なんで私だけ胸が小さい!
今日はM組全員で、ショッピングモールに来ている。
みんな仲良くなり、結菜さんも皆んなに心を開いて楽しそうに話している。
そんな中僕は今日、ショッピングモールでマフラーを買う予定だ。
「あの、マフラー買いたいんですけど、見に行っていいですか?」
僕が皆んなに聞くと、ニッコリしながら結菜さんが僕の手を握った。
「私も行きます」
「それじゃ私達は適当にぶらぶらしてるね!」
芽衣さんが僕達を気遣って、別行動にしてくれた。
結菜さんとマフラーを探しに服屋に入ると、そこにはまさかの愛梨さんがいた。
「あら、奇遇ですね」
「できれば会いたくなかったですね」
「本当に失礼ですね。私だって休日に結菜先輩の顔なんて見たくないですよ」
「あら、それなら両目をくり抜いて差し上げましょうか?」
会って早々二人はバチバチだ。
一緒に楽しいそうにビンゴゲームした仲なのに‥‥‥。
結菜さんと出かけると、必ずこういうことが起きる。
「二人は何を買いに来たんですか?」
「僕はマフラーを買いにきました。愛梨さんは誰かと一緒に来ているんですか?」
「はい、お父様と一緒に」
うわ、会ったら気まずいな‥‥‥。
「そ、そうなんだ。それじゃ僕は違う服屋さんを見に行くよ」
結菜さんと手を繋いだまま店を出ようとした時、手を繋いでない左手を、愛梨さんが握った。
「本当にいいのですか? 輝久先輩が生まれた理由に当たる人ですよ? 真実を話してみてはいかがですか? 今日はお母様はいませんし」
「輝久君、その女から手を離しなさい」
「ち、力強くて!」
結菜さんが愛梨さんから僕を離すように、右手を思いっきり引っ張ってくる。
「輝久先輩、チャンスは今しかありませんよ」
愛梨さんも負けじと左手を思いっきり引っ張ってくる。
普通に痛い!
「二人とも痛いです! 避けちゃいますよ!」
「お、輝久君じゃないか。ご無沙汰だね」
お父さん来ちゃったー!!!!
「お父様、輝久と聞いて、なにも気づきませんか?」
ちょっと!?愛梨さん何言ってんの!?
そんな確信に迫るようなこと普通言います!?
「輝久‥‥‥輝久‥‥‥もしかして君のご両親、てるてる坊主とか好き?」
「はい?」
なんなんだ僕のお父さんは。
天然なのか?馬鹿なのか?どこに、てるてる坊主が好きで子供の名前に
お父さんは完全に僕のことを忘れている。
だけどこれでいい。
今でさえ、この人が僕のお父さんって実感は無いし、特に情もない。
「行きますよ」
結菜さんが僕の手を引いて服屋を出た。
「輝久君、愛梨さんに近づいてはダメです。あの人は危ないです。何を考えているか分かりません」
「そうだね、お父さんに息子だってことを今更伝えても、相手の家庭を崩しかねないし」
そのあとは時に何も起こらなかったが、結局マフラーは買えずに、皆んなと合流して、全員でプリクラを撮ることになった。
撮影中、ずっと無表情の結菜さんを見て、結菜さん以外の女性陣は、結菜さんの身体をくすぐり始めた。
すると結菜さんは、くすぐったそうに笑いながら言った。
「皆さん! やめてください! やめ! やめて!」
芽衣さんが、撮れた写真を指差して笑いながら言った。
「結菜のこんな顔初めて見た!」
「わ、私だって笑う時は笑います」
恥ずかしがってる結菜さん、すごく可愛いな。
プリクラの落書きも終わり、印刷が終わるのを待っている時、柚木さんがプリクラ機の前で言った。
「結菜と輝久君、携帯にキスプリ貼ってるよね」
「バ、バレてたの!?」
「だいぶ前から気づいてたよ! 私も輝久君とのツーショット撮りたい!」
「ダメに決まってるじゃないですか」
芽衣さんが結菜さんの言葉を無視して、拳を振り上げて言った。
「よーし! ジャンケンで勝った人が輝久と二人でプリクラ撮れるってことで! じゃんけんぽん!!」
