大人編
プロポーズ
卒業から月日は流れ、僕達は成人式を迎えた。
僕はコンビニとファミレスのバイトの掛け持ちで忙しく、成人式には行かず、夜にあるM組の同窓会だけ行く予定だ。
結菜さんと沙里さんの二人とは、たまに会っていたけど、他の皆とは本当に久しぶりだ。
「林君、上がる時間だよ」
「お疲れ様です。お先に失礼します」
今日はいつもより早くバイトを終わらせ、バイトの掛け持ちも今日で終わりだ。
バイトを終わらせ、頑張って貯めたお金を握りしめ、僕はとある場所に向かった。
「結婚指輪を買いたいんですけど」
「いらっしゃいませ。こちらに並んでいるものが人気の指輪になっております」
僕は今日、同窓会が終わったらプロポーズをする。
このためにバイトを頑張ったこともあり、迷わずに指輪を買って同窓会をする居酒屋にやってきた。
「輝久君!」
「一樹君!」
「久しぶりだね! 全然変わらないじゃん!」
「二年しか経ってないんだから、そりゃそうだよ! 皆んなは?」
「まだ来てないみたい」
その時、柚木さんの声がした。
「輝久〜! 一樹〜!」
「柚木さん! 鈴さんも!」
「久しぶりだね!」
「はい! 柚木さんと鈴さん、メイクして可愛くなりましたね」
僕がそう言うと、鈴さんがムスッとした表情をした。
「昔は可愛くなかったの?」
「ますます可愛くなったって意味です! 鈴さんは仕事とかなにしてるんですか?」
「私はアダルトショップの店員」
「へっ、へー」
アダルトショップ行かないようにしよう。絶対だ。
「柚木さんはなにしてるんですか?」
「私は介護の勉強しながら、工場で缶詰作ってる!」
「頑張ってますね!」
皆んな就職してるんだな。
僕なんてまだバイトなのに。
「輝久〜!」
「輝久くーん!」
「美波さん! 真菜さん! ‥‥‥真菜さん、また大きくなりました?」
「え? 確かめる?」
「か、勘弁してください! 美波さんも大きくなりましたね」
「え!? 本当に!?」
「靴のサイズが」
「靴かよ!! しかもサイズ変わってないし!!」
本当に皆んな変わらない。
今のところ、真菜さんの胸が成長したぐらいだ。
「輝久! 皆んな!」
「芽衣さん! 髪黒くしたんですね!」
「社会人だからね!」
芽衣さんもやってきて、髪が金髪から黒に変わっていて大人びていた。
「学生時代も、金髪より黒髪の芽衣さんの方が可愛いと思ってました!」
「なー!? 学生時代ほとんど金髪で過ごしたんだけど!! 早く言ってよ!! んじゃ、黒髪で過ごしてれば輝久と付き合えてた!? ねぇ!!」
「ま、まぁ‥‥‥まぁまぁまぁ」
「誤魔化し方が雑なんだけど」
「皆んなー!! 久しぶりー!!」
「沙里じゃん!」
「お! 貧乳怪獣美波!」
「出たなチビ! って、少し身長伸びたね」
「ま、まぁね!」
***
沙里は、身長が高く見えるシークレットシューズを履いていた。
***
「結菜さんは一緒じゃないんですか?」
「寄る場所あるみたいだよ? でも、もう来ると思う!」
それから十分ぐらい昔話に花を咲かせていると、結菜さんが急いでやってきた。
「お待たせしました!」
すると、芽衣さんが目をキラキラさせて言った。
「うわー! 結菜、ますます綺麗になったね!」
「ありがとうございます! さっき、外に莉子先生がいましたよ! 子連れで!」
そんな話をしていると、莉子先生が子供を抱っこして入ってきた。
「お待たせ!」
「可愛いー!」
「あらやだ皆んなったら♡」
喜ぶ莉子先生を見て、僕は冷めた表情で言った。
「子供がね」
「久しぶりの再会なのに冷たくない!? ほら、
「ぶー」
か‥‥‥可愛い‥‥‥。
