停止
みんなで車に乗り込み、柚木さんが入院している病院に向かう途中、結菜さんが莉子先生に聞いた。
「先生! 柚木さんどうしたんですか?」
「詳しくは分からないの。看護師さんが、来れるのであれば来てあげてほしいって」
それから病院に着くまで、誰一人として喋る人はいなかった。皆んな不安なんだ。
※
そして病院に着き、全員で柚木さんの病室に走った。
病室の前に着いた時、病院の先生の声が聞こえてきた
「一、ニ、三」
「もう一回!!」
「一、ニ、三」
僕達に気づいた看護師さんが、状況を説明してくれた。
「柚木さんのお友達ですね! 柚木さんは今、心肺停止状態です。今先生が頑張っていますので、しばらくこのまま廊下でお待ちください!」
それを聞いた莉子先生と、僕達は全員、その場で静かに涙を流した。
結菜さんは病室の扉に手をついて、泣きながら小さな声で柚木さんの名前を呼び続ける。
「柚木さん‥‥‥」
病室の中からは泣きながら柚木さんの名前を呼ぶ、お婆さんとお爺さんの声がする。
心臓マッサージ機の様な音が生々しく響いている中、僕達はただ祈り、泣くことしかできなかった。
※
しばらくして、心臓マッサージの音が止まり、お婆さんとお婆さんの泣き声が大きくなった時、病院の先生が出てきた。
「残念ですが」
先生のその言葉に、僕達は言葉が出なかった。
「側にいてあげてください」
全員で病室に入り、柚木さんの顔を見つめる。
それでも、皆んなは何も言わず泣くだけだった。
そして結菜さんが堪えられず、大泣きしながら柚木さんを抱きしめる。
「死なないで!! これからは体育祭も学園祭も参加できるんですよ? 柚木さん、皆んなで参加しよって言ってたじゃないですか!! 約束ぐらい守ってください!! 嫌です‥‥‥起きてください‥‥‥」
その時、柚木さんについていた心電図が動きだした。
「結菜さん!! これ!!」
結菜さんは心電図を見て、急いで病室の扉を開けた。
「先生!! 柚木さんが!!」
病院の先生が走って戻ってきて、心電図を見て驚いた。
「奇跡です‥‥‥皆さん、柚木さんの名前を呼んであげてください!」
先生が柚木さんの目にライトを当てたり、心臓の音を聞いたりしている中、僕達とお婆さんとお爺さんが、必死に柚木さん名前を呼び続けた。
すると先生が一安心したように言った。
「まだ意識はありませんが、心臓は正常に動いています。ですが、まだ何が起こるか分かりません。何かあった時にすぐ来れるようにしておいてください」
全員が安心から、また涙が止まらなくなってしまい、莉子先生が涙を拭いて言った。
「学校には私が説明するから、今日はここにいてあげましょう」
するとお婆さんが泣きながら言った。
「本当にありがとうございます。きっと、皆んなの声が届いたんだと思います」
「柚木はきっと起きます。これからも仲良くしてやってください」
僕達は声を合わせて言った。
「もちろんです」
それからしばらくして、お婆さんとお爺さんは帰っていき、芽衣さんは結菜さんの左手と手を繋いだ。
「ごめん」
「ごめんなさい」
二人は無事仲直りして、莉子先生は一度学校に戻り、後で僕達を迎えに来ることになった。
僕達は病室内に座り込み、柚木さんが起きたら一緒にしたいことを話し始めた。
「体育祭と学園祭はもちろんだけどさ、一緒に修学旅行いきたいよね!」
「M組の生徒にも修学旅行ってあるんですか?」
「あるよ! 皆んなは海外に行くらしいけど、M組の生徒は国内で修学旅行だって!」
「そうなんですか。修学旅行って何月なんですか?」
「七月らしいよ! 輝久は一緒にしたいことある?」
「僕は、また皆んなで牧場に行きたいです。次は冬じゃなくて、外に牛が沢山いる時に!」
結菜さんが優しい柔らかな表情で言った。
「いいですね。私もまた行きたいです」
「きっとまた行けるよ! 結菜さんは何がしたい?」
「私は皆んなで遊園地とか行きたいですね。きっと楽しいです」
真菜さんが椅子に座り、体を揺らしながら言った。
「遊園地とか、小学生以来行ってないなー」
「皆んなで行きましょうね。真菜さんは何がしたいですか?」
「私は、柚木ちゃんがやりたがってたクリスマスパーティーかな!」
「いいですね! 俺の誕生日でもありますし!」
「クリスマスパーティーが優先!」
「えー、今年こそは祝ってくださいよ」
「気が向いたらね。一樹君は何がしたい?」
「俺は動物園とか行きたいですね! 動物を見た柚木さんが、はしゃぎだす光景が浮かびます!」
それを聞いた芽衣さんは、嬉しそうに立ち上がる。
「分かる分かる! 柚木って、本当子供みたいに楽しむからいいよね!」
「はい! 芽衣さんは何がしたいですか?」
「そうだなー、柚木が行きたいって言った場所ならどこにでも一緒に行きたいな」
「もしハワイに行きたいって言ったら?」
「行くよ! 結菜のお金で!」
「柚木さんの分だけ出します」
「私の分は?」
「バイトでもしてください」
「ケチ!」
「同級生にハワイ旅行をねだる女子高生なんて、聞いたことがないです」
「結菜お金持ちなんだから、ちょっとぐらいいいじゃん。お願い!」
「体でも売ったらどうですか? 芽衣さんならそういうの得意そうですし」
「は?」
「はい?」
やばい、また喧嘩が始まりそう。
「あ、あの、病院だからそれくらいで‥‥‥」
僕がそう言うと、結菜さんと芽衣さんは睨み合いながら黙り込んだ。
またちょっと仲悪くなっちゃったけど、これでも最初の頃とは比べ物にならないくらいマシな方だ。
最初の頃なんて、騙し合い殺し合いみたいなレベルだったもんな。
まぁ、喧嘩するほど仲がいいみたいな関係なんだ、きっと。
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