今年も始まった

年が明け、僕は家で餅を食べている。


そういえば、初詣の約束とかしてなかったな。

皆んななにしてるんだろう。神社行ってみようかな。

そう思い立って一人で神社へやって来ると、たまたま鳥居の前で柚木さんを見つけた。


「あ! 柚木さん!」

「輝久だ! 一人なの?」

「はい! 誰とも約束してなくて、神社に来たら誰かいるかなと思ったら柚木さんがいました!」

「なんか凄い! 一緒にお参りしよ!」

「そうですね!」


二人でお参りを済ませて、柚木さんがトイレに行っている間に、僕はおみくじを買いに室内に入った。


「あけましておめでとうございます♡」


その声を聞いて、僕はすぐに外へ出ようとした。


「どうして逃げようとするんですか? やましいことでもあるんですか?」

「なんで結菜さんがいるの!? 沙里さんまで!」

「アルバイトを頼まれたんです」

「なるほど‥‥‥」


今柚木さんが戻ってきたらまずいぞ‥‥‥。


「お待たせ輝久!」

「柚木さんも来てたんだ! 凄い偶然だね!」

「なに言ってるの? さっき一緒にお参りしたじゃん」


あけましておめでとう世界、さよなら世界。


「一緒にってどういうことですか?」

「結菜!? 沙里も!」

「私がいないと思って浮気してたんですか? いい度胸ですね」

「鳥居の前でたまたま会っただけだよ!」

「なんでですか? なんでたまたま会うんですか?」

「なんでって言われましても‥‥‥」

「たまたま会わないように行動するのが普通じゃないですか? 違いますか? 輝久君」

「他のお客さんが結菜さんの雰囲気に怯えてるから、そのへんで‥‥‥」

「逃げるんですか? 質問に答えてください。それになんで初詣に誘ってくれなかったんですか?」

「誘っても一緒に来れなかったんじゃ‥‥‥」


さっきから黙ってた沙里さんが喋りだした。


「大晦日の日、輝久を信じて、意地でも自分から誘わないって言ってさ、二秒おきぐらいに何回も携帯確認してたよ。バイトが始まるギリギリまで連絡待ってた」

「い、言わないでくださいよ!」

「結菜さん‥‥‥」

「は、はい‥‥‥」

「可愛いすぎるだろー!」


あれ、いつもみたいな慌て恥ずかしがる声が聞こえない。


「嬉しいですが輝久君、毎回私を照れさせて逃げられると思わないでください」

「本当に誤解なんだ! 柚木さんに会いたくて来たわけじゃ!」

「なにそれ酷い!」



***



沙里は、結菜が嬉しそうに手をモジモジしながら怒るのを見て、ニヤニヤしながら微笑ましく思っていた。



***



「と、とりあえず、おみくじ引こうかな!」


僕は二百円を入れて、おみくじを引いた。


「大吉だといいなー‥‥‥大凶だ」

「大凶引いたの!? なんて書いてある!?」

「男女関係のトラブルに注意‥‥‥」


おみくじさん、注意するの遅いよ。


「あ! 輝久達も来てたんだ!」

「芽衣さん達は皆んな一緒に来たんですね!」


まさかの、一樹君を除いたM組全員がこの場に集まった。

一樹君‥‥‥こういう時に呼ばれないとか可哀想。


「あら、皆さんお揃いで、あけましておめでとうございます」

「二人とも巫女さんの服似合うね!」

「ありがとうございます。皆さんはこの後どうするんですか?」

「皆んなでどっか行く?」


鈴さんがそう言うと、結菜さんは凄まじい表情で僕を睨みつけてきた。


「ぼ、僕は遠慮しとくよ」

「えー、せっかくだし出かけようよ!」

「ちょっ! ちょっと真菜さん!?」



***


輝久が真菜に腕を引っ張られて室内を出て行くと、結菜はそれを追いかけようとした。

だがその時


「結菜さんと沙里さん、手伝ってもらって助かるよ」

「あ、いや、えっと、どういたしまして」


沙里は感心した様子でおみくじを見つめる。

(おみくじって本当に当たるのかも)



