4-8 真相と真意

 霧峰さんは空になったワイングラスを置き、その後ゆっくりと資料を指さした。


「でもな、その資料の表紙に廃棄って書いてあるだろ?」


 表紙に目を戻す。確かに資料には大きな廃棄のハンコが押してある。


「実際のところ、実用性はあるんだが、大きな別の問題も見つかってしまったんだ」


 私には、話の流れがまた見えなくなってきた。


「兵器としては動くんだが、エネルギーの供給に問題がある事が分かった。はっきり言うとそれを操縦する魔術師の方だな。

 十全に運用しようとすると五分も稼働しないうちに中の魔術師が死ぬらしい、その兵器に魔力を枯渇させられて」

「……ダメじゃないですかそれ」


 眉をひそめて言った私に、彼は話を続ける。


「ああ。人道的に、もしくは長期的な運用を考えるとダメだな。

 それでも動きはするし、動けば短時間であれば非常に有用だって事で開発は続いたんだ。

 それでな、解決策を模索するにあたって、魔術師一人で操縦するタイプと、魔術師と操縦者の二人で運用するタイプの二種類のプロトタイプを作ったそうだ。両方とも結果は同じだったと報告されているがな。

 結局の所、運用上の問題が大きすぎるって事で、最後には計画自体が破棄された」


 計画が破棄された……?

 皇国の開発部隊とは言ったけれど、この兵器がお父さんの仇とどういう関係があるのだろうか?

 考えられるのは、この計画自体が、霧峰さんたちの敵に対する対応策で、それが失敗したから怒っているという話……かな?

 うーん。皇国自体が敵って想像もできないし、話の流れがまだ読めない。


「その兵器……うまく行ったら霧峰さんが使う予定だったんですか?」


 思いつくままに言った私の言葉に、彼はふっと苦い笑いを漏らして、その後また言葉を繋ぐ。


「計画が立ち上がってからずっとあの手この手で経過を見守っていたよ。最終的に失敗して破棄されたと知った時には安堵した。

 回りくどく言ったが、俺が使おうとしたものではないし、この計画が破棄されたと聞いて本当に安堵したんだ」


 じゃあどうして? と聞こうとする私を彼は制する。


「問題は、計画が廃棄された後に、皇国は試作品を屑鉄として産廃業者に売り払ったって事なんだ。

 確かにある程度分解してあったし、関係者以外から見たらどう見ても屑鉄だったろうよ。でも、わかる人間から見たらそれは元に戻せるレベルだったんだ。

 そして、その産廃業者ってのが俺たちの敵の傘下だった。ついでに、計画に参加していた技術者の数名が行方不明になっているって事も合わせて報告があったってわけだ。

 つまり、どういう事か想像がつくか?」


「……この資料にある兵器が、霧峰さんの敵に渡った?」


 ピンときた言葉を端的に表現して、私は想像できたことを口に出した。

 霧峰さんと私の視線がぶつかり合い、彼の肯定によって視線が離れる。


「ハタナカへの叱責は、皇国への非難と同じだ。大方、計画に携わる技術者の誰かが既にツバつけられていて、産廃と偽ってそのまま横流ししたと考えるのが妥当だろう。

 そして、俺がこれから考えないといけないのは、もしもの事があった時の事を考えて、そのクソッタレの兵器に対する対応策だ」


 意識していないだろうか霧峰さんの手がすっと酒瓶に伸び、途中で気付いたのか手を止めてそのまま食べ残りのフルーツに移ってそれを摘まむ。


 大変ですね。なんて他人事の様に言う訳にはいかなかった。お父さんの仇にそんな兵器が渡ったと聞かされたのだから。

 じっと考えながら彼を見つめる私に、フルーツを口に入れたまま彼が軽い口調でこう言った。


「ん、そうだ。奈苗ちゃんならどうやってその兵器を倒す?」


 凄い爆弾というか、予想外の質問に目を白黒させる。


「どうって……?」

「どうもこうも、資料をもう一度見直していいぞ。今なら少しは理解できるだろう?

 もしその兵器が奈苗ちゃんの目の前にいたとしたら、どうやって破壊する? って質問だ。

どんな手を使ってもいいぞ?」


”面白いじゃない?”


 そうイナンナ様に言われても、面白い事ではなかった。でも、「もし」を考えると。そう思って私は真剣に資料を読み直す。


「魔法で攻撃するのはどうですか?」

「やり方にもよるが、相当な高威力でないとダメだろうな。生半可な物理魔法攻撃だと簡単に弾かれると思っていいな」

「炎とか氷とかでも?」

「そういったものでも、単純なものだったら中身が魔術師だから無効化されると思っていい」

「戦車とかはどうですか?」

「遠距離狙撃だと多分感知されて回避されるな。動物並みの感覚と敏捷性を備えていると思った方が良い。相手が3-4mサイズの人間型のな」

「遠距離がだめなら近距離なら?」

「戦車砲が至近距離でうまく当たれば可能性はあるな。ただ、その距離だと当てに行く前に白兵戦で戦車の方がやられると思った方が良い。戦車砲で効果が出そうな距離だと、戦車としての強みが生かせなくなる」

「じゃあ……飛行機?」

「搭載する武器は?」

「……そこまではわからないです」

「まぁ、そうだな。戦闘機で一般的な武装で考えると、機銃、ミサイル、爆弾って所か。

 機関銃であればほぼ回避か防がれるだろうな。ミサイルは迎撃されるのは確実として、可能性が高いのは方法は広範囲型の爆弾とかになるだろうな。面制圧すれば流石に勝てるだろうさ」


 正直なところ、話の主導権は私に振られているようでいて霧峰さんがまだしっかりと持っていた。

 悔しいけれど、私では全然わからない。


「詰まるところ、近距離から大火力でぶち抜くか、逃げられないようなぐらいの広範囲での爆撃とかぐらいしか対応が思いつかないってわけだ。ああ、中の人のエネルギー切れってのが一番可能性が高い所ではあるが」


 と、最後に彼は締め括った。


「ああ、先に行っておくが、前回みたいな家をすり替えるような大規模な罠は確実に来るとわかっていないと使えないんだ。根回しも、費用も、時間もかかるしな。だから今回は却下だな。

 こんな状態で、もし市街地にそんな物騒なものが出てきたとしたら始末するまでにどれぐらい被害が出るか、考えるだけで頭が痛いもんさ」


 そう言った霧峰さんの顔は、飲んだくれていた時の顔からはかけ離れていて、いつの間にやら、いつも以上に真面目な顔に戻っていた。


「さて、改めて意地の悪い事を聞こう、奈苗ちゃん」


 居座りを直して私に正対した彼は、続けてこんな事を聞いてきた。


「どうして俺がこんな資料を見せたかわかるかい?」


 だらしなさも飄々さも消えて、真剣さのみが残る表情で私を見据える。


 お父さんの仇につながる情報だから。親切心で見せた……? そんな単純な気がしない。何かが引っかかってそれを口に出すのは躊躇われた。


「……」


「安直に言わないようで安心したよ。

 理由はね、俺はこんな事をやっている相手とやりあっている。危ないから奈苗ちゃんは絶対に安全な所で結果を待っていてくれって事なんだ」


 そう彼は言って、この後私の反論を許すことなく、この場はお開きとなってしまったのだった。

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