停止

みんなで車に乗り込み、柚木さんが入院している病院に向かう途中、結菜さんが莉子先生に聞いた。


「先生! 柚木さんどうしたんですか?」

「詳しくは分からないの。看護師さんが、来れるのであれば来てあげてほしいって」


それから病院に着くまで、誰一人として喋る人はいなかった。皆んな不安なんだ。




そして病院に着き、全員で柚木さんの病室に走った。

病室の前に着いた時、病院の先生の声が聞こえてきた


「一、ニ、三」

「もう一回!!」

「一、ニ、三」


僕達に気づいた看護師さんが、状況を説明してくれた。


「柚木さんのお友達ですね! 柚木さんは今、心肺停止状態です。今先生が頑張っていますので、しばらくこのまま廊下でお待ちください!」


それを聞いた莉子先生と、僕達は全員、その場で静かに涙を流した。


結菜さんは病室の扉に手をついて、泣きながら小さな声で柚木さんの名前を呼び続ける。


「柚木さん‥‥‥」


病室の中からは泣きながら柚木さんの名前を呼ぶ、お婆さんとお爺さんの声がする。


心臓マッサージ機の様な音が生々しく響いている中、僕達はただ祈り、泣くことしかできなかった。





しばらくして、心臓マッサージの音が止まり、お婆さんとお婆さんの泣き声が大きくなった時、病院の先生が出てきた。


「残念ですが」


先生のその言葉に、僕達は言葉が出なかった。


「側にいてあげてください」


全員で病室に入り、柚木さんの顔を見つめる。

それでも、皆んなは何も言わず泣くだけだった。


そして結菜さんが堪えられず、大泣きしながら柚木さんを抱きしめる。


「死なないで!! これからは体育祭も学園祭も参加できるんですよ? 柚木さん、皆んなで参加しよって言ってたじゃないですか!! 約束ぐらい守ってください!! 嫌です‥‥‥起きてください‥‥‥」


その時、柚木さんについていた心電図が動きだした。


「結菜さん!! これ!!」


結菜さんは心電図を見て、急いで病室の扉を開けた。


「先生!! 柚木さんが!!」


病院の先生が走って戻ってきて、心電図を見て驚いた。


「奇跡です‥‥‥皆さん、柚木さんの名前を呼んであげてください!」


先生が柚木さんの目にライトを当てたり、心臓の音を聞いたりしている中、僕達とお婆さんとお爺さんが、必死に柚木さん名前を呼び続けた。


すると先生が一安心したように言った。


「まだ意識はありませんが、心臓は正常に動いています。ですが、まだ何が起こるか分かりません。何かあった時にすぐ来れるようにしておいてください」


全員が安心から、また涙が止まらなくなってしまい、莉子先生が涙を拭いて言った。


「学校には私が説明するから、今日はここにいてあげましょう」


するとお婆さんが泣きながら言った。


「本当にありがとうございます。きっと、皆んなの声が届いたんだと思います」

「柚木はきっと起きます。これからも仲良くしてやってください」


僕達は声を合わせて言った。


「もちろんです」


それからしばらくして、お婆さんとお爺さんは帰っていき、芽衣さんは結菜さんの左手と手を繋いだ。


「ごめん」

「ごめんなさい」


二人は無事仲直りして、莉子先生は一度学校に戻り、後で僕達を迎えに来ることになった。


僕達は病室内に座り込み、柚木さんが起きたら一緒にしたいことを話し始めた。


「体育祭と学園祭はもちろんだけどさ、一緒に修学旅行いきたいよね!」

「M組の生徒にも修学旅行ってあるんですか?」

「あるよ! 皆んなは海外に行くらしいけど、M組の生徒は国内で修学旅行だって!」

「そうなんですか。修学旅行って何月なんですか?」

「七月らしいよ! 輝久は一緒にしたいことある?」

「僕は、また皆んなで牧場に行きたいです。次は冬じゃなくて、外に牛が沢山いる時に!」


結菜さんが優しい柔らかな表情で言った。


「いいですね。私もまた行きたいです」

「きっとまた行けるよ! 結菜さんは何がしたい?」

「私は皆んなで遊園地とか行きたいですね。きっと楽しいです」


真菜さんが椅子に座り、体を揺らしながら言った。


「遊園地とか、小学生以来行ってないなー」

「皆んなで行きましょうね。真菜さんは何がしたいですか?」

「私は、柚木ちゃんがやりたがってたクリスマスパーティーかな!」

「いいですね! 俺の誕生日でもありますし!」

「クリスマスパーティーが優先!」

「えー、今年こそは祝ってくださいよ」

「気が向いたらね。一樹君は何がしたい?」

「俺は動物園とか行きたいですね! 動物を見た柚木さんが、はしゃぎだす光景が浮かびます!」


それを聞いた芽衣さんは、嬉しそうに立ち上がる。


「分かる分かる! 柚木って、本当子供みたいに楽しむからいいよね!」

「はい! 芽衣さんは何がしたいですか?」

「そうだなー、柚木が行きたいって言った場所ならどこにでも一緒に行きたいな」

「もしハワイに行きたいって言ったら?」

「行くよ! 結菜のお金で!」

「柚木さんの分だけ出します」

「私の分は?」

「バイトでもしてください」

「ケチ!」

「同級生にハワイ旅行をねだる女子高生なんて、聞いたことがないです」

「結菜お金持ちなんだから、ちょっとぐらいいいじゃん。お願い!」

「体でも売ったらどうですか? 芽衣さんならそういうの得意そうですし」

「は?」

「はい?」


やばい、また喧嘩が始まりそう。


「あ、あの、病院だからそれくらいで‥‥‥」


僕がそう言うと、結菜さんと芽衣さんは睨み合いながら黙り込んだ。

またちょっと仲悪くなっちゃったけど、これでも最初の頃とは比べ物にならないくらいマシな方だ。

最初の頃なんて、騙し合い殺し合いみたいなレベルだったもんな。

まぁ、喧嘩するほど仲がいいみたいな関係なんだ、きっと。

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