性なる夜

あれから結菜さんは、毎日柚木さんのお見舞いに行っている。


今日は十二月二十五日、クリスマスの日で、冬休み初日だ。

本当なら皆んなでクリスマスパーティーをする予定だったが、柚木さんはまだ目を覚ましていない。

一樹君には申し訳ないが、一樹君の誕生日パーティーも今年は行われなかった。



***



クリスマスの日も、結菜は雪降る空の下で、歩いてお見舞いに行っていた。

病室に着くと、結菜は目を覚まさない柚木に、クリスマスプレゼントを渡した。


「柚木さん、今日はクリスマスですよ。プレゼントを持ってきました。ミサンガです」


結菜は柚木の右腕に、オレンジカラーのミサンガを結んであげた。


「また元気に遊べるように、そんな願いを込めました。きっと叶いますよね」

「あれ? 結菜も来てたんだ」


たまたま芽衣もお見舞いにやってきた。

芽衣も椅子に座り、結菜と話をはじめた。


「クリスマスパーティー、したかったね」

「そうですね。来年は柚木さんも含めて、絶対にやりましょうね」

「結菜さ、丸くなったよね」

「そんなに太ってないです」

「そうじゃなくて、優しくなった」

「これが普通ですよ。輝久君を奪おうとする人に厳しいだけです。でも今は、奪おうとしてきてもいいから、柚木さんに起きてほしいと思っています‥‥‥」

「でも、奪わせないんでしょ?」

「当然です。それより、芽衣さんも声をかけてあげてください」


芽衣は柚木の手を握り、親指で手の甲を撫でながら声をかけた。


「柚木? 皆んな心配してるよ。もうクリスマスだし、早く起きないと年が明けちゃうぞー」


柚木に声をかけ終わり、結菜に言った。


「結菜はこれから暇?」

「暇ですけど」

「それじゃ、輝久の家に行ってあげなよ!」

「でも、何も約束してませんし」

「大丈夫だよ。輝久もずっと元気ないしさ、こういう時こそ結菜が側にいなきゃ! まぁ、嫌なら私が輝久の側にいるけど?」

「私が行きますり輝久君に近寄らないでください、ビッチ」

「ビッチって言った!? 今ビッチって言った!?」

「芽衣さん、病院では静かにしてください」

「あ、はーい」


芽衣は自宅に帰り、結菜は輝久の家に向かった。





(輝久君の家の前に着いたけど、ちょっといたずらしてみましょうか)