沙里さんは莉子先生の子供、美希に質問しだした。
「莉子先生は可愛い?」
「ぶー」
「美希に変なこと聞かないの!」
芽衣さんも面白がって美希に質問した。
「ぶーぶーって、美希ちゃんは豚さんなのかな?」
「は?」
「え!? 今完全に『は?』って言ったよね!?」
「ぶー」
「本当はもう喋れるんじゃないの?」
「ぶー!」
まぁ、もう喋れる年齢な気もするけど。
美希に夢中のみんなに、莉子先生は嬉しそうに言った。
「もう皆んな大人だからね、今日はお酒もじゃんじゃん飲んでね!」
お酒‥‥‥嫌な予感しかしない。
「僕、お酒飲めないんですけど、皆んなはよく飲むんですか?」
「俺はよく飲むよこの前、拓海君と飲みに行ったし」
「拓海君と!?」
「うん!」
人生分からないもんだな。
「輝久君! なんで隣に来てくれないの!」
「結菜さん、もう酔っ払ってるじゃないですか」
「酔っ払ってないもん! 早くこっち来て!」
「分かりました分かりました」
美波さんが僕達二人を見て言った。
「まさか、二人がまだ続いてるとはね」
「お姉ちゃんは彼氏いないの?」
「いないよ! 芽衣は?」
「いるわけないでしょ、柚木は?」
「いないいない、ばー!」
返事しながら子供と遊んでるし。
柚木さんは相変わらず明るい人だな。
「鈴もいないよね」
「なんで私だけ決めつけるの!?」
「んじゃいるの?」
「いないけど‥‥‥さ、沙里ちゃんは?」
「おい店員!! マシュマロはまだか!!」
「マシュマロは置いてません!」
沙里さん、完全に酔っ払ってるし‥‥‥。
酔っ払って顔が真っ赤になっている沙里さんを見てみんな笑っていると、一樹くんが無神経にも、平然と口を開いた。
「皆んな、まだ輝久君のこと好きなんですよね」
全員ビクッとして黙り込むと、結菜さんが立ち上がった。
「皆んな輝久君のことが好きなんだなのか!」
「結菜さん? 日本語がエラー起こしてます」
「私は輝久君と清く正しい恋愛をしてる! 何年も付き合ってるのに、エッチもしたことない!」
「ゆ、結菜さん!?」
沙里さんも立ち上がった。
「ヒック」
「しゃっくりしてますけど大丈夫ですか?」
「輝久〜! まだしてないとかそれでも男か〜!」
「沙里さん、やめて、僕の頭揺らさないで」
「練習させてあげる。ちゅ〜」
「ストップストップ!」
「沙里さん! 私の輝久君に変なことしないで!」
「やだー!」
二人は取っ組み合いになり、倒れた拍子にそのまま寝てしまった。
「お酒飲んで、こんなとこで寝たら体調崩しますよ」
僕は、抱き着きあって眠る二人に、コートをかけてあげた。
それを見た柚木さんは言った。
「この三人、本当に親子みたい」
「あはは‥‥‥」
※
話は盛り上がり、しばらく経った頃に二人も目を覚ました。
「結菜さん、この後、大事な話があるんですけど‥‥‥二人でどこか行きませんか?」
「わ、私も大事な話があります」
「分かった」
その会話を聞いていた沙里さんは、立ち上がって言った。
「二次会だー!」
「おー!」
「俺は明日早いから帰るよ」
一樹くんは一人で帰宅し、皆んないい感じに酔っ払って、結菜さんと僕を置いて二次会に行ってしまった。
「それじゃ、先生も帰ろうかな! 結菜さん、またお家行くからね」
「はい! お待ちしてます!」
結菜さんは、笑顔で赤ちゃんに手を振った。
「それじゃ、僕達も出ましょうか」
「はい」
僕達は、僕達が初めて出会った公園までやってきた。
「寒いね」
「そうですね。このベンチ、まだあったんですね」
「そんな簡単になくならないよ」
「なくならないでほしいです」
「そうだね‥‥‥ゆ、結菜さん!」
「はい」
***
その頃、沙里達は公園に近づいてきていた。
