誰かが傷つく

今日は珍しく、登校中に芽衣さんと会い、一緒に登校することになった。

結菜さんはとっくに図書室で本を読んでるはずだから、多分大丈夫。


「下駄箱にチョコ入れてくれたの輝久だよね? ありがとう!」

「どういたしまして! 一樹君が作ったチョコも、ちゃんと食べました?」

「あー、うん! 食べた!」


なんだ今の微妙な反応は。


すると、芽衣さんはいきなり立ち止まった。


「あの! 輝久」

「どうしたんですか?」

「今まで色々あって、出会ってから結構経つけどさ、輝久は私のことどう思ってる?」

「どうって、どういう‥‥‥」

「だから、その、私が輝久のことを好きなのは知ってるでしょ?」

「はい」

「でも、輝久は結菜とラブラブじゃん? 美波も真菜も、もちろん私も、いろんなこと考えて、二人に気を使ったりしてるの。でも、もちろん嫉妬はする。毎日嫉妬で狂いそう。んで、なにが聞きたいかと言うと、私と輝久は、もう絶対に結ばれない?」

「今は僕にとって結菜さんが大切です。もちろん、芽衣さんも美波さんと真菜さんも柚木さんだって大切な人ですけど、それはやっぱり友達としてというか‥‥‥」

「そっか! 教えてくれてありがとう! 一緒に学校行ったら結菜に怒られちゃうから、私先に行くね!」


芽衣さんは走って先に行き、僕は後から図書室に入ると、一樹君以外の全員が既に座っていた。


しばらくして一樹君が図書室に入ってくると、一樹君はすぐに芽衣さんに話しかけた。


「芽衣さんチョコ美味しかったです! ありがとうございます!」

「え! う、うん! でもあれ、市販の普通の板チョコだよ?」

「芽衣さんにもらったチョコなら、なんでも一味違います!」

「そ、そうなんだ。ならよかった」


僕は芽衣さんの様子がおかしいことに気づいた。

なんで芽衣さん赤くなってるんだろう。

まさかこれは‥‥‥。


「恋ね」

「わっ! ビックリした」


結菜さんがいきなり話しかけてきて、思わずビックリしてしまった。


僕達は周りに聞かれないように、小さな声で話しを続ける。


「やっぱり結菜さんも思う?」

「はい、見てればすぐに分かります」

「だったら両思いだよ! 二人ともチャンスだよ!」

「私の敵が減る。最高のチャンスですね」

「あ、うん、そうだね」


芽衣さんが登校中に、あんなことを言ってきたのは、最後に僕の気持ちを確かめるためだったのかな。





それから授業を受け、僕は休憩時間に一樹君を図書室の外に呼び出した


「芽衣さん、絶対一樹君のこと好きだよ!」

「え!? なんで!?」

「一樹君と話してる時、顔が赤くなってたし!」

「たしかに! よーし! 今日告白するぞー!」

「今日!?」

「両思いと分かれば怖くない!」

「絶対とは限らないよ!?」

「大丈夫! ちょっと芽衣さんと放課後会う約束してくる!」

「ちょ、ちょっと!?」


一樹君は図書室に戻り、芽衣さんに話しかけてしまった。

振られたら僕のせいにならない!?


「芽衣さん!」

「な、なに!?」

「今日の放課後、屋上に来てくれませんか? 大事な話があります!」


すると、それを聞いていた美波さんが二人を茶化しだした。


「お! 告白!? ヒューヒュー!」

「い、いかない!!」


美波さんに茶化されて恥ずかしかったのか、呼び出しを断ってしまった。


「一応待ってます‥‥‥」





そして放課後、一樹君は震えた脚で僕に近づき、話しかけてきた。


「輝久君、ちょっと来て」


図書室を出ると、一樹くんは急に僕の肩を掴み、血の気の引いた顔で言った。


「輝久君! やばい!」

「どうしたの?」

「緊張してきた」

「あんな自信満々だったのに!?」

「お願い! 一緒に屋上に来て!」

「二人でいたらおかしいでしょ!」

「隠れて見てくれるだけでいいから!」

「面白いですね。行きましょ、輝久君」

「結菜さん!? 聞いてたの!?」

「はい。ほら、行きましょう」


僕達は三人で屋上に向かい、僕と結菜さんは物陰にしゃがんで身を潜めた。


来てくれるかも分からない芽衣さんを待つこと十分。屋上のドアが開いた。


芽衣さんだ!


「話って?」

「き、来てくれてありがとう! 俺‥‥‥初めて会った時から芽衣さんが好きでした!」


芽衣さんは考え込むように俯いてしまった。


「よかったら俺と付き合ってください!!」


一樹くんが頭を下げて数秒後、芽衣さんが答えをだした。


「はい」

「本当に!?」

「う、うん!」

「ありがとう! それじゃ、今日が記念日だね!」

「そうだね‥‥‥」

「それじゃ、今日一緒に帰らない?」

「う、うん、帰ろっか!」


二人は学校の中に戻っていった。

すると結菜さんは立ち上がり、スカートについた誇りを払いながら言った。


「芽衣さん、あまり嬉しそうじゃなかったわね」

「照れてただけじゃないの? それにしてもよかったー!」

「安心するのはまだ早いと思いますよ? 近々、なにか起こるような気がします」

「なにかってなに?」

「誰かが傷つきます」

「なにそれ怖い。でも、無事に付き合えたしよかったよ!」

「そうですね。私達も久しぶりに一緒に帰りましょうか」

「うん! 柚木さんのとこは?」

「もちろん行きますよ」

「了解!」





その日の夜、一樹君から電話がかかってきた。


「もしもし輝久君! 付き合えたよ!」

「おめでとう!! 本当によかったよ!」

「それで明日、二人でデートすることになった!」

「やったじゃん!」


その時、結菜さんの『誰かが傷つく』という言葉を思い出した。


「あの、一樹君」

「なに?」

「芽衣さんと一緒に帰ってて、なんか変わったことなかった?」

「あー、ちょっと素っ気なかったかも。多分恥ずかしかったんだよ! そういうとこも可愛いよね!」

「そ、そうだね! それじゃデート楽しんでね!」

「うん! バイバイ!」


僕は知っていた。

芽衣さんは好きな人と帰るぐらいで恥ずかしがったりしない。

やっぱりなにかがおかしい‥‥‥。

誰かが‥‥‥傷つくか。

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