***




僕達は神社を離れて、商店街を歩いていた。


「皆んな、まずいですよ! 結菜さんの顔見なかったんですか!?」

「遊ぶだけだし大丈夫じゃない?」

「みーなみさん!!」

「なに!?」

「それがヤバイんですよ!! 僕が結菜さんの居ないところで女性と遊ぶのは浮気なんです!!」

「ふへー」

「ふへー‥‥‥じゃないですよ!! 僕の命をなんだと思ってるんですか!?」

「それにしも、一月一日って開いてる店少ないね」

「芽衣さんも呑気すぎ!!」

「大丈夫大丈夫! 結菜ならキスしとけば機嫌良くなるでしょ」

「そ、それもそうですね!」

「あら? 後でキスすれば浮気してもいいと? 輝久君は、そう考えるんですね。そうですか‥‥‥輝久君を連れて行った真菜さん、キスしとけば大丈夫とか言った芽衣さん、浮気した輝久君‥‥‥消えてもらいます!!」

「うわー!!」


まさかの結菜さん登場で、僕と真菜さんと芽衣さんは必死に走り出した。


「逃げられると思わないでください!!」

「なんで!? なんで結菜さんがいるの!?」

「愛梨さんにバイトを変わってもらいました! 早く止まりなさい!!」

「だったらそのカッター捨ててもらえます!?」

「ぐあっ!」

「真菜!!」

「真菜さん!!」


真菜さんは雪で足を滑らせて転んでしまった。


「来ないで!! 行って!!」

「でも!!」

「いいから行って!! 元はと言えば私が悪いんだから!! 行って!!」

「ごめん‥‥‥真菜さん!」


僕と芽衣さんはまた走りだした。


「真菜さん、あの二人を捕まえたら命だけは助けてあげます」

「ほ、本当に?」

「早く追いかけますよ」


結菜さんは真菜さんを味方につけてしまった。


「芽衣さん大変です! 真菜さんが裏切りました!!」

「くそー! 真菜の奴許さん!」

「なんで芽衣さんといると走ることばっかり起きるんですか!」

「知らないよ! ひー!! 結菜が︎真後ろまで来てる!!」

「捕まったら死にますよ!!」

「ねぇ輝久君? どうして逃げるんです? 逃げないでくださいよ」

「輝久ごめん!」

「う、うわ!」


芽衣さんは僕に足をかけ、まさかの僕をおとりにしたのだ。


「芽衣さん! 絶対僕のこと好きじゃないですよね!」

「好きだけど死にたくない!!」


あれ、結菜さんが僕を置いて通り過ぎて行ったぞ?

真菜さんは‥‥‥バテバテだし。


「なんで!? 輝久を捕まえないの!?」

「芽衣さん、輝久君になにをしました? 輝久君を傷つけていいのは私だけなんです。久しぶりに私を本気で怒らせましたね」

「謝る! 謝るからー!」

「なら止まりなさい!」

「は、はい!」

「捕まえた」

「ゆ‥‥‥結菜?」


結菜さんは後ろから芽衣さんに抱きつき、首にカッターを当てた。


「結菜さん! ストップ!」

「真菜さん、輝久君を逃さないでくださいね」

「結菜ちゃん、落ち着いて落ち着いて!」

「芽衣さん、私は鬼ではないので命乞いぐらい聞いてあげますよ?」

「助けて輝久!」

「結菜さん? 命乞いぐらい聞くとか鬼ぐらいしか言いませんよ」

「なに挑発してるの!?」

「輝久君、内臓をアクセサリーにされるのと、蝋人形にされるの、好きな方を選んでください」

「犯罪係数三百オーバーしてそうな発言やめてください」

「もう! なんでそんな意地悪なことばっかり言うんですか!」


あ、芽衣さんから離れた。


「輝久君はたまに意地悪です!」

「す、好きな人には意地悪したくなるじゃん?」

「それじゃ、私以外には意地悪しませんか? したらそれも浮気ですよ?」

「しません!」

「輝久君は今日だけ許してあげます。さて芽衣さん‥‥‥」

「芽衣さんなら全力で逃げて行ったけど‥‥‥」

「真菜さん♡ 捕まえてきなさい♡」

「は、はい!」


その後、芽衣さんは真菜さんに捕まり、結菜さんに命乞いして死なずに済んだが、積もった雪に変顔したまま顔を押し付けて、顔型をSNSのアイコンにするという恥ずかしい罰を受けた。

今年も‥‥‥始まったな。

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