結菜は輝久の部屋がある二階を見上げながら、輝久に電話をかけた。


「はいもしもし」

「今、あなたの家の前にいるの」


そう言って電話を切り、すぐ掛け直した。


「今、あなたの部屋の前にいるの」


また電話を切り、すぐに掛け直して、少し怖い声で言った。


「今あなたの後ろにいるの」

「うあー!!」


外にも聞こえるぐらいの輝久の叫び声が聞こえた後、輝久は部屋の窓から玄関を見た。


「やっぱりいた! なんですか今の!」

「え? なにもしてませんけど」

「え‥‥‥今電話しましたよね」

「いいえ、してません」


輝久は青ざめた顔で外に飛び出してきて、結菜に携帯を見せた。


「ほら! 着信履歴!」

「何故でしょうね‥‥‥本当に電話なんてしてませんよ?」


想像以上に怯えた輝久を見て、結菜は思わず笑ってしまった。


「笑った! 酷いですよー」

「ごめんなさい。メリークリスマス」

「メリークリスマス!」

「上がってもいいですか?」

「うん! どうぞ!」


二人は輝久の部屋に入り、話を始めた。



***


「輝久君、ずっと元気ないですね」

「そうかな? でも、さっきのいたずらで少し元気でたかも!」

「怖がっていたのにですか?」

「結菜さんの笑顔が見れたから」


結菜さんは照れたのか、顔を赤くして黙り込んでしまった。


「心配して来てくれたの?」

「は、はい」


そんな結菜さんを僕は愛おしく感じて、結菜さんの両肩を優しく掴んだ。


「輝久君?」

「好きです」


結菜さんを床に優しく押し倒し、衝動的に結菜さんの服の中に手を入れてしまった。

結菜さんは顔を真っ赤にして、僕の手を掴んだ。


「わ、私そういうの初めてで」

「ぼ、僕もはじめてです」


結菜さんはゆっくり僕の手を離し、胸の近くまで手がいった時、結菜さんはグッと目を閉じた。


「嫌ですか?」

「は、恥ずかしいだけです」


その瞬間、部屋の扉が開いた。


「輝久? クリスマスケーキ買ってきたわよ!」


僕と結菜さんは、僕のお母さんを見て、更に顔が赤くなった。


お母さんは、僕が結菜さんの服に手を入れている光景を目の当たりにして、満面の笑みで言った。


「ゴムも買ってくるべきだったかしら?」


僕達は凄い勢いで正座した。

そして僕は恥ずかしさのあまり、大声で言ってしまう。


「なんでいきなり入ってくんだよ!」

「家族なんだからいいじゃない」


結菜さんはずっと顔を真っ赤にして、床を見ながら言った。


「ご、ごめんなさい。その、息子さんと、こんな‥‥‥」

「いいのよ! クリスマスだもん!」

「いや、大人として止めろよ!」


結菜さんが僕のお母さんを見上げる。


「結婚して責任を取ります!」


ふぁー!?なに言ってるの!? 

確かに結婚前提のお付き合いかもだけど!?

お母さんに言う!?このタイミングで!?



「結婚したら、私のことはお母さんって呼んでね!」


結菜さん僕のお母さんを見つめたまま、静かに涙を流した‥‥‥。


「結菜ちゃん!? ど、どうして泣いてるの!?」

「変なこと言うからだよ!!」

「違うの輝久くん。嬉しくて‥‥‥」


お母さんは結菜さんの家庭事情を知らないが、優しく笑みを浮かべて言った。


「冬休みなんだし、今日は泊まっていきなさい」

「いいんですか?」

「もちろん! 前に輝久を泊めてくれたからね。家には連絡しておくのよ?」

「はい!」


お母さんは、結菜さんの分のケーキも追加で買うために、再び家を出て行った。


「クリスマスに彼氏の家にお泊りって、なんだかロマンティックですね! それに、結婚したらお母さんって呼んでいいって」

「絶対結婚しましょうね」

「はい!」

 


 ※


その日の夜、三人で食卓を囲むことになったが、結菜さんに対する、お母さんの質問責めが始まった。


「結菜ちゃんは何か習い事とかしてるの?」

「小さい頃、習字とピアノとバイオリンを少ししてました」


金持ちの子供の習い事三連コンボだ。


「すごいじゃない!今は部活とかしてるの?」

「一応美術部に入っていることになってるんですけど、全然行ってないですね」


へー、結菜さん美術部なんだ。初知りだ。

確かにスポーツとかのイメージはないもんな。


「好きな食べ物は?」

「牛肉です」


怖い、結菜さん、なんか怖い。


「嫌いな食べ物は?」

「トマトです」


こんな調子で質問責めは続き、僕がお風呂に入り終わったあと、結菜さんがお風呂に向かった。



***



結菜は服を脱ぎ、浴槽を眺めて興奮していた。


(輝久君が入った後の残り湯! 私に大きな胃袋があれば、全て飲み干したい。飲みたい飲みたい飲みたい! ‥‥‥ん?)


結菜は輝久の大事な毛を見つけ、こっそりハンカチに包んで大切にしまった。



***



そして夜、同じベッドに一緒に横になり、僕は夕方のことを思い出して、また気持ちが高まってしまい、結菜さんをベッドの中で抱きしめた。


「結菜さん、ダメですか?」


結菜さんは僕の頬を両手で押さえ、タコの口みたいにされてしまった。


「見られて恥ずかしかったんですよ? 結婚して二人暮らしするまで我慢です」

「そんな」

「でも、キスならいくらでも」


結菜さんは僕の頬を押さえたままキスをしてきたが分かってない。結菜さんは全然分かってない。

高まった気持ちの中、キスなんてされたら我慢が余計に苦痛だ。

でも無理矢理は良くないし、我慢しよう。

彼女ができて初めてのクリスマスは、性なる夜にはならなかった。

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