4-3 龍神教とは

「何これ? ……龍神教?」


 と、そのパンフレットを手に取った夜野さんが呟く。

 私も他にも何かないかと探すと、その下に先生の手書きのレポート用紙が数枚重なっていた。


「これ、勝手に読んじゃってもいいのかな?」

「勝手に読んだらダメよ。偶然見れる場所にあったから見てしまった事にしましょう」

「何それ、すごく強引」


 取ってつけたような理由を二人で作った後で、そのレポートを読み始める。


「これ、清書前の下書きみたい」


 話の内容は纏まっていないが、そのレポート用紙には数枚に渡り、走り書きで色々な情報が書き殴ってあった。

 レポート用紙を読みこんで必要な情報だけ頭に入れていく。


 最初の数枚は龍神教に関しての情報だった。

 かいつまむとこんな感じになるのかな。


 ・ 新興宗教で、信者がすごく増えている。

 ・ 駅前での勧誘や、人づての勧誘が多い。

 ・ 胡散臭い再生治療や、魔力の向上等をうたい文句にしている。

 ・ 金銭的な要求はほぼ無く、その代わりに定期的集会への参加が必要らしい。


 魔力の向上って所に〇が付いていたので、多分これがキーなんだろう。

 これだけ見ると、普通のよくあるインチキそうな新興宗教に見えるけど。


 そして、別のレポート用紙には、行方不明者の名簿があった。

 名簿には、全学年合わせて13人も(!)名前が連なっていた。

 その横には最後の目撃情報とか、個人的な情報がびっしりと書き詰めてある。

 あんまりしっかり読むのも悪い気はしたけれど、置いてあるって事は読んでいいんだよねと思って、私はさらに読み進めていく。


 結果、わかったことは、直接的に勧誘を受けた人数より、勧誘を受けた人から誘われてついて行ったらしい人数の方がほとんどと言う事だった。

 これ、全然どう調べたのかわからないけれど、勧誘日と最終確認日が別になっていたりする。

 しかも、誘った人の所には魔力反応の拡大ありと走り書きが付けられたりするし。


 魔力反応の拡大……?


 それって、本当に宗教でご利益があったって事なんだろうか?


 なんて事を考えながら、一つのストーリーを組み立ててみる。

 学生のAさんが、龍神教に勧誘を受けた。

 何回か行っているうちに、何かが起きて本当に魔力が増えたらしい。

 それを学校で友達に見せて興味を持たせてから、友達のBさんとCさんを龍神教に誘った。

 そして、Aさんも友達もみんな揃って四日前から行方不明。


 うわ……これ、酷い。芋づる式ってやつだ。


 事の次第を読み込んでいくうちに、どんどんとその問題性に気付かされる。


「稲月さん、あなた……は大丈夫よね?」


 ちょっと胡乱な目で見て来る夜野さん。


「大丈夫だよ。夜野さんの方こそ?」

「愚問ね。そんな新しく出て来た神様なんてものに惑わされる私じゃないわ」


 そう、これは私にとっても愚問だった。

 私を含め、家は代々、世界最大宗教のベール教の敬虔な教徒だし、その主神にして大神マルドゥクを主に置いて、仕える神々の名前は全て覚えている。

 神様なんてそんなポンポン増えるわけもないし、新興宗教なんて、全てがインチキか邪神でも祭っている邪教だと信じている。


 ……邪神? 邪教?


 邪教……、邪教、邪教。

 そう言えば、誰か身内でベール教の敵と戦っている人がいたような。


 カチリと、頭の中で鍵が合わさった気がした。


「そっか。これかもしれない」

「えっ? 何が?」

「ううん、あ、うん。いや、何でもないよ?」


 つい口に出してしまった事を取り繕ってみるけれど、


「稲月さん、隠しても無駄よ? ちゃんと順を追って説明して頂戴」


 ダメだった。


「……うん。でも、これ、私の個人的な事だよ?」

「ってことは、危ない事なんでしょ? ああ、それじゃあお父さんの仇がこの龍神教だっていうの?

 もしそうなら、なおさら詳しく話して貰わないとダメだわ?」


 ああ、これ、全部バレバレだ。


「じゃぁ、続きは放課後でいい?」

「ええ、じゃあ放課後にまたここで話しましょう」


 と、タイミングよく昼休みが終わる予鈴がなった。



 午後からの座学は、特にこれと言う事も無く終了した。

 改めてクラスを見回したけれど、停学開けだった朝倉さんが風邪で早退したぐらいで、うちのクラスメイトは大丈夫そうだった。

 意識して見ていなかったけれど、朝倉さんは朝から調子が悪そうだったらしい。

 昼休みに保健室に行ったら熱があったそうだ。


 放課後になって、教室から視聴覚準備室への移動の合間に私と夜野さんは軽く声を交わす。


「停学開け早々なんだし、この前の事件の後遺症とかでなければいいのだけれど」


 夜野さんは朝倉さんの事を気にしているようだったけれど、真相を知る私はその言葉にうんと軽く合わせる事しかできなかった。


「稲月さんは……、後遺症なんてなさそうよね」


 扱いに慣れられたせいなのかどうかはわからないけれど、朝倉さんと違って私への扱いはぞんざいだった。


「それっていい意味?」


 その返事は、夜野さんの別のリアクションで取って代わられる。

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