「どこもかしこも満員とか最悪!」
「この時期は仕方ないよ」
「もういい! ブランコ乗る!」
沙里が公園に入ろうとしたその時、美波が沙里の手を後ろに引っ張った。
「静かに。輝久と結菜だ」
全員、物陰に隠れて二人の話を聞いた。
「僕達は、まだ大人になったばっかりだけど、僕と結菜さんなら、ずっと一緒に幸せでいれると思う。だから‥‥‥」
輝久はベンチから立ち上がり、ポケットに入れていた指輪を差し出した。
「僕と結婚してください」
「‥‥‥はい」
「本当に!?」
「はい!」
結菜は笑顔のまま涙を流して返事をした。
「そ、それで、結菜さんの話って?」
「わ、私も今日、輝久君にプロポーズをしようかと‥‥‥そ、それでビックリしたんですけど、これ」
結菜は、輝久が準備した指輪と、全く同じ指輪を差し出した。
「同じだ!」
「指輪は被ってしまいましたが、同じ日に同じことを考えていたことが、とても嬉しいです。私今‥‥‥とても幸せです」
「僕も幸せだよ。指輪、はめていいかな」
「はい」
輝久は結菜との婚約指輪を外し、結菜に結婚指輪をはめた。
結菜も同じ様に、輝久に指輪をはめてあげた。
「明日、一緒に婚姻届を出しに行こう」
「はい。余った指輪は、大切に閉まっておきましょう」
「そうだね!」
その頃、美波は涙を流す沙里の手を握っていた。
「‥‥‥沙里?どうして泣いてるの?」
「分からない」
「おめでとうって言ってあげなきゃ」
「‥‥‥うん」
全員、一斉に物陰から飛び出して言った。
「おめでとう!!」
「皆んな!?」
「皆さん、見てたんですか!?」
「あったりまえ!」
その後、芽衣と鈴がコンビニにお酒を買いに行き、公園で二次会と結婚祝いをすることになった。
芽衣と鈴がコンビニにいる時、芽衣は失恋した気持ちを思い出して号泣してしまい、鈴が慰めて戻って来たが、芽衣は笑顔で振る舞った。
***
違和感を感じる。
皆んなの表情が、時々寂しげな表情に変わる瞬間がある気がする‥‥‥気のせいかな。
そして全員帰った後、僕と結菜さんは、二人で僕の家にやってきた。
「あら! 結菜ちゃん、美人さんになっちゃって! 久しぶりね!」
「ありがとうございます! お久しぶりです!」
「お母さん、大事な話があるからリビングで話そう」
三人でリビングの椅子に座り、僕は深呼吸をして気持ちを整え、母親に打ち明けた。
「えっと、結菜さんと結婚することになったから」
「え!?」
結菜さんは恥ずかしそうに頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします」
「いつ!?」
「さっきプロポーズして、明日婚姻届を出しに行くんだ」
するとお母さんは、結菜さんの手を握って言った。
「おめでとう!! ほら、呼んでみて!」
「お‥‥‥お母さん」
「いい響き!」
結菜さんも、お母さんも嬉しそうでよかった。
「結菜さん、今日は泊まっていってよ!」
「いいんですか?」
「もちろんよ!」
お母さんも賛成してくれて、結菜さんは泊まっていくことになった。
僕の部屋で結菜さんは、愛梨さんや宮川さん、莉子先生、お爺さんお婆さんに、電話で結婚報告をして、電話越しにお祝いされて、僕達は幸せな気分に包まれている。
そして同じベッドに入ると、結菜さんは恥ずかしそうに言った。
「その、結婚してからって約束、えっと、その‥‥‥」
「なにも言わなくて大丈夫です」
僕は優しく結菜さんを抱きしめ、僕達は初めて体で愛を確かめ合った。
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