結菜さんも焦ってパーを出したが、他の女性陣も全員パーを出し、何故か一樹君もジャンケンに参加し、一樹くんのみがチョキを出し、一人勝ちしてしまった。
「さすが一樹君!! 救世主!!」
すると芽衣さんが、一樹君の腕に抱きつき、わざと胸を当てながら、なにか企んでいるような、悪い顔をして言った。
「一樹、私のこと好きなんでしょ? 私に勝ち譲って♡」
一樹君は顔を赤くして、芽衣さんの胸をガン見しながら答える。
「えっ! え、えっと、芽衣さんのためなら!」
「ありがとう!」
「一樹くん!?」
柚木さんと真菜さんが息ピッタリで言った。
「ずるい!!」
美波さんは芽衣さんの胸を鷲掴みにしながら、強く引っ張り始めた。
「私も胸さえあれば!! 胸さえあればー!!」
「美波!! 恥ずかしいって!!」
真菜さんが美波さんの体を掴み、芽衣さんから離し、優しく美波さんをなだめ始める。
「はいはいお姉ちゃん、帰ったら牛乳沢山飲もうね」
美波さんは怒りがおさまらないのか、真菜さんに掴まれながらジタバタ暴れた。
「牛乳飲んだら胸が大きくなるなんて嘘だ!! 都市伝説だ!!」
結菜さんは笑うのを我慢しているのか、口元をピクピクさせながらも無表情を保ちながら言った。
「大丈夫です美波さん。小さいとオシャレの幅も広がるって言いますし、美波さんは小さくても可愛いですよ」
それを聞いた美波は、急に落ち着きを取り戻す。
「結菜‥‥‥結菜だけだよ! そんな風に言ってくれるの!」
「ブフッ」
「なに笑っとんじゃー!!」
結菜さんが耐えきれずに笑うと、また美波さんは暴れ出してしまった。
※
その後、疲れて椅子に座った美波さんに、真菜さんが小さな紙パックの牛乳を買ってきた。
「はい、お姉ちゃん」
美波さんは不機嫌そうに一気に牛乳を飲み干し、紙パックをぎゅっと握りつぶす。
「不味い、もう一杯」
「はい、お姉ちゃん」
美波さんは二個目の牛乳も一気に飲み干してしまった。
「足りない! こんなんじゃダメ!! みんな! 明日は日曜日だし、牧場に行こう!! 牛の乳を空にしてやるわ!!」
それを聞いた結菜さん以外の全員が、笑顔で美波さんに手を振った。
「いってらっしゃーい」
「なんで!? 一緒に行こうよ!」
芽衣さんが呆れた表情で美波さんの横に座る。
「だって、もう十一月だよ? 牧場とか寒そうじゃん」
だがいきなり、結菜さんが美波さんの味方につきはじめた。
「牧場行きたいですよね、分かります」
「ほら! 結菜も行きたいって!」
「結菜は牛に会いたいだけでしょ?」
「別に興味ないです」
「そっかー、んじゃ行かなくていいんじゃない?」
結菜さんは無言で芽衣さんを見つめ続け、さすがの芽衣さんも折れてしまった。
「わかったわかった、私も行くよ!」
結局全員で牧場へ行くことになり、話が落ち着いた時、芽衣さんが僕に話しかけてきた。
「早く二人でプリクラ撮ろ!」
「いや、でも」
「いいから!」
芽衣さんは僕を引っ張って、プリ機の中に入ってしまった。
すぐにお金を入れて、これから撮影が始まるという時に、結菜さんが何も言わず笑顔で入ってきた。
「ちょっと結菜! 二人で撮らせてよ!」
「許せません」
二人はプリ機の中で揉み合いになってしまった。
あっ、胸のことではない。
僕は呆れて、ただひたすらピースし続けたが、その結果、ピースしている僕の後ろで、結菜さんと芽衣さんが揉み合いになっている、シュールなプリクラが撮れた。
これはこれでいい思い出だ。多分。
そしてその日は解散して、明日はバス停に集合してから、皆んなで牧場に向かうことになった。
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