3-22 私の魔法・二度目の挑戦

「ちょっと待って待って待って待って!!!」


 いざ試さんと集中したのはいいが、詠唱も半ばの所ですぐに夜野さんが叫んだ。


 待てない! 魔力が出ている状態でキャンセルなんて!!


 と内心叫んだところで、私にだけ響くイナンナ様の声。


”私が無理やり止めるわ!!”


 それと共に強烈な倦怠感が私の体を襲い、コントロールを失うというよりは力を強制的に霧散させる形で魔法の発動が止まった。

 直後、頭上に上げていた両手が下がって、いつの間にか集まっていた大量の水が重力に引かれて私に降り注ぐ。


 もうね、冷たいなんてもんじゃなかった。

 一度あることは二度あるとは言うけれど、ホントに冬空の中でずぶ濡れになることが二回もあるなんて。


 へっくしょん!!


 大きくくしゃみをした後、夜野さんを振り返って震える声で聞く。


「どうして止めたの? うまく行ってたのに」


 それはイナンナ様への問いでもあった。


「それは……」


 すぐに走り寄って来た夜野さんからハンカチを借りたけれど、ずぶ濡れの体には役に立たない。


「ハンカチ程度じゃダメそうね。

 とりあえず温風吹き付けるけどいい? しばらく温めて乾かすわよ。このままだと風邪ひいちゃうから」


 凍えながらも頷く。

 温風とは言ったけれど、濡れた体が乾くまでには結構時間が掛かったし、気化熱で結構本気で体は寒かった。


 乾くまでの間に状況を思い起こす。


 正直、私は成功したと思っていた。

 呪文のコントロールによって励起と集中はうまく行っていたし、転換まではうまくコントロール出来ていたと思ったのだけれど、その途中で夜野さんとイナンナ様の両方から止められてしまったのだった。


(どうして止めたんですか?)


 と、乾かして貰っている間にイナンナ様に問う。


”規模の問題よ。あなた、洪水でも起こす気だったの?”


 その答えは私の予想から外したものだった。


(えっ……? 洪水?)


”ナナエはわかっていないわよね。規模がね、そのままだったら洪水でも起こすか、山ごと崩すようなぐらいだったのよ。

 今回は私が無理やり吸い取って止めたけれど、相当な量の魔力が出ていたわよ”


 はぁ、と嘆息まで含めてイナンナ様はそう言った。


(ちょっとだけだったんですよ?)


”あれでちょっとだとしたら、本当にナナエが人間かどうか疑わしくなるわね”


(ひどい!)


”まぁ冗談よ”


(冗談にもほどがあります)


「さっきから目が虚ろになっているけれど、大丈夫? 立ったまま気絶していたりしないわよね?」

「あ、ううん。大丈夫」


 頭を振って会話をイナンナ様から夜野さんに切り替える。


「本当に大丈夫? 立ってるのもやっとだったりしない?」

「あ、ううん、全然大丈夫。まだほら元気よ?」


 頭を振ったせいで水滴が髪の毛から飛び散り、手を振ると濡れた服が体に纏わりついていく。


 っ……くしょん!!


 お陰でちょっと暖かくかくなり掛けていた体がまた冷たくなって、くしゃみが出た。


 あ……しぶき飛んだ?

 大丈夫そう。夜野さん避けている。


「大丈夫だけれど、もうちょっと温めてくれると助かるかな」


 リクエストに答えた夜野さんは、何気ない仕草で温風の温度を上げて私に吹き付ける。

 その様子からは詠唱を挟んでいるとはみじんにも見えない。


 私の体と服がすっかり乾いたころには、夜野さんは昨日と同じようにかなりげっそりとした表情になっていた。

 昨日は全力疾走で、今日は綱渡りみたいな魔法の使い方だわ。と呟いている夜野さんを前に、体の具合を確かめるために軽く動かす。


 うん。昨日と違って私は問題なさそう。体の中の魔力は全然使っている感じがしないし。


「また……夜野さんの方がフラフラになっちゃったね」

「仕方ないわよ。そのままで風邪引かすわけにもいかないし」


 それにしても……と言いながら、ゆっくりとした動きで姿勢を整えつつ夜野さんは続ける。


「あれだけ魔力を使っておいて、なんでそんなにピンピンしてるのかしら」


 と、それはイナンナ様が言った事と同じような。


「あれだけ……って、これでも絞ったんだけれども」


 夜野さんの目がキッと見開かれた後に、うんざりしたような視線に変わる。

 その後、何かを言おうとしてから口を閉じて首を振った。


「とりあえず今日はもう帰るわよ。山を降りるまでは肩を貸してもらえると助かるのだけれど」

「あ、うん。わかった」


 まだ来たばっかりじゃない、とは言えないよね。

 横に立って肩を貸すと、意外にもと言うか、よろめくように夜野さんが私にもたれかかってきた。


「ちょ……、大丈夫?」

「大丈夫。と言えればこんな事頼まないわよ」


 昨日はそれでいいの? とか考えているようだったが、今日の夜野さんは完全に私にもたれ掛かっていた。

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