4-18 実演の真偽は?

 そう、おかしい。

 私は気になる事を見つけた。

 

 映像で見た時に、魔法を使った痕跡が全く無かった。

 おかしい話だった。特に人体や生物を治療する際には必ず微量ながらも目に見える発光や肉体に反応があるはず。

 なのに、それが全くなかった。


 つまりそれは、魔法を使った訳では無いと言う証明に繋がる。


 やはり、あれは嘘?


 だとしても、それでも何かが気になる。

 嘘だったとしたなら、何故イナンナ様があんなに無言のまま荒れたのか。


 逆に考えて、嘘じゃなかったとしたら?


 私はもう一つの可能性を思いついてしまう。


 本当に神の力、神魔法だったならば、普通の魔術基礎の魔法と違う反応をするのでは無いかと言うところに。

 神魔法、もしくは本当にあの竜の血とやらが本物だったとか?


 もし、の想像だけで、背筋にすっと冷たいものが走る。


 どちらとも可能性はあった。イナンナ様が居なければ嘘だと断じていただろうけれど、あの普段にない反応を見た後だと、そうも言えなかった。


 わからない。いずれにしろ今の状況だとどちらにも決められない……かな。


「あそこまであからさまだと怪しすぎるわね。嘘っぽく見えるわ」


 視線を前に据えたままの夜野さんは、嘘の方に答えを寄せたようだった。


「私は……まだ分からない。怪しいのは怪しいんだけど」


 彼女の真剣な横顔を見ながら、私は慎重な意見を保つ。


「そう、ね。まだ断定するには早いわね」


 小さく呟く私の言葉に、夜野さんも同調する。


 お互い慎重論に徹したけれど、それ以上の情報が何も出ないまま、元重症人の彼は教団の人達に囲まれるように連れていかれたのだった。


「ここにいる皆様は、色々とお聞きたいことはあるかと思います。

 ですが、私達は、新たに信者になって頂いた彼の事も案じています。

 それ故に、彼は私達の手で裏口より家の方まで直接お送りすることになっております。

 これは、申しにくい事なのですが、少なからずいる我々の事をよろしく思わない方達・・・・・・・・・・・・・・・から、『彼』を守るための事ですので、ご了承頂ければと思います」


 流石というか、一定の理由は通った話を司会者は話した。

 彼を守ると言えば聞こえはいいし、理屈も通りはするけれど、裏を返せばイカサマがバレないように使い終わった小道具は倉庫にしまい込む、そうと取れなくもない。


 うん。

 私の気持ちは、今の流れが単純な小細工であるという方向にどんどんと向いてきていた。


 多分頭の中のどこかで、私にとってはその神の血が偽物だったらいいって楽観するところがあったからだと思う。


 司会の人が使ったこの単語、『我々の事をよろしく思わない方達』。この言葉で、私は、龍神教がお父さんの仇で霧峰さんの敵だってって可能性がかなり高いと思っていた。

 それに、やっている事がどうであれ、勝手に神を増やすこと自体ベール教に対する冒とくだし。十分霧峰さんの敵になりうる。


 ……だから、だからこそ、龍神教の話が人集めの為の嘘っぱちで、本当に奇跡を起こせるようなものだとは信じたくなかった。

 もし本当だったなら、それは多分本当に大事になると思うし、元々手に負えない話がもっと私の手に負えなくなるから。


 そんな考えをよそに、司会の人は彼らのシナリオに沿って話を続けていく。


「それでは、改めて午後の部でも、ボランティアを募ってみたいと思います。

 ご来場のどなたかで、不治のご病気や怪我、もしくは何か叶えたい願望を持った方などいらっしゃいますでしょうか?

 いらっしゃいましたら、前に方に出て来て頂くか挙手の方をお願い致します。スタッフの方で対応いたしますので」


 ……これで手を挙げる人ってやっぱりサクラなのかな?

 出来るならその証拠をつかみたい、そう思って私は後ろの人混みを振り返る。

  

 と、その前に、私は夜野さんがこちらをじっと見ている事に気付いた。


 ガヤつく中で視線を合わせる私と夜野さん。

 いつになく真剣な眼差しで彼女は私を見据える。


 どうしたんだろう?

 そう聞こうと思ったのだけれど、先に口を開いたのは、彼女からだった。


「手、上げないわよね?」


 と一言。


「当たり前でしょ、夜野さん。今回は危ない事をするのが目的じゃないから」


 間を置かずに、すんなりと口から出てくるままに返す私の言葉を聞いて、夜野さんは表情を和らげたあと、すまなそうに目を伏せる。


「ごめん、稲月さん。

 正直なところ、ちょっと、心配だったの。

 虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うし、稲月さんならやりかね無さそうだったから」


 ああもう、私ってこういう時にホント信用されてないなぁ。


 そう思った私は、珍しく目を伏せた夜野さんの顔を両手で掴み、無理矢理彼女と顔を向け合わせて視線を揃える。


「普段ならともかく、流石にそれは無いから安心して、夜野さん」


 そう、普段の私なら、今までの私なら、こんなふうに誰かに接することは無かった。

 良くも悪くも、ううん、多分良い事なんだろうけれど、夜野さんの事ちゃんと友達だって思ってるんだろうな。


 そんな事を思いながら、これまたびっくりした表情の夜野さんに私は言う。


「これ見たらちゃんと帰ろ? 晩御飯、うどん食べるんでしょ?」


 それを聞いた夜野さんの表情の変化はすごかった。満面に笑みが広がって綺麗な顔立ちがさらに輝いていく。


 ごくり。


 流石に、流石に私もどきりとするその微笑みは、心なしか私に近づいてくる。


 ……近づいてくる。


 近づく。


 いや、だから、近いって!!


 と思った瞬間だった。

 ボランティアが見つかった旨の司会の声が、スピーカーを通して会場に響き渡ったのだった。

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