さらばM組

***



親衛隊の隊長は、放課後にメンバーを屋上に集めた 。


「今日の朝、俺は結菜様の恋人に殴られた! これは許せないことだ!」


殴られる所を見ていたメンバーが言った。


「なんであの時殴られてたの?」

「あ、あれは、いきなり殴られたんだ! 俺は悪くない!」


なんで殴られたか聞いた女子生徒は、本当の理由を知っていたが、その場ではなにも言わなかった。


そして隊長は、続いて皆んなに指示を出し始めた。


「明日、あの男を拉致する! そこで袋叩きだ!」

「おー!」


翌朝M組に、全ての真相を知る親衛隊の女子生徒一人が足を運んだ。


「失礼します結菜様、大事な話があります」

「なにかしら」

「私達の隊長が、今日輝久さんを拉致して袋叩きにすると言っていました」

「何故それを教えてくれたのかしら?」

「昨日の事件を私は見ていました。隊長は皆んなに自分の都合のいいように嘘をついて、皆んなを従わせてるんです! 私はそんなの許せません!」

「教えてくれてありがとうございます。輝久君は私が守ります」

「それでは失礼します」


そんな話をしていると、輝久が登校してきた。



***



「おはようございまーす。今教室の前に親衛隊の女子生徒がいたんですけど、僕を見て逃げて行きましたよ」



***


結菜と話していた女子生徒は氷ついた。


(もしかして聞かれたかも‥‥‥私が結菜様に情報を漏らしたことがバレたら‥‥‥)


女子生徒は慌ててM組を出て行った。


***



「結菜さん、今の人は?」

「親衛隊の方らしいです。輝久君、今日は私から離れないでください」

「いいですけど、なんかあったんですか?」

「寂しいだけです」


うん、シンプルに可愛い!





その日の放課後、莉子先生が教室を出て数秒後のことだった。

廊下から莉子先生の悲鳴が聞こえてきた。


「きゃー!」


ビックリして皆んな一斉に廊下に出ると、そこには、朝に結菜さんと話していた、親衛隊の女子生徒が血だらけで倒れていた。


結菜さんはすかさず女子生徒に声を掛ける。


「大丈夫ですか、聞こえますか?」


女子生徒はか弱い声で言った。


「親衛隊の人にやられました」

「莉子先生、この子を保健室に連れて行ってください」

「う、うん! 分かったわ!」


莉子先生が女子生徒を抱き抱えると、結菜さんは制服を脱いで女子生徒の顔にかけてあげた。

周りの生徒に見られないようにという優しさだろう。

すると女子生徒が倒れていたところに、置き手紙が落ちていて、芽衣さんがそれを拾って読み上げた。


「無事に帰れると思うなよ」


結菜さんは溜息をついたあと、状況を説明してくれた。





それを聞いた僕はシンプルにビビってしまい、脚がガクブルと震え始めてしまった。


「僕もボコボコにされちゃうの!?」

「輝久君は私が守ります。だから大丈夫です」


芽衣さんも高らかにこぶしを挙げて名乗りを上げた。


「私も輝久を守る!」


美波さんと真菜さんも拳をっ‥‥‥真奈さんだけはスタンガンを持ってこぶしを挙げた。


「私達も!」

「俺もいるから大丈夫だよ!」

「皆んなありがとう」

「それにしても、さっきの子を見ると、もうあれはただの犯罪ね」


結菜さんがそう言ったその時、無数の足音がM組の校舎に入ってきた。

親衛隊の人達だ。

隊長は金属バットを持ちながら先頭に立ち言った。


「M組勢揃いじゃん。作戦変更、全員連れて行け!」


親衛隊の皆んなが僕達に襲いかかってくる中、隊長が結菜さんの腕を掴んで、二人は揉み合いになっている。

それを見た親衛隊のメンバーが慌てている。


「結菜様になにしてるの!?」

「この女もボコボコにしないと気が済まない!! お前らは他をやれ!」

「なんで!? 私達を騙したの!?」

「そうなのか? 俺達を!」

「うるせー!!」


隊長のその言葉に、親衛隊のメンバーが動きを止めた。

既に二名ほど美波さんに跪いているけど、多分美波さんにやられたのだろう。


「お前ら! なにやってんだ! 早く全員連れて行け!!」

「私達はあくまで結菜様の親衛隊! 結菜様に酷いことをするつもりはない!!」

「俺もだ!」

「使えねーやつらだな」


隊長は走ってM組の校舎を出て行った。


逃げた‥‥‥?

