚めたぜ。ただ今日は本調子とはいかないだろうから、部屋を訪ねるのはやめてほしい。」

「あら、寂しいことを言うわね。それは、サオリの意思なのかしら?」

「俺たちの意思だ。」

「あらそう。」

 アルクと話している間も、ルトは真面目に剣を振っていた。彼が真面目なのはいつものことだが、サオリが本調子でないというのにそばを離れていることが、少し珍しく感じた。


「用はそれだけか?」

「えぇ。私は部屋に戻るわ、精進しなさい。」

「・・・あぁ、本当にな。」

 声を落として答えたアルクは、やはり落ち込んでいるようだ。それはそうだろう、昨日の四天王との戦いでは、1分ももたなかったのだ。こちらの剣は通じず、あちらの剣だけがこちらに大ダメージを与えた・・・それは、魔法もだろうけど。


 後衛だから、前衛が倒れれば終わる。そう、前衛のせいにすれば楽だが、何の解決にもならない。正直、四天王のクグルマに魔法を当てられた自信はない。

 悔しさに唇をかみしめて、自分の部屋の前に立つ。


「反省は後よ。」

 部屋に入り、椅子に腰かけて足を組んだ。

 すぐに目の前に黒装束の男が現れる。


「うまくいきそう?」

「手筈通りに。しかし、よろしかったのでしょうか?殿下は、勇者にあこがれていたと思いましたが・・・」

「昔の話よ。それに、だからこそ確かめなければならないの。でも、傷つけるつもりはないから、あなたが護衛して頂戴。」

「御意。」

「何があっても守ってね。」

「もちろんです。」

「あなたがそういうのなら安心ね。それにしても、あんな貴族を使わなければならないなんて、本当に反吐が出るわ。」

「ですが、あの貴族だからこそ、勇者を仲間から引き離せます。」

「そうね。仲間・・・私も仲間なのにね。」

「殿下・・・」

「勇者にあこがれて、いつか一緒に旅に出たいと思った。そのために、魔法を誰よりも扱えるようになったというのに、実際になってみれば理想と現実の違いで苦しめられるわ。仲間としてみてもらえず、勇者も守ってばかりの・・・どちらがお姫様かわからないような、腹の立つ状況だわ。」

 大きくため息をつくプティに、黒装束の男は慰めの言葉も浮かばず、直立不動で立っていた。ただ、額にはうっすら汗が浮かんでおり、焦っている様子だ。


「勝手に、たくましくて、さわやかな、細マッチョのイケメンを想像したのは、私の勝手よ。でも、あれは論外よ。女性なのは仕方がないわ。むしろ、女性だと一番間近にいられると思って喜んだ部分もあったのに。馬車の中でも、宿の中でもずっと一緒。もちろん、お風呂も一緒で、ベッドも一緒。おはようからおやすみまで、そのそばにいられると・・・思っていたけど、実際は一緒どころか一緒に旅をしているはずなのに、別々に旅をしているのかってくらい、話さないし。」

「あの、殿下。」

「なにかしら。」

「話したいのですか?」

「話したいかどうかではなく、話すべきだわ。だって、私は仲間なのよ?正直、サオリのことはどうかと思うけど、それは隠し事が多すぎるからよ!なんで隠すのよ!」

「殿下。」

「なにかしら?」

「なぜ、隠すのか。それは殿下が勇者の信頼を得られていない証拠でしょう。」

「・・・わかっているわ。確かに、最初に理想と違いすぎて、あたったことはあった。そのあとも印象最悪なのはわかるわ。」

「殿下の評価はきっとマイナスでしょうね。」

「・・・わかっているわ。でも、それはどうしようもないことだから、諦める。」

「それがよろしいでしょう。あの騎士たちですら信頼を得られてないようですし、マイナス評価の殿下が今から頑張ったところで、どうしようもないでしょうから。」

「・・・」

 プティに睨みつけられた黒装束の男は、慌てて口に手を当てた。言い過ぎたことを自覚したのだろう。

 男は咳払いして、話を変えた。


「修道女の件ですが、わかりませんでした。」

 修道女とは、昨日サオリが倒れる前に見ていた女性のことだ。


「わからない?」

「はい。どうやらこの町の修道女ではないようでして。」

「旅をしているということかしら?」

「そのようです。この町に来たのも2、3日前でして、同行する者もいないので名前すらわかりません。護衛を雇ってこの町に来たようですが、その護衛も町を出た後でして。」

「怪しすぎるわね。あなたから見て、彼女はどうだった?」

「そこそこ動けるようですが、脅威とは思えません。」

「そう。ならいいわ。」

「よろしいので?」

「気にはなるけど、今は確かめなければならないことが先よ。」

 そのとき、部屋がノックされた。


「プティさん、騎士ヴェリテです。よろしいでしょうか?」

 黒装束の男は、一礼して姿を消し、プティはリテに中に入るよう促した。


「鍵は開いているわ。」

「失礼します。」



 明日には出発するということが確定した。出発するなら今すぐにが正解だったのにと、プティはひそかに笑った。




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