4-7 新兵器の真相

 霧峰さんが私の注いだ葡萄ジュースを飲み干した後で、私たちは軽く食事を取った。

 「なんか、久しぶりに腹減ったわ」と彼が言ったから、話の前に食事と言う流れになってしまっていた。

 話を聞くと、どうも、彼はここ最近仕事ずくめでろくにご飯も睡眠も取っていなかったらしい。


「体調ぐらい魔法で何とでもなるからと言って、栄養もろくに取っていなかったからなぁ。やることが山積みだったとはいえ、流石に体は気遣った方がいいか」


 いつも通りの飄々とした話し方に戻っていたが、内容的にはそれだけ今の問題に集中していた事を暗に霧峰さんは言っていた。



 ルームサービスで用意されていた食べ物を粗方食べ終えた後で、機を見計らったように彼は切り出した。


「それで、いつになったらその資料を見るんだ? 奈苗ちゃんは」


 機密書類だと聞いたそれは、ぞんざいに扱うわけにもいかなく、資料の束は落とさないように私の膝の上にずっとあった。


「本当に見ていいものなんですか?」

「ああ、むしろ見てくれ。非常にクソったれなものだから。

 ああ、こういった方がいいか、俺達の敵の情報だ」


 その瞬間、私は即座に見る事を決意する。


”現金ね”


 と、イナンナ様から声が掛かっても、それを自認しているから気にしない。


「じゃあ見てみます」


 意を決して見てみた表紙には、極秘というハンコと、それに重ねて廃棄というハンコが押してあった。

 それらの後ろにはこんなタイトルが印刷されていた。


 『魔術起動式 自立歩行型起動鎧 開発計画書』


 一枚目をめくると、そこから既にページ狭しと文字の洪水に埋められていた。

 ぺらぺらと飛ばしてみて、ようやく見つけた白いページには、人型ロボットのような構造図が詳しく記載されていた。


 ……一言でいうと、私には軽く舐めて読んでもさっぱりわからない代物だった。


「なんなんですか? これ?」

「何もかにも、そのままの代物さ。この国の、皇国の極秘で運営されている兵器開発部隊の新兵器の計画書だ」


 そんなこと言われてもさっぱりわからない。


「そう、こんなこと言ってもわからなくて普通だよな」


 頷く私に、霧峰さんは長くなりそうな話を始めた。


「まぁどこの国でも同じだが、この国でも兵器は持たないと言いながら開発は進めていたんだ。これがその計画書だ。

 かいつまんで説明すると、これはすごく画期的なものでな。機械と魔術の両方を使って目新しい技術をほぼ使わず、既存の技術だけで軽量化と高性能化を果たした化け物みたいな兵器だ」

「兵器……ですか」

「ああ、兵器だ。人を殺傷するためのそれだ。既存の機械式の兵器と、魔術のいいとこどりを両立してそれを実用的なサイズに落とし込めた兵器ってのは、俺の知る限りではないな」


 かいつまんだ話の二言目から、それはすでに私の理解の範疇を超えている。


「難しいそうな顔をしているな。うん、具体的な例を出した方がわかりやすいか。

 まずは、そうだな。既存の武器だ。マシンガンという単語ぐらいは聞いたことがあるだろう?」


 流石に知っていると頷く。


「高速で弾をばらまけるのは良いんだが、欠点もあってな。銃身が熱くなってそれほど長い間打ち続ける事は出来ない。それと、弾丸自体も自動で打ちまくるとすぐに無くなる。

 その欠点をどうすればいいかって回答に、魔術を使う事を考えたわけだ。

 熱くなった銃身は魔術で冷やせばいい。弾丸が切れたなら、魔術で代用すればいいってな感じでな」


 機械の魔術で補う……? そこだけ聞くとたしかにあまり目新しいようには聞こえない。携帯電話も機械で出来ない事を魔術でやっているんだし。


「逆の利点もあってな。魔術師は結界などで防壁を張ることこそ出来はすれども、実の所、物理的な暴力に対してそれほど強くはないんだ。例えば、銃で撃たれたと認識してから魔法で身を守れる連中なんて世界でも数えるほどしかいないレベルだ。それに、フラッシュボムでもまともに使われたら一発でアウトだしな」


 フラッシュボム。閃光爆弾。それは私が気絶した原因になったもの。


「戦車みたいな金属の塊に魔術師を入れておれば、単純な物理攻撃や不意打ちはかなり防げるって話だ。フラッシュボムも、なんだ、テレビの画面越しに見れば影響は最小限にカットできるって説明すればいいかな。機械の欠点を魔術で補う、魔術の欠点は機械で補う、要はそういう兵器だ」


「機械と魔術でいいとこどりってそういう事なんですね」


 ようやく理解が追い付いたけれど、けれど、一つの疑問が新たに出る。


「そんな便利な事が出来るなら、どうして今までやらなかったんですか?」


「そう、それが最初のポイントだ。

 今までもやろうとした事は世界中でも多々あったんだ。ただし、いざ作ってみても大きすぎて動かなかったり、そもそも理論的に動かなかったりで、まともに使えるものは一切できなかった。それをこの国の技術者連中は、実用性のあるものに作り上げちまったってわけだ」


 霧峰さんは新しく注ぎ直していた葡萄ジュースを、一気にグッと飲み干ししてから話を続ける。

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