5-30 お父さんの真実

「そう、まぁ、学生の一夜漬けみたいなもんだ。ただし、対ティアマトってやつだがな。

 そして、これを提案したのが爺、お前の父親だよ。提案だけでなく、実務も奈苗ちゃんの見えない所で色々とやっていたけれどな」


 私の視線がすぐにお父さんを刺したのは必然だった。


「そう睨むな。これは奈苗ちゃんの為でもあるんだから。と言うよりも、事実、奈苗ちゃんの為を思っての行動だ。親心をちゃんと説明してやるから静かに聞け」


 最後はちょっと強い命令口調になったギルガメッシュ様の言葉に頷いたは良いけれど、憮然とした表情なのは隠しきれない。

 獅子は千尋の谷に……とか、そんな事は思いついたけれど、そんな簡単な事なんじゃないのだろうと思って話を聞く。


「簡単に言うと、奈苗ちゃんを強くしようとしたんだ」


 やっぱりそう言う事……と一瞬思ったのだけれど、次の言葉で私はその真実を知る。


「イナンナに負けないように」


「イナンナ様に……?」


 どういうことですか? と頭の中で彼女に聞いた答えは返らずに、ギルガメッシュ様は答えを晒していく。


「そう、お前たちは神降ろしのではあった。だが、神降ろしをした人間は神に食われている。

 だから、爺はそうならないように奈苗ちゃん自身を強くしようと画策したわけだ。

 中身は奈苗ちゃんが既に経験したことだな。父親の復讐を最初の動機として、自分の出来る事、出来ない事の認識をさせる。あとは、命の危険を経験して、実地訓練も兼ねて規格外の相手との戦闘をこなす。

 こんな感じの事をやらせてみて、もし奈苗ちゃんがイナンナに負けずに自己を保ったままクリア出来たのなら今後も大丈夫だろう、ってな」


 正直な所、落とされた方からすると千尋の谷どころではなかった。そして、私はもう一つの結末に対してもその答えを尋ねる。


「……もしクリア出来ていなかったらどうなったんですか?」


「ああ、途中でイナンナに頼り切るか、奈苗ちゃんが死ぬことになれば、後はイナンナが奈苗ちゃんの全てを引き受けるって事で話は付いていたよ。

 俺としてはどちらにしろ戦力化が出来るなら問題ないって事でOKを出したがな。

 ちなみにこの計画を行わなかった場合、遅かれ早かれだが、おそらく100%の確率で奈苗ちゃんはイナンナに取って代わられていただろうさ。それを、爺は、自分が恨まれる事を承知で奈苗ちゃんが奈苗ちゃんとして自己を保てる可能性が出来る計画を立てたわけだ。

 その時はあくまで可能性が出来た程度だ。確率としてはどうかな、普通なら絶対にそっちに賭けないだろうってぐらいの可能性で、結果として爺はそれに勝ったわけだ。

 とりあえずはおめでとうと言っていいだろうな」


 そこまで聞いて、私はまだ納得はしないけれど、お父さんがやりたかった事を理解しようとした。

 現状、確かに私とイナンナ様のバランスは一方的ではなく、私は私で居るとはっきり言えるぐらいには取れている。それに、経験によって変質してしまったと言えるぐらいに、イナンナ様が降臨する前の私と今の私では別人になってしまっている事を実感できていた。


 でも……、私はどうしても釈然としないところがある。

 私はお父さんの方を振り向く。一瞬だけ間をおいてから、お父さんとしっかりと目を合わせて聞いた。


「お父さん。全て私の為にやった事なの? それで先生や夜野さんが死ぬかもしれないとわかっていても? 私が人殺しになるとわかっていても?」


 いつも毅然としていたお父さんが、一瞬だけ弱気な表情をしたのを私は見逃さない。見逃せるわけがない。


 だけれど、すぐにお父さんは言った。


「ああ、そうだ。何があろうとも全てお前の為にやった事だ」


 表情が崩れたのは一瞬だけで、後は普段のお父さんだった。


 折角出来た私の親友が死んだことの遠因がお父さんにある事は間違いない。

 先生だって、顔も知らない学校の生徒だって、こんな事にならなければもしかしたら今は生きていたかもしれない。


 でも、だからといってそれは結果論なんだと言う事を私は既に理解している。


 お父さんが画策した事は酷い事なんだろう。私一人を生かすための計画で、私の知っている所でも知らない所でも、人がたくさん死んだのだろうと思う。

 それが無ければ生きられた人がいたかもしれない。でもきっとそれは違う。水代先生はきっとお父さんの計画が無くても生徒を龍神教に送り続けたに違いない。そして、最終的にはどこかで誰かに罪として裁かれることになるんだ。


 他の人もそう。

 死んだ人は、どの道死ぬ運命だったんだと私は自分の中で折り合いをつけた。

 奇しくも、それはイナンナ様が最初に言った通り、”人なんていつかは死ぬものよ”という言葉通りのものだったのだけれど。


 それに、全てがそうなるように仕組まれた環境だったとは言え、既に私も自分の意志で人を殺している以上、お父さんの事を責める事は出来ない。


 だから、私はお父さんの私を思う気持ちを素直に受け入れる事にした。



 夜野さん。もう少しだけ、もう少しだけ待っていて。

 全てが終わったらちゃんと弔ってあげるから。と心に留めながら。





「まぁ、その事なんだがな。そんなに気を負うことは無い。死んだ人間も生き返せる方法があるんだ」


 と、折角心を決めたところで、ギルガメッシュ様はちゃぶ台返しのように決心をひっくり返してくれた。

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