裏切りがバレて解決かな?


隊長が居なくなり、親衛隊のメンバーは全員気まずそうにしている。

しばらく沈黙が続き、一人の生徒が帰ろうとした次の瞬間、いきなりM組の校舎内に緊急ベルの音が響いた。


「いきなりなに!?」

「落ち着いてください美波さん!」


皆んなが慌てている中、結菜さんだけは冷静だ。


「とにかく外へ出ましょう」


全員で出口に向かうと、出口付近は既に火の海になっていた‥‥‥。


M組の校舎には非常口のようなものはなく、出入り口は一箇所だ。

一度皆んなで校舎の奥に逃げてきたが、真菜さんが恐怖のあまり泣きだしてしまった。


「私達死んじゃうの?」


美波さんが真菜さんの背中をさすりながら優しく言った。


「大丈夫! すぐに助けが来るから!」


親衛隊の一人、男子生徒が教室を指差して言った。


「窓から逃げましょう!」

「よく周りを見なさい。M組は言わば学校の中の牢屋。窓なんて付いていないわ」


M組の校舎に窓は付いていなく、木造建てで火の広がりも早い。

すると、外からスピーカーを通した莉子先生の声が聞こえてきた。


「皆んないる!?」


一樹君がまた出口の近くまで行き、大声で返事をした。


「全員います!!」

「今消防車が来るから! 出来るだけ火から離れなさい!!」


言われた通り、一番奥の壁際から全員動かず、しばらくして消防車が到着したのか、無数のサイレンが聞こえてくるが、全く火が消える様子がない。

それどころか、どんどん火が広がり、僕達は煙を吸わないように必死になることしかできなかった。

そんな中、僕は思い出した。


「トイレです! トイレに小窓があります! 一人ずつなら出れるはずです!」


全員でトイレに向かい、まずは結菜さんを小窓から出して、先生を呼んでくることになった。

僕と芽衣さんで結菜さんを持ち上げて、結菜さんは無事外に出ることができた。

こんな状況なのに、もう大切な人が死ぬことはないと思っただけでホッとしてしまう。


「今先生を呼んできます!」

「お願いします!」


次に真菜さん、美波さん、芽衣さん、一樹君の順番で外に出ることに成功した。

そして僕が出ようとした時、トイレに黒い煙が入ってきて全員がテンパり、僕は後ろの方に押されてしまった。

親衛隊のメンバーが次々と自力で外に出る中、結菜さんが莉子先生と消防隊の人を連れて戻ってきた。


すると、莉子先生は安心した様子で言った。


「よかった、皆んな逃げれたのね! 早く避難しましょう!」

「輝久君! 輝久君はどこですか!?」


結局最後の一人になってしまった僕は、少し高めの位置にある小窓に手が届かなく、一人苦戦していた。


「誰か助けてください!!」

「輝久君! 早く出てきてください!」

「手が届かないんです!!」

「危ないから離れなさい!」

「早く輝久君を助けてください!!」


消防隊員の人と結菜さんの慌てた声が、更に恐怖心を煽る。


「私達が助けるから、君達はグラウンドに避難しなさい! 先生! お願いします!」

「はい!」


みんなは莉子先生に連れられて避難したみたいだ。


「窓からロープを入れるから、登れるかい?」

「やってみます!」


窓から入れられたロープを力一杯握りしめながら、必死に窓から手を出すと、一気に消防隊員の人に引っ張られ、なんとかそとに出ることができた。


「いつ爆発が起きるか分からない! すぐに避難するよ!」

「はい!」


消防隊員とグラウンドに向かう途中、炎が何かに引火して爆発音が響いた。



***



グラウンドにいた結菜達からは、全てが見えていた。

結菜は、輝久が爆発に巻き込まれたと思い、絶望に顔をしかめて、声を出せなかったが、グラウンドに輝久が走ってくるのが見えて、結菜は輝久に向かって走った。


「輝久君! 無事だったんですね!」

「はい! 死ぬかと思いましたよ」 

「生きててよかった‥‥‥」

「みんなの前で抱きつかれたら恥ずかしいですよ」


輝久は顔が黒くなっていたが、怪我もなく無傷だった。


だが、みんなが好きなM組は全焼してしまい、全校生徒は急遽帰宅となった。





その日の夕方のニュースで、学校の火事がニュースになり、ニュースによると一人の男子生徒が放火の疑いで逮捕されたそうだ。



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