3-9 私の魔法・発動
単純三段階法。それは、基本的な魔術の方の魔法の使い方だった。
* * * * * * * * * *
単純三段階法
ステップ1:励起
全身から魔力を
ステップ2:集中
熾った魔力を1点に集中させる。励起させた魔力はそのままだと魔法を使うには微量なので、一点に集中させて次のステップに必要な量を確保する。
ステップ3:転換
集中させた魔力を、適性に合った原子の運動に作用させる。これにより魔法としての効果を発生させる。
* * * * * * * * * *
イナンナ様にもそれはわかっているようで、それを踏まえた質問が来る。
”問題があるのはどこのあたり?”
(……集中だと思います)
励起はするまでは大丈夫だった。私の感情の動きで勝手に魔力が励起することもあったので、励起と熾きた魔力の保持は出来るようになっていた。
でも、それを一点に集中させることがうまく出来ず、いつも集中する際に周りに止められていた。
”それなら問題ないんじゃない? サポートは出来ると思うわ”
(それならいいんですけれど)
あまり問題なさそうに言うイナンナ様に一抹の不安を覚えながら、私は魔力を熾すために励起を開始した。
魔力がどうして熾きるかは、基礎研究でもまだ解明されていない。
でも、私の感覚的に言うと、魔力が熾きる時には体中の神経がざわついて、体の中にある小さい小さい粒がはじけていく感じがする。
それを子供の頃に、魚卵を噛み潰した食感に似ていると表現してお父さんに言ったら笑われたけれど。
意識を体の中に集中させると、私の体の中で何かがはじける感じがしてとうとうと湧き出すように魔力が熾こり始めた。
"沢山の魔力はいらないわ。まずは少量だけでいいわよ"
イナンナ様に言われてすぐに魔力を熾すことを止める。
熾してから二、三秒も経たないと思うけれど、少量ならこのぐらいで大丈夫かな。
魔力を一瞬熾しただけだったけれど、私の体から魔力が淡い光を伴ってかすかに漏れていた。
体の中で魔力を流動させて体の中に留めるイメージを作る。出したままだと魔力はそのまま体外に流れ出るだけだけれど、流動、回転させることで体の中で保持が出来る。
”相変わらず非常識な量よね、その魔力量”
……非常識って言われるの二回目。
そう思ったけれど、今の私にイナンナ様に話しかける余裕はなかった。
普通の人は軽く魔力を熾しただけで光る事はない。熟練した魔術師が全力で熾した魔力を集中させると微かに光ることがある……と言うぐらい。
それだけ私の魔力量が多いって事なんだよね。
と、余計なことを考えるだけで体の中で回していた魔力が暴れ、少しだけ魔力が円環から洩れ出る。
ああ、もったいない。もっと集中しないと。
目を瞑って視界を落とす。視界なんて邪魔になるものはいらない。
”安定させたら集中させるのよ?”
ある程度安定したところで、イナンナ様はそう言ってきた。
「はい!」
それを合図に、右手を添えて左手を前に出す。
全身で円環を作って回していた魔力を、腕を通して左の掌に持っていき、そこで改めて球を作る。
私の中ではこんなイメージだった。粒だった魔力を体の中で紡いで糸にし、出来た糸の束を掌に送って毛糸の玉を作る感じ。
魔力でできた毛玉がほつれない様に、いびつにならない様にじっくりと固く固く巻き付けていく。
私の中から魔力と言う名前の毛糸は止まることなく出てくる。
そのまま巻き付けていったらどんどん魔力の玉が大きくなるから、適度に締め付けてサイズを抑える。
そうすれば密度が上がり転換時に効率良く効果がでる。だから、魔力の集中は大事だった。
今まで練習した時はこのあたりで、ちょっと集中したあたりですぐに止められていた。
でも今日は違う。イナンナ様がいる。
集中。集中。集中。
魔力が出る速度が上がる。
”……”
集中。集中。集中。集中。
もっと固く集中させて、いびつにならずに丸く球形に。
これが出来なかったから私は魔法を使えなかったんだ。
だから、ここさえできれば……
過去の失敗を繰り返さないためにも、魔力を集中させることに没頭する。
”…………!!”
私の集中はピークに達した。
この寒さも、周りの音も気にならない。何かが遠くで蠢く感じはするけれど、私の意識は魔力の流れに集中していた。
凝縮されて煌々とした魔力の玉は目を閉じていても眩しかった。と言うか、目を閉じて魔力を使ったせいで、全身の魔力を感じる能力が敏感になっている。
こうなると私の中で前後の感覚が消えてしまう。私を中心にして魔力流れだけが見えるようになってくるのだ。
掌の先に煌々と光る魔力の玉。
それに流れ込む魔力の流れと、その源流となる私の体。
私の体からちょっと上にブレて出ているのが……イナンナ様なの?
私とは少しだけ違う魔力の塊が、私の体から伸びるようにくっついていた。
なんか、キノコみたい。
……ぷっ
これがいけなかった。
余計なことを考えて集中が揺らいでしまった。
その瞬間、
”ナナエ! もうやめなさい!!!”
脳裏に響いたそれは、怒号に近いイナンナ様の声。
びっくりした開いた目に映るのは、左手の先にある煌めく魔力の玉。
ああ、ちゃんとイメージと同じもの出来てるじゃない。
そう思って安堵した瞬間、集中が完全に途切れた。
そして、魔力の玉がほつれ、風船のようにパンと弾け……
次に光が見えた。
…